第16話 夏休み ポン先生倒れる。パパは、聞きたくないという
更新のミスで15話差し替えました。15話から読んでいただけたらありがたいです。
理由は……作者のうっかりです。ごめんなさい!!
夏休みになった。
フリースクール・カナリアで毎年行っている納涼祭の案内がきた。
馬場代表が「カンナちゃんもぜひ何かやってね」と言うので、クイズコーナーを作った。賞品は手作りの巾着袋。
夏休み前から帰宅後にずっと縫っていたものだ。
会場は盛況だった。毎年恒例の浴衣姿でおじゃました。
今年は馬場代表の息子さん純一郎さんも来ていた。
「まあ、カンナちゃん、よく来てくれたわね」
馬場代表にハグされて、純一郎さんとも握手した。
「純はずっと部屋にこもってコクシの勉強なのよ。医者になるって本当に大変ね」
馬場代表は純一郎さんのことになると目を細めてしまう。
「そうなんですね。難しいお勉強をなさっているんでしょうね」
「そうなのよ。わたしなんかのぞき見してもわかりゃしないわ。……そうそう、カンナちゃん、今度うちに遊びに来ない? 可愛い子犬を飼い始めたの」
「え? そうなんですね。抱っこさせてください」
ふと気づくと、後ろに純一郎さんが立っていた。
「うちから学校に通えばいいよ。9月から」
「え?」
「毎日犬を抱けるよ」
「はい……」
「うちからの方が職場に近いだろ? そうしたらいいよ」
思いがけない提案にびっくりしていると、ミホちゃんのお父さんに声をかけられた。
「おやおや、誰かと思ったらカンナちゃんではないですか?」
「こんにちは。ミホちゃん来ていますか?」
「いやあ、今日はオンラインで参加だ。暑い日は外に出られないらしい」
「じゃあ、お土産持って帰ってあげてくださいね。巾着袋縫って来たんですよ」
ミホちゃんの好きそうな絵柄の物を選んであげた。
「カンナちゃん、余計なことだが、純さんはカンナちゃんに気があるらしい。付き合う気はあるのかい?」
「え?!」
「付き合う気がないなら、気を付けた方がいいよ」
「どうしてそんなこと」
「コクシの禁忌問題を踏んで不合格になっているって噂だよ」
「ええ?」
「つまり、医師国家試験には決して選択してはいけない選択肢、つまり禁忌肢が紛れ込ませてあるらしい。いや、俺も良く知らないんだけどね。それを選んだら患者が命の危険にさらされるなど、ヤバい選択肢らしい。だからね、どんなに成績が良くても落とされるってことらしい。そうそう4問以上禁忌肢を選んだ場合は即失格という話も聞いた。純さんは目下猛烈勉強中だから今度こそ合格すると思うけど、非常識なところもあるからねえ、俺たちの希望の星カンナちゃんが苦労する姿は見たくないってところさ。やめとけ、あんな男」
「は、はい」
何とも嫌な噂である。コクシは難しいらしい。でも、純一郎さんはとっても頭がいいらしい。頭がいいのに不合格が続いているのは、非常識だという理屈だろうか。
ふと気づくと、純一郎さんと目が合ってしまった。
こちらを見ているみたい。
「あー、カンナちゃん、久しぶり」
ひとつ年上の加藤さんだ。
「加藤さん、こんにちは」
「カンナちゃん、小学校に勤めているんだって? すごいなあ。最高にブラックだろ?」
「うーん。まあ、かなりブラックです」
「ぼくは農業をやっている。自分のペースでできるし、付き合うのはたいてい年長者。ぼくは同年齢が苦手だから、人生の先輩に可愛がられて気持ちよく働いているよ」
「そうなんですね」
「今年のスイカ割りは、ぼくたちが作ったスイカだよ。食べて行ってよ」
「はい、ありがとうございます」
スイカやかき氷を食べて、クイズ大会をして、子どもたちを楽しませてお開きになった。
翌日連絡が来て知ったこと。加藤さんが事故で怪我をしたということ。
心配だ。
8月、久しぶりに学校に行った。
わたしたち指導員は夏休みには勤務がない。
でも、親しくしている事務職員のミカさんが日直なので顔を見に来た。
すると、山下さんから手紙が来ていた。
カンナ先生
わたしはヒナタに対して何もできず疲れ果てました。
あの子はずっとゲームをしているんです。
夏休み前の一週間は、オンライン授業にログインさえしない。
そして、ゲームに課金してくれとしつこく言う。
ハンバーガーとポテトしか食べない。
カナママからのメッセージ情報にも傷つきました。
ヒナタのいない教室は平和なのだそうです。昭和の熱血教師ポン先生がびしっと指導してくれて、学習の進度が1組に追いついたそうなんです。カナちゃんは塾の成績があがったんですって。まるでヒナタがいないから良くなったと言われているようで悲しかったんです。そして、ポン先生の素晴らしさがこれでもかというほど書かれていました。
読むこと書くことを毎日毎日トレーニングしてくれているとか、漢字テストも範囲を指定してやってくれるとか、多くの子どもたちは100点がとれるようになって喜んでいるとか、わたしにとっては関係ない話なんです。
とどめに、「やっぱり子どもは勉強がわかりたいし、自分の力がついてきたことが嬉しいのね。ヒナタくんも学校に来ればいいのに」ですって。今のヒナタがそんな素晴らしい学校に行けるわけないんです。ヒナタが行って、またクラスが荒れたら何て言われるかわかりません。ただひとつ良かったのは、もう家庭教師はいらないから6月分までしか請求しないと書かれていました。5月分35000円を払っていないのに、6月分の35000円も請求されるのでしょうか。合わせて7万円。夫は払わなくていいと言います。もう、わたしはお金なんかどうでもいいです。
また、カンちゃん、話を聞いてください。わたしはカンちゃんにしかこの話ができません。 山下涼子
山下さん、まだまだ問題を抱えていて気の毒だなと思った。
ポン先生と情報を共有して、9月になって面談する子供たちの情報を確認した。
ポン先生はミカさんを手伝って植物に水をあげ、メダカなどに餌をやっていた。
しかし、夏休みの学校は暑い。
子どもがいないので教室のエアコンはつけていない。
だから、校舎内はサウナ状態。
職員室にはエアコンがつけてあるので、どうしても職員室に集まって事務作業などをしている。
ふと気づくと、ポン先生が胸を押さえている。
椅子から崩れ落ちてうずくまった。
「ポン先生、どうしたんですか?
誰か来て! 大変です!」
大声で叫ぶと、教頭やら養護教諭やらジムのミカさんやらがあちこちから走ってきた。
そこからは、早かった。
「呼吸あり、心拍あり」
「AED念のため取ってきます」
「そこのあなた救急車呼んでそしてここに戻ってきて」
「はい」
「そこのあなた、校長を呼んできて、そして一緒にここに戻ってきて」
「はい」
みんなの連係プレイで、みんなに見守られ救急車に乗せられてポン先生は行ってしまった。
ほんと、学校の先生ってすごい。
「救急講習を毎年受けているからね」
「いつでもどこでも救命できるわ」
救急車を見送って、みんな満足気だった。
でも、わたしはどきどきが止まらない。
ポン先生、ポン先生に何かあったらどうしよう。
ああ、9月の3年2組はどうなるの?
適応教室の見学はどうなるの?
わたしにはできない。
この人手不足なのに、どうなってしまうの?
それより、ポン先生の命はどうなるの?
苦手だったポン先生、今では尊敬しているんだけど、もっと一緒にいたい。
泣きそうな気分をミカさんが気づいてくれた。
「まず、お茶を飲もう」
お茶コーナーで冷たい抹茶ミルクドリンクを作ってくれた。
ミカさんと一緒に飲んだ。心が空っぽになっているのを感じた。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!
いかがでしたか?
感想をいただけるとすごく励みになります。
次回もどうぞお楽しみに!
さとちゃんぺっ!の完結済み長編歴史小説、良かったら読んでください。↓
歴史部門:なろう日間2位 週間2位 月間2位 四半期2位 (1位はとれない)
源平合戦で命を落とす安徳天皇に転生した俺、死にたくないので、未来の知識と過剰な努力で、破滅の運命を覆します
https://ncode.syosetu.com/n7575kw/




