第15話 パート辞めゲーム課金せがまれ。相談しても糠に釘
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謹んでお届けします。
教頭先生が補欠指導に入る3年2組。教頭先生はすぐに所用で席を外すから、教員免許もないのにわたしが見守っている。だけど、ポン先生が手の空いているときは指導してくれるから、私語はない。3年2組はずいぶんと改善されてきた。ヒナタくんは、休んでいる。
15時、帰ろうとしたら、ヒナタママ、山下涼子さんが来校した。正確に言えば、指導員であるわたしの勤務時間は14時半だ。でも、そんなの無理。
わたしは喜んで山下さんと面談した。
「カンナ先生! 聞いてください。
わたしのスマホは充電コードにつながって、リビングにずっと置きっぱなしでした。
今日の10時でした。スマホから着信音が鳴り響いたんです。わたしは気づきました。
OSオフィス!!
わたしは、一日4時間勤務していたパートのことを思い出したんです。勤務を入れていたことをすっかり忘れていたんです。
ヒナタが休み始めて、欠勤報告をしていたんですけど、最近はいろいろあって、それすら忘れていたんです。
応答ボタンをおそるおそる押しました。
「はい、山下です」
「山下さん! やっと出たわね。何回も電話していますよ。無断欠勤が続いているから」
「すみません。子どもの体調が悪くて」
「せめて連絡をしてくださいと言いましたよね!」
「なんだか、毎日すごく大変で、うっかりしていました」
「社会人としての最低のルールも守れないようでは、うちのオフィスで勤務していただくことは難しいです。本日限りで退職ということにしていただいてよろしいですか?!」
「え? 待ってください。これからお金も必要なので、ぜひ引き続き……」
「本日出勤してください。そして、私物をお引き取りください。退職の書類も書いていただきます!!」
「え? 本日って、それは難しいです。子どもを置いて外出できないんです」
「わかりました。書類は郵送します。私物はこちらで処分してもよろしいですか?」
「ええ? 待ってください。ごめんなさい。辞めたくないんです」
電話は切れてしまった。
せっかくみつけたよい環境の職場。みんないい人だったんです。
時給もそれなりによかったんです。
だけど、ヒナタが家にいる限り、何をしでかすかわからないので、外出できないんです。
カンナ先生、仕事は辞めるしかないですよね」
「うーん。学校に行かない子どもがいるご家庭では、やはり誰かが家にいた方が良いかと思います。あ、これは私の考えですけど。あの、フリースクールなどに通えるようになれば、またお仕事もできるかなって思います」
「そうですよね。それで、ヒナタの部屋をのぞいてみたんです。夜遅くまでゲームをしていたようで、モニターをつけっぱなしのまま寝ていました。今なら外出できるかも……って。
わたしは急ぎました。スマホをバッグに突っ込んで、着古したTシャツを脱ぎ、キレイ目シャツに着替えました。
職場はいつも通りだったんです。
でも、上司の松坂さんは、いつもより口数が少なかった。
退職届などの書類を受け取り、仕方なく記入しました。
私物をはすでにまとめてありました。
松坂さんに挨拶した。
「子どもが登校するようになったら、またここで働きたいんです。
よろしくお願いします」
「不登校なの?」
「はい、そんな感じです」
「家で何しているの?」
「ゲームしてます」
「そうなんだ。大変ね」
「……そして、わがまま放題。
……ハンバーガーしか食べないとか言うんです」
「まあ」
「そして、ゲームに課金してとか言うし」
「……」
「最近は部屋にこもったきり、出てこなくて。父親大嫌いで」
「……」
「すぐに癇癪を起こすんです。
窓開けて大声出して、近所迷惑になってるんです」
「まあ……」
「近所の人が怒鳴り込んできて……
もう、いろいろ、大変なんです」
話していたら涙が出て来ました。
すると、松坂さんは手を握って来たんです。
「そうだったの。
……あなたも戦っているのね。
でも、冷たいようだけど無断欠勤はこちらも迷惑。
あなたを採用することは2度とないわ。
でも、相談窓口を紹介してあげる。待って」
涙を拭き、待った。
松坂さんはパンフレットを持ってきました。
「山下さん、読んでみて」
「子どもの困りごと相談?
市役所青少年相談室?」
「今すぐここに行ってみたらどうかしら」
その足で、市役所に行きました。
青少年課相談室というところを探してたどりついた。
こちらでお待ちくださいと椅子をすすめられた。
担当の人をしばらく待った。
キューという椅子を動かす音がしたので顔をあげた。
50代60代くらいの女性が名刺を差し出した。
「お待たせしました。品川です」
「あの、ヒナタが……」
涙があふれました。
たどたどしい話かできなかったんです。
話が学校の事と家の事とママ友の事が、ごっちゃになって
話している自分でも何が何だかわからなくなってきた。
ただ、黙って聞いてくれたんです。
アドバイスなどは一切なかった。
そして、次回の予約をとりました。
「お母さんがあまり抱え込まないでね。
何か自分の趣味でも見つけて息抜きしてね」
この最後の一言は、余計なお世話だった。
藁にもすがりたい状態なのに、全くわかっていない。それで頭にきて、言ったんです。
「何もしてくれないんですか?」
品川さんはにっこり笑って言った。
「次回、またゆっくり話を聞きますよ」
急いで帰らないと、ヒナタが暴れているかもしれない。
ゆっくり外出するなんて二度とできないのに、わかってもらえないって涙が止まりませんでした。
ごめんなさいカンナ先生。こんな話して。カンナ先生も苦労しているって聞いて、ご迷惑かと思ったけど、カンナ先生に会いたくて……。
涙をぬぐうことも忘れて、山下さんはため息をついた。
ティッシュペーパーの箱を差し出した。
1枚とって涙をふいた。
「カンナ先生、わたし、わかったんです。あの雰囲気。あの相談員、元学校の先生だと思うんです。
学校の担任が辞めたことを話したから、私のことモンスターペアレントでクレーマーだと思っている? 解決策を提示してくれることはなかった。
悔しいよ。
とりあえず、ショップに寄って、ハンバーガーとポテトを買って家に帰ったんです。
ヒナタはまだ寝ていました。寝ている間は騒がないのでほっとできるんです。
今のうちだと思って、ネットで調べました。
子どもの困りごと相談の電話番号があったんです。
ここなら、なにかアドバイスしてくれるかもしれない。
そう思って、電話をかけたんです。
学校にクレームを入れて担任が辞めた話は、意図的にしなかった。
ヒナタの状態、パパが話を聞いてくれないなどの愚痴になった。
「発達障害と言われたことはありますか?」
そう聞かれたので、「ありません」と答えた。
ここはプライドがある。
それなのに、病院を勧められた。児童精神科!
電話番号を教えてくれた。
あの日、若井先生が言っていたことじゃない。
「発達障害だから、病院で薬をもらった方がいい」って。
パパの怒りに火が付いた言葉だ。
若井先生の言うとおりだったってこと?
悔しい。悔しいけど、もうここしか望みはない。
すごく緊張し、何度も立ち止まり、やっと電話をした。
「東西総合病院です」
つながってしまった。ドキドキする。
「あの、子供のことで、児童精神科に相談があるのですが」
「お待ちください。担当者と変わります」
「児童精神科の受付です」
ずっと心臓が飛び出す思い。
「今からですと、ご予約は4か月後になりますが、それでもよろしければ予約します」
「4か月? 今すぐ、今日でも診て欲しいんですけど」
「申し訳ございません。当病院では、待っている方が多いので、最低4カ月お待ちいただくことになります」
「わかりました。……他を当たります」
他の病院では受付の電話が混んでいるか、
「時間をおいておかけ直しください」というメッセージが流れた。
ネットで探した他の相談窓口に電話した。
「不登校のお子さんでしたら、フリースクールという居場所もありますよ」
いくつか紹介された。そして、お決まりのあのセリフを聞いた。
「お母さんが倒れないように。無理をしないでくださいね。あまり思い詰めないように。何か気分転換もしてみてくださいね」
余計なお世話だ!!!
ネットでフリースクールの詳細を調べているとヒナタが起きて来た。
ハンバーガーを食べ始めたので、声をかけた。
「フリースクールっていうのがあるらしいよ。行ってみない?
さすがに友達と遊びたいでしょう」
珍しく素直に「だね」といったんです。
何も解決策がなくって、ごめんなさい。上司と相談してみます。ヒナタさんのこと。
ここの学校にはもうヒナタは来させられないと思っています。うまくいくはずがないです。わたしがカンナ先生に会いたいだけ。カンナ先生しか、わたしを理解してくれる人はいません。この地球上で、ただ一人の理解者なんです。
山下さんは泣いた。
わたしは、南山教頭をやっとつかまえた。
「教頭先生、最近ヒナタさんオンライン授業つなげていないんです」
「そうなの?」
「ヒナタさんこそ、適応教室にくるべき子どもじゃないでしょうか」
「ん?! そうね。その通りだわ」
「電話をして明日の放課後にでも……」
「教頭先生! 保護者さんから電話です。2年2組ユウさんの」
教頭先生は忙しすぎるようだ。
でも、ヒナタさんが心配。
保護者に電話ができるのは、教員免許をもっている教諭職だ。
わたしは無力だなあと感じた。
ポン先生は、素早く搬送されたので速やかに治療ができ、
明日にも退院できるそうだ。
でも、すぐに出勤はできないだろう。
こんなにストレスのある職場では体によくない。
でも、早く出勤して欲しいなあ。
カンナはポン先生の出退勤カードを見た。
ずっと「退勤」のままになっている。
寂しいなあ……。
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次回もどうぞお楽しみに!
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