第13話 パパに動画を見せる。思った通り修羅場
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謹んでお届けします。
「カンナ先生」
翌日に適応指導教室を訪問してきたのはヒナタママ、山下涼子だった。
「カンナ先生、わたしはあれから道に迷いながら、やっとのことで、家に帰りました」
「そうだったのですね」
「頭がうまく働かなくって、慣れた道なのに迷ってしまいました。手渡された請求書の入った封筒。と『あなた、友だちいないの?』の言葉が頭の中をぐるぐるぐるぐる巡っていました。一番言われたくない言葉だったんです。ごめんなさい、勤務時間でもないのにカンナ先生まで付き合わせてしまって」
「いえ……」
「はい、でも、皆さんの怒りが、やっと理解できました」
「ヒナタさんの様子はいかがでしたか?」
「昨日、ヒナタはパンケーキを食べて、遊びに行ったようでした。わたしが家に帰ると、作り置きしていたカレーライスをたくさん食べていて、いつも通りテレビを見ていました。いろいろ悩みましたが、話を切り出すタイミングがつかめなくて『こういうことは、父親と一緒に話そう』って思ったんです。テレビって言うか動画サイトかな。よくわかりませんが、あの子笑いながら観ていました」
「そうだったんですね」
ヒナタの母親は疲れ果てた顔をしており、よく見ると昨日と同じ服を着ていた。お風呂にも入らず、メイクも落とさず、ここにきたのだろうか。
「カンナ先生、聞いてください。わかってくれるのは、先生だけなんです。21時ころ父親が帰ってきたんです。わたしは『ヒナタのことで話がある』と言ったんです。そしたら、あの人なんて言ったと思います?」
ヒナタの母親はふうと一息ついてふざけたような声を出した
「えー。今夜は辞めてくれない? 何も聞きたくない。いろいろあって、やっと帰ってきたんだよ」
「……」
「ふざけているでしょ、あの人。そして冷蔵庫からビールを取り出し、プシュっと開けて、美味しそうに飲んだんです。テーブルの上のから揚げをつついて、スマホの動画を見始めたんです。頭に来ました」
「そうだったんですね」
「そうなんです。似た者親子なんです。あの人たち。それで『わかった。じゃあ、何も話さないからこの動画見て』って言ったんです。あの人も動画好きだから。カナちゃんの動画をスマホで録画したやつを見せました。そしたら、あの人なんて言ったと思います?」
「さあ」
「あの人、『嘘だろ。フェイクだろ。今、AIで作れるんだよ、こういうフェイク動画』って言ったんです」
それからもしばらく見入っていて、ヒナタが机の上を走りだしたところで急に立ち上がりました。『ヒナタ、ちょっと来い』って。あの人、ヒナタが呼んだら来る子だと思っているみたい。当然、ヒナタはテレビの前から動きません。『ヒナタ‼ 来い!!』って何度も言ってましたが、来るはずないじゃないですか、あのヒナタが」
山下さんはため息をついた。
「それでわたし、言ってやったんです。『パパ! 呼んでも来ないよ。ヒナタはそういう子よ』って。そしたら、『じゃあ、俺が行く』ってヒナタのところに行きました。そして、『なあ、ヒナタ、これはなんだ。嘘だろ? フェイク動画作られたんだろ?』ってまだわけわかんないこと言ってました。ヒナタはスマホをのぞき込んでじっと見ていました。
『それ。どうしたの? ママ。ママのスマホだね。学校で撮ったの?』ってヒナタが言うんです。『カナちゃんが持ってきてくれたのよ』って言いました。悪びれることもなくヒナタは観てました。パパが『なあ、ヒナタ嘘だろ?』って言いました。
ヒナタはスマホを冷蔵庫に投げつけました。だからほら、こんな風に画面が割れてしまいました。パパがとうとう大きい声を出しました。『なんでこんなことするんだ』って。『つまんないからだよ。みんなを楽しませてんだよ』って」
山下さんは、ここまで一気にしゃべった。山下さんの気持ちを考えると、心がかきむしられるような気がする。
「山下さん、大変なことになってしまって……すみません」
「先生が謝らないでくださいよ。カンナ先生だけが理解者なんですから。……それから、パパはヒナタの胸倉をつかんでゆすってました。怖かった。
『お前、こんなことやってたのか? あの先生が言っていたことって、本当だったのか?』って言いながら。
ヒナタはヒナタで『だって楽しい学校にしましょう。みんな協力してくれって若井のじじいが言っていたんだよ。ぼくは、楽しい学校になるように毎日がんばってきた』って言うんです。ヒナタは悪いこととは思っちゃいない。
それでパパはブチ切れました。
『お前ってやつは……ヒナタ、お前はもう学校行くな』
そうパパが言ったんです。そしたら、ヒナタは、『行かねーよ。死ねよ、バカ』って言って。
それを聞いて、パパはすごく怒って、『親に向かってその口のききかたは何だ!』と胸倉をつかんでもっと強くゆすりました。そして、それからは殴る。殴り返す。押さえつけるの大乱闘。パパが『謝れーーーー!』って言って、ヒナタは『やだもんぴー』って言うんです。
そして、『ママ、助けて。パパの虐待の動画撮って』っていうもんだから、パパは完全に怒りが頂点に達してしまいました。ヒナタはパパから逃げだして、トイレに隠れました。パパはトイレのドアをドンドン叩いて、『ギャクタイだって? よくそんな言葉知ってるな。お前、そうやっていつも大人を陥れているんだな?若井ってセンコウも挑発したんだろう!』
パパはやっとヒナタの言動に気づいたようでした。……カンナ先生、もうおしまいです。家庭も崩壊しました」
「えっと……わたしには何ともできなくて、ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「先生、謝らないでください。もっと情けない気持ちになるから。それから、夫に伝えました。今日カナちゃんたちが来て、この動画を見せてくれたこと。その後、カナちゃんのお母さんとファミレスで会ったこと。ママチャットで、他のママたちがヒナタのこといろいろ言っているの見せられたこと。『若井先生を辞めさせたモンスターペアレンツは山下ヒナタの両親』ってずっと言われてたのを知ったこと。
そして、……『校長室に行った時、若井先生の話をよく聞いて、ヒナタを叱って謝らせた方が良かったんじゃない?』って言いました。
夫は『そんなこと、お前あの時、言わなかったじゃないか』って言いました。そして、追い打ちをかけるように、『ヒナタだけが叱られて可哀そうだから一緒に学校に行ってって頼むから、父親らしくびしっと言ってやったんじゃないか』って言われました」
「はい」
「あの時は、確かにそうだったんです。わたしも知らなかったし、夫も知らなかった。ヒナタの言うことだけを完全に信じて、担任が悪いと思い込んでいました。でも、今、わかったんです。若井先生が言う通りだったんです。トイレからヒナタがワーッと泣く声が聞こえました」
「……」
「そして夫に、カナちゃんのお母さんから家庭教師代請求されたことを話して封筒を手渡しました。中を見ると、請求3万5000円とあり、今月末までに、振りこんで欲しいとメモがあり、銀行口座が書いてありました。
夫は『払わなくていい。そんなの、勝手に自分たちで決めてやらせてることだろ?』って言いました。もしかしたら、他の家からも請求されるかもしれません。それも不安で……」
「うーん、そんなこと、皆さんしないと思いますけど」
「カンナ先生、わたしね、思うんです。もし、時間を戻せたら、あの時に戻って、『先生すみません、息子に言い聞かせます。ヒナタ、授業妨害をしてはいけません。先生に謝りなさい。授業妨害するなら、学校に行かせない。ご飯もおやつも抜きだからね』って言いたいです。でも、時間は戻せません」
山下さんは、そこまで話すと、タオルを顔に当てて泣いた。
無力。わたしには何もできないと感じた。ただ聞くことはできた。山下さんを理解することができた。
山下さんの肩に右手を置いた。ポン先生が辞めていく若井先生にやったように、とんとんと肩を軽く叩いた。
ポケットからカナリンの黄色いハンカチを取り出した。ぎゅっと握った。
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