17話 ポン先生が不在でヒナタへの中傷再燃
その時、インターホンが鳴った。
東西小学校、親の会の会長さんが来校された。
「今、学校から救急車が出て行ったんですけど、何があったのですか?」
心配してきてくださったのだ。
でも、これで、ぱっと噂が広まる。
「ぽん先生が倒れたらしい。3年2組はどうなるの?」
ママたちのグループチャットがまた荒れるだろう。
◆◆◆
「カンナ先生!」
ヒナタママ、山下涼子さんが暑い中来校された。
「カンナ先生と話したくて……電話したら今日はいらしていると聞いたので来てしまいました」
頭を押さえていた。
「ずっと頭が痛いんです。
ヒナタのハンバーガーを買ってきたんですけど、
ポテトの匂いがきつくて頭痛がするんです」
「この頃ずっと、頭の左側が重くて痛い。
もう何も考えられないくらい、いつもいつも重くて痛いんです」
ソファーに座ってため息をついた。
「いつまでこんなことが続くんでしょう」
その時、山下さんのスマホにカナママから電話がかかってきた。
山下さんは、わたしに聞かせるためスピーカーフォンに切り替えた。
「家庭教師代は確かに受け取った。当然のことだから、ありがとうは言わないわよ。
聞いて!! 山下さん。ポン先生、病気がみつかってしばらく休むそうよ」
「え!」
「いい先生だけど、高齢だからね。でも、仕方ないでは済まないわ。残念過ぎる。世の中教員不足で困るわ。有望な若井教員を辞めさせるモンペがいるから、困るわ!!」
「……」
「あああああ! また南山教頭が担任代理。教頭職じゃ担任は勤まらないのに。
元はと言えばヒナタのせい。もう、どうしてくれるの?!」
電話は一方的に切れた。
「今、3年2組の保護者達が情報を回して、またヒナタを責めているに違いないです。
気持ちはわかるけど、勘弁してよ、もう」
山下さんは、手で顔を覆った。
わたしは何も言えなかった。
「今日は、パパが帰ってきたら、全部話します。
そして、ヒナタをもう一度叱って欲しいと思っています。明日もカンちゃんと話したいです。来ていいですか?」
わたしはうなずいた。
次の日もヒナタママが来た。
「カンちゃん。待っても待っても、昨夜はパパはなかなか帰ってこなかった。
以前は20時帰宅だったのに、ヒナタが学校に行かなくなってから、
22時帰宅になっているんです。
23時過ぎ、パパはやっと帰ってきた。
そして、黙って夕食をとり、風呂に入ってベッドにもぐったのです。
話すタイミングを見計らって声をかけようとしたのに。
「ねえ、1分だけ聞いて」
「今は、仕事の考え事をしている。黙っていてくれ」
何も聞きたくないオーラを強烈に放っているんです。
せめて、カナママからの情報を伝えたいと思っていったんです。
「独り言だけど……カナちゃんママから電話があった。
家庭教師代の振り込みを確かに受け取ったと言っていた」
わたしは聞こえるように大きな声で話したんです。
「せっかく決まった担任の先生なんだけど、
今日、倒れてしまったんだって。
だから、また南山教頭が担任となるんだって、
だから、また、ほとんど自習になるんだって。
『世の中教員不足で困るわ』と言われたんだけど、
『若井先生を辞めさせたモンスターペアレンツは、山下ヒナタの両親』って
言葉を思い出して、辛かったの。
あの言葉が、私のいつも頭の中で巡っているのよ」
そしたら、パパなんて言ったと思う? ねえ、カンちゃん
「担任がいない?! 嘘だろ。そんなわけあるか? 普通誰か他の先生がやるだろう」
って言うの。
「だから来てくれていたホンダ先生が病気でお休みになるって」
「それに、他のクラスにも担任が病気で休みがちなクラスがあるらしいの。
教頭先生はそっちにも行くんだって。
東西小は今2クラス担任不在なんだって」
「嘘だろ。担任がいないとかありえんだろ」
「今は、人不足でそうなんだって。
若井先生、言い捨てだじゃない。明日から担任不在って。
冗談だろうって思ってたけど、現実にそうなったのよ」
「こんなことになるとは、あの時思いもしなかったな」
「そうね。だから、担任のいるクラスはどんどん学習が進む。
担任不在のクラスはほぼ自習。ドリルとかタブレットとか読書とか。
まあ、学習にはならないけど、学童保育代わりにはなっているらしい。給食出るし」
「今の学校、狂っているな。担任不在だなんて」
「それをヒナタのせいだと言われているの。きっと今夜もどこかの家庭で、
3年2組は担任不在、山下ヒナタとその両親のせいだって言われている」
「バカバカしい」
「ヒナタのことで迷惑かけているのよ。そうとう恨まれているわよ、パパ。
駅前の個別指導塾も3年2組の子どもで繁盛しているらしいわ。夏期講習で後れを取り戻すとか言って。
みんなお金をかけて学力維持しているらしいの」
パパは頭を振って、嫌なことを忘れようとした。
「そして、これ。今日郵便受けに入っていた。
カナちゃんの家庭教師代。振込依頼票、今月も3万5千円」
「冗談じゃない。なんで、よその家の家庭教師代を毎月毎月うちが出すんだよ」
「それだけ怒っているってことだと思う。
ヒナタと私たちのせいで、若井先生が辞めたからよ」
「普通、代わりの先生がくるだろうが」
「何度もしつこいなあ。来ないのよ!教員が足りないのよ。ブラックな仕事だから。
ヒナタみたいな子がいて、あなたみたいな親がいて、わたしみたいな親がいるから。
そういうことになっちゃうのよ」
パパは黙った。
「それと、ヒナタがうるさくするから近所の人が眠れないって言ってきて、2万円渡した」
「なんだって?」
「ヒナタがゲームに課金して欲しいって大声で叫んでいて、
それが近所迷惑になっている」
「もう学校にいかせろよ。近所迷惑なんだろ。
ゲームばかりして課金とか言い出すし。この話、もう明日は聞かないからな。
母親なんだからもっとちゃんとしろよ」
そう言われたのよ。夫とは分かり合えない。
離婚でしょうか。カンナ先生。
ヒナタママは泣いた。
校庭ではセミが鳴いている。
日直の先生が、麦茶を差し入れてくれた。




