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適応教室指導員 ポン&カン ~「助けて」と言えなかった親子のための教室~ ここは孤独と向き合う最前線です  作者: さとちゃんペッ!


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第11話 ヒナタママ……震える

ご覧いただきありがとうございます!

謹んでお届けします。


午後になってもカナは不安げだった。時々涙をぬぐっている。

わたしはカナの下校に同行することにした。ヒナタの家に寄って帰るそうなので、興奮して事故などに遭わないようにしたかった。


「カナはヒナタと同じ幼稚園だったの。そこでママ同士が仲良しになったから、ヒナタの家には何度も遊びに行ったよ」


ヒナタの家に着くと、約束通り、ユウちゃんとアイリちゃんも来ていた。

ユウちゃんがインターホンを鳴らした。

「あら、皆さん、いらっしゃい。こちらは東西小の先生ですか? お世話になっています」

「黒川カンナと申します。よろしくお願いします」


ヒナタくんの母親は泣きはらしたカナの顔をのぞき見た。

「カナちゃん、どうしたの? 暗い顔して」


いい匂いがする。パンケーキが焼ける匂いのようだ。

カナは口を尖らせた。

「ヒナタママはお菓子作りが上手なんだよね。ヒナタは学校であんな態度なのに、

家に帰ると優しいママがパンケーキを焼いて待っているんだ」


そう言ってしまうと、カナはますます険しい顔になった。深くため息をついて、どこから話そうかと考えているようだ。でも我慢できなくなったようで、みるみる涙があふれてきた。


ユウちゃんが口を切った。

「あのね、おばさん。若井先生が辞めちゃって、毎日自習ばかりなんです。教頭先生が来てくれるって聞いていたけど、業者さんが着たり、お客さんが来たりして、結局自習ばかりなの」


ヒナタママの顔がくもった。

「え? そうなの? 隣のクラスの先生は?」

「1組の林田先生も 時々は来てくれる。『次の時間は誰も来られないからドリルを進めてね。終わった人は読書かタブレットのドリルをやってね』とか言うけど、そんなの誰もやらないで遊んでいるの。誰かの席に集まって、わいわいって感じで」

「そんなのよくないわね。1組も2組も同じように見てくれなくちゃ」

「1組だって、いろいろな子がいるから、林田先生も大変なんです」

「あら、そうなの?」


ユウちゃんは黙った。カナは涙が止まらない。アイリちゃんもメガネを外して涙を拭いた。そして、思い切ったように息を吸った。

「こうなったのヒナタさんのせいなんだけど。おばさん、わかってますか?」

「そんな、ヒナタだけの問題じゃないでしょ?」

ヒナタの母親は状況を理解していない様子。何か言いたかったけれど、わたしもうまく伝えられそうにない。もしかしたら、怒らせてしまうかもしれない。


カナが大きな声を出した。

「カナ、明日から学校行かないで家で勉強します」

「そんな」

「ヒナタのせいで、あのーー、つまり、ヒナタが一人で狂ったように机の上跳ね回って、みんながやめろやめろって言って、もう地獄。こんなの学校じゃないです。ヒナタってテンション高くて、急に大声出すし、もう、お前サルか?って感じ」

「まさか、……ヒナタだって、そこまではしないでしょう。みんなを楽しませたいって思ってるみたいよ」

「そうですか。わからないならもういいです。カナは明日から学校に行きません。時間の無駄。家庭教師つけてもらう。パパが請求書は山下ヒナタの家に回すって言ってました」



「ええ?! ちょっと待って。それはできないわ」

「教室の様子、タブレットで撮ったから、見ますか? ヒナタの様子を知ってください」


カナちゃんはランドセルからタブレットを出した。ユウちゃんとアイリちゃんが、腕を組んでヒナタママをにらんでいる。わたしはただおろおろするばかり。


カナちゃんがタブレットで動画を再生させた。ヒナタが「ヒエー」と叫んで、みんなの机の上を走っている。子どもたちは諦めて、席を立ち、窓際にならんでいる。他にもこの動画を撮っている子が見える。


「ええ?! これがヒナタ? こんなことしているの?」

「若井先生がいたときも、こんな感じでしたよ。あの頃は机の上は走らなかったけど、こんな感じの迷惑行為をずっとやってました」

ユウちゃんが、とうとう一番言いたいことを言った。


「おばさん、ヒナタって授業を妨害しています。学校に来させないでください。私たち、もううんざりしているんです。この動画をスマホで撮って、お父さんにも見せてあげてください。ほら、早く」


ヒナタの母親はカナの動画をスマホで撮影した。その時のヒナタママは震えていた。


カナのキッズ携帯が震えた。カナは一言話していた。

「ヒナタママ。うちのママが会いたいそうです」

そして、携帯を渡した。二人の母親は話をしていた。


キッズ携帯をカナに返すと、ヒナタの母親がこちらを向いた。

「あの、そちらの先生。この子たちの言うことは本当なんでしょうか」

「え、それは、……多分、本当です」

「そんな……」


それから、わたしはカナちゃんを家まで送った。泣きじゃくって危ないと思ったから。他の子もついてきた。みんな無言だった。家に着くと、カナちゃんの母親が心配そうに玄関まで出ていた。カナちゃんがうわーと泣いて母親にしがみつく。

「あ、職員の黒川です。ヒナタさんの家に寄って帰ってので、遅くなりました。申し訳ありません」

母親は、じろっと睨むとカナの背中を押して家に入って行った。

ユウちゃんたちは「じゃあね」と言って帰っていった。

カナちゃんの大きな家。屋根付きの駐車場には高そうな黒い大型車。犬の鳴き声が家の中から聞こえた。わたしは心に積もった子どもたちの感情におしつぶされそうになった。


「この仕事、向いていない。辞めたい」

そう思った。


再び、ドアが開いた。

「カンナ先生ですって? カナがお世話になっているようですね。これから時間ありますか? 一緒に来て欲しいところがあるんです。校長先生には電話しておきますので」


最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

いかがでしたか?


感想をいただけるとすごく励みになります。

次回もどうぞお楽しみに!


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