第12話 ヒナタママ、カナママに呼ばれる
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謹んでお届けします。
「すごい車ですね。こんな車、初めて乗ります」
わたしは、何を話したらいいのかわからなくて、そんなことを口走り、ああ失敗したなと思った。カナママは何も言わずに運転する。学校を通り越し、郊外に出た。
◇◆◇
わたし、山下涼子は郊外のファミレスにいる。カナの母親に誘われて、しぶしぶここに来た。ヒナタが帰宅し、カナちゃんたちが家に来た。
カンナ先生という指導員も一緒に。
そして、AIで偽造したようなフェイク動画らしきものを見せられた。
今も信じていない。ヒナタがそんな授業妨害をしているなんて。ヒナタをみんなからの誹謗中傷から守りたくて、こんなところにまで来た。
ファミレスの店員さんに案内されて、カナの母親、そして、指導員のカンナ先生もきた。みんなヒナタだけを悪者にしたいみたいね。その手にはのらないわ。
「山下さん、こんにちは」
「こんにちは」
「幼稚園での役員会の話し合いで何度も来たファミレス。楽しかった思い出がいっぱいね」
そう言いながら、カナの母親の表情は,これまで見たことがないほど厳しかった。
「ここでの支払いはわたしがします。カンナ先生も山下さんも何でも好きな物を頼んでください」
「いえ、自分の分は自分で支払いしますので、大丈夫です」
わたしは急いで言った。
カンナ先生も「公務員ですから、自分の分は自分で払います」と言った。
「いいのよ。黒川先生。勤務時間が終わっているので付き合わせてしまって、申し訳ないと思っているの。甘いものでもいかが? もちろんドリンクバーは利用されますよね」
カナの母親はパネルを操作して、注文したようだ。
わたしは軽く震えていた。
「いえ、今日は自分で支払います。それと、ドリンクバーだけで結構です。ヒナタがみんなに責められて可哀そうだから来たんですから」
ふたりはパネルで注文し、紅茶を取ってきた。二人が戻ってわたしも紅茶を取りに行った。
それから、沈黙が続いた。紅茶は飲んだ気がしない。
カナの母親が先に口を開いた。
「あなたは……ヒナタさんが学校で羽目を外して、授業にならないって知っているのですか?」
「すみません。若井先生に聞いていたけど、そこまでひどいとは思わなくて。カナちゃんが動画を見せてくれたので、見せていただいたけど……。でも、今はAIでフェイク動画が作れるらしいです。わたしだけはヒナタの味方でいたいと思います」
「フェイク動画だとおもっていらっしゃる。カンナ先生、フェイク動画ですって、あお話にならないわね」
「知ったのは、ほんの1時間前なので、ヒナタにはまだ会っていなくって……確かめてみたいことには……」
カナママは深いため息をついた。
「若井先生、辞めてしまいましたね」
「ええ」
「代わりの先生が決まらないらしいですよ。だから、忙しい教頭先生が仕事の合間に入ってくださっている」
「ええ」
「それについて、ヒナタさんのお父様・お母様はどう責任を取ろうと思われているんですか。3年2組32人の学習が滞っているんですよ。はっきり言ってヒナタさんのせいで」
「責任と言われても、夫にはまだ話していないし、今夜話します」
「カナの塾、月例テストがあるの。他のどのクラスよりもうんと遅れていて、
テストの成績下がったの。本人も悔しくて泣いている。明日から、学校休んで勉強するって言ってます。校長先生に相談したら、オンライン授業は出席扱いにするそうです。タブレットで教室とつないで、授業を受けることになります。ヒナタさんも、そうなさったらどうかしら?」
「学校を休ませるのはちょっと……」
カナの母親はまた紅茶を飲んだ。落ち着こうと努力しているようだ。そして、思い切ったように顔をあげた。
「見て欲しいものがあるんですけど」
「はい」
「これは、みなさんの同意を得たので、あなたにお見せするものです。逆恨みなどなさらないでね」
カナママはスマホの画面を見せた。
わたしはそのスマホを手に取った。
グループチャットの画面だと気づくのに少しかかった。
「お疲れさま(泣)今日もユウが荒れて大変。1時間目から4時間目まで自習と言う名の休み時間で、ヒナタは相変わらずうるさいし、もうやだって」
「おつかれさま(泣)アイリもそれ。明日から行かないって。泣いていたけど塾に送って行った、塾の友達と話してすっきりしたみたい」
「ヒナタママ知ってるのかしら」
「知らないんじゃない?」
「知っていて放置なら許せない」
「みんなで押しかけて教える?」
「お疲れ様(泣)ショウタが荒れてる。1組の算数がどんどん進んで、テストも返してもらったのに、ぼくたちは今日もうるさいヒナタをにらむだけだったって。せめてヒナタが休んでくれたら、自習できるから勉強できるのにって」
「先生が来れないのは仕方ない。ヒナタ両親の犯した罪だから。教頭先生はがんばってくれている」
「若井先生を辞めさせたモンスターペアレンツは山下ヒナタの両親」
「それ。モンペヒナタ親」
「子どもの塾代、家庭教師代、請求しようか」
「みんな、若井先生が辞めてから勉強がヤバいって気づいて、塾に入れたものね」
「カナちゃんの家庭教師もそこから始めたものね。これは山下ヒナタ家の犯罪でしょう」
「請求したら、目が覚めるかも。学校休ませてくれるかも」
まだまだ続いている。
これ以上読めなかった。
「あ、もう十分です」
心臓がばくばくする。
「カンナ先生も見ていただけますか?」
カナの母親がカンナ先生に手渡した。
カンナ先生は少し読むと、苦しそうに顔をゆがめ、冷めた紅茶を一気に飲んだ。そして、スマホをカナの母親に帰した。
「いいのよ、カンナ先生、最後までもっともっとご覧になって」
「いえ、もう」
沈黙が流れた。わたしの心臓はバクバクが止まらない。汗が噴き出す。涙が流れる。
「山下さん」
「あ、はい」
涙で顔はぐちゃぐちゃだった。カナの母親が封筒を差し出した。
「家庭教師代。請求しますね。みんなも塾代を請求してくると思う」
「そんな……」
「それと、当然、ヒナタさんは明日から休ませてくれますよね。ママチャット見たでしょ。いくら鈍感なあなたでも、わかりますよね。カナの撮った動画も見たんでしょ。フェイク動画なんかじゃありません。今日撮ったばかりのほやほやの現実です。
まさかそれを知って、何も変わらないって、ないですよね」
わたしは目をぎゅっとつぶり、うなずいた。そして、封筒を受け取った。
「ヒナタと話して、夫と相談します」
「クラスの子供たち、そしてその両親、祖父母、みんなヒナタさんに怒っている。
そして、ご両親の対応を怒っている。若井先生を辞めさせたのは、あなたたちの間違いだった」
「ヒナタが、ぼくだけ叱られるっていうから」
「叱られて当然のことをしていたのだから、『叱ってくださってありがとうございます、若井先生』と言うべきじゃなかったの?」
「あの時は、ヒナタにも悪いところがあるとはわかっていなくって。ヒナタが『先生が悪い』というから」
「早くお知らせすればよかったわね。これは4月2週目から、ママチャットで共通認識されていたことなんですけどね。……あなた、友だちいないの?」
わたしは目を見開いた。
目の焦点が合わない。音が何も聞こえない。頭の中がパニックになったようだ。請求書の入った封筒をぎゅっと握りつぶした。
「友だちいないの?」
カナの母親は、もう一度言った。その時、カナの母親のスマホが震えた。
「ちょっと失礼」
あの人は、立ち上がって外に出て行った。
「カンナ先生、すみません。一番いやな言葉を言われてしまいました。中学・高校と、わたし、このセリフが一番怖かったんです。だから、無理にでも誰かと友だちごっこをしていたんです。
一緒に行動する友だちはいたんですけど、友だちと言える人はいなかった。
だけど、今、ヒナタがこんな大変なことになっているってこと、誰も教えてくれなかった。そのことがショックです。チャットのグループに入れてもらえなかったのもショック。つまり、わたしには友だちがいない。ヒナタのせいで、外されているんでしょうか?」
「いえ、わたしにはわかりません」
「カンナ先生、私はダメな発言などしませんでしたよね。後日、裁判になったら証言してくださいね」
「裁判、そのために連れてこられたのでしょうか」
カンナ先生もいっそう暗い表情になった。
◆◆◆
「カンナ先生帰りましょう。会計は済みました」
わたし、黒川カンナは、カナリンのハンカチを握りしめ、千円札を取り出したが、受け取ってもらえなかった。
「300円の紅茶をご馳走したことは、わたしから校長先生に報告させていただきます。安心なさって、カンナ先生」
それからカナの母親の高級車で学校まで送ってもらった。校長室で一通り話をして帰って行った。
「すげえ車だなあ。乗ってみたい」
そんなことを言うポンは本当にあんぽんたんだ。
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