第10話 若井先生辞職、教頭先生が3年2組へ
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謹んでお届けします。
若井先生、来ていたらいいな。
次の日の朝、そう思いながら出勤カードをかざした。
ピロリン
若井先生のカードは「退勤」のまま。
ミカさんが囁いた。
「カンナさん。若井先生は、本当に辞めてしまったの」
「え……」
「校長先生が家に行って説得したみたいだけど、何ならしばらく休んで良いとさえ言ってくれたようだけど、決心は固かったみたい」
「そんな……」
「実家の家業を継ぐそうよ」
「残念です。さみしいです」
「南山教頭が、3年2組の担任代理として授業をしたり生活全般の指導をすることになったみたい。次の担任を探しているけれど、東西市は圧倒的に教員不足で四月の新学期から定員を満たしてない学校もいくつかあるの。すぐには見つからないわね」
「そんなことって……」
3年2組の保護者に若井教諭退職と担任代理のお知らせがオンラインで配布された。
適応教室には、まだ定期で通ってくる子どもがいないので、わたしも3年2組に入ることになった。
教頭先生は丁寧に指導をしている。
「授業の時は、私語をしない。私語っていうのは勝手なおしゃべりのこと。勝手にしゃべってはいけないのよ。ヒナタさん、いいですか?」
ヒナタは椅子を前後に揺らしながら不満そうな表情をしている。
「どうしてだめなの? べつにいいじゃん」
隣の席のカナが心配そうにヒナタをみている。そして、小さい声で言った。
「そうやって、先生に言い返すのやめて。静かにしてよ、ヒナタくん」
「心の声がもれるんだよ。ああ、今日の給食何かなあ。なあ、ケンスケ、今日帰ったらゲームやろうぜ」
ヒナタは大きな声で言いたいことを言う。
カナは悲しそうに声をふりしぼった。
「静かにしてよヒナタくん。教頭先生が言ってくれているんだよ」
ヒナタは突然立ち上がり、カナの筆箱を取った。そして、カナの真似をした。
「しずかにしてよー、ひなたくーん。教頭先生がー言ってくれているんだよー。だって、あはは。つまんね。みんなバカばっかりだ」
南山教頭は、ヒナタの手から筆箱を取り返し、ヒナタの教科書を開いた。
「やめなさい、ヒナタさん。さあ、算数をやりますよ。どこまで進んでる?」
「進んでいません。5月の運動会終わって、算数は全然やってません」
「え。ということは、少し遅れている?」
「授業の時、ヒナタが先生をあおるから、説教タイムが多かったんです。または、自習にしてヒナタとケンスケが叱られていた。だから、勉強やってません」
「みんなはその間どうしてたの?」
「タブレットで遊んでいた」
「ヒナタとケンスケが悪いんです。先生をあおってふざけ倒すから」
「ケンスケさん、そうなの?」
「だって、ヒナタがやろうっていうから」
「ヒナタさんそうなの?」
「だって、勉強つまんないだろ? みんなを楽しませる方が大事だろ? だって、若井のじじいが言った一番良い言葉、覚えてる? 『みんな、楽しいクラスをつくろう。協力してくれ』だったよね。それをやってあげているだけ」
カナが言う。
「ヒナタくん、楽しいクラスってふざけることじゃないと思うよ。わたしは勉強したかったよ。塾でもこんなに遅れているの信じられないって言われているんだよ。このクラスは特別だって。だから、わたしは、家に帰って算数と国語と理科と社会を、進度通りに勉強させられているんだよ」
「え。そうなの?」
「ヒナタくん、みんな、勉強したいって気づかなかったの?」
ヒナタは黙った。そして、真面目な表情で言った。
「楽しい学校生活を送りたいって、4月の自己紹介カードにみんな書いていただろ? 若井のじじいだって『楽しいクラスにしよう』ってあんなに言ってたじゃないか。それなのに、若井がつまんねえことばかりするから、ボクが楽しませなくちゃって思ってがんばって楽しませていたのに、そんな言い方されるとは思わなかったな」
カンナはヒナタの話に目を丸くした。
「常識ってものがないの? ヒナタ」
3年2組のみんながヒナタの言葉を待った。
「あー、つまんねえな。こんな話つまんねえ。遊ぼうぜ、ケンスケ」
そういうと、ヒナタはいたずらっ子の顔になった。
子どもたちの筆箱をどんどん取っていく。ケンスケが「やめようよ」と言った。
でも、聞かない。両腕に抱えきれないほどの筆箱を集めて窓際に立った。
「捨ててやる」
南山教頭がメモを取っている。
わたしはヒナタくんの側に行って「もうやめよう」と言った。
ヒナタはわたしの目をじっと見つめた。
「カンナ先生まで……。ひどいよ。みんな」
その時だった。
「トゥルルル」
インターホンが鳴った。
南山教頭は、鳴りやまないとわかると、仕方なさそうに受話器を取った。
「はい、わかりました。今行きます。カンナさん、ちょっといい? 事務室のミカさんからの連絡でした。業者さんが来ていて配膳室の修理箇所を知りたいそうです。わたしが行かなきゃ誰もわからないの。ここ、見ていてくれる?」
私の頭はパニックになった。
こんな状態の子どもたちの指導なんてできない。
だいたい、わたしの仕事じゃない。
目の前の子供たちは、それは理解不能の未知の生物。
「教頭先生、ごめんなさい。わたしにはできません」
南山教頭は深くため息をついた。
「そりゃそうよね。ごめん、あなたは適応教室指導員。ねえ、ヒナタさんだけの話を聞くのはどうかな。やってもらえるかな」
わたしは……仕方なく引き受けることにした。
「わかりました。ヒナタさんだけなら……」
そして、教頭先生は子どもたちに向かってパンパンと手を打った。
「ごめん、教頭の仕事をしてくる。みんなは、自習。ほんと、ごめん。また話を聞くから」
「さいあく―!」
「教頭先生が担任って、なんだか意味ないね」
「悪いのはヒナタでしょ。教頭先生はがんばってる」
教頭先生はカンナに耳打ちした。
「できるだけ早く帰ってくるから、怪我をさせないで。ヒナタさんの話をきいてやってね」
子どもたちはタブレットを出して、好きな動画を見たりおしゃべりをしたりする。
カナは机にうつ伏して少し泣いていた。
「こんなの、いや。ヒナタのママに言いつけてやる」
ヒナタが筆箱を床に落とし、逃げ出した。
わたしはヒナタを追いかけた。なかなかつかまらない。
カナが立ち上がった。
「もう、こんなのいやああああ。今日、ヒナタの家に行って、お母さんに全部話す。誰かいっしょに行ってくれない? 」
カナが泣いても、他の子はほぼ気にしない。人のことに構ってなんかいられない。
ヒナタに物をとられないように筆箱を押さえたり、しまったりしている。
ユウちゃんとアイリちゃんがカナの側に来た。
「わかった。一緒に行く」
泣いているカナの背中を撫でた。
「動画を撮っちゃおうよ」
そして、3人はタブレットを開くと、それぞれこの様子を録画していた。
わたしはヒナタをつかまえて、「返してあげて」と息を切らした。
南山教頭が小走りでやってきた。
わたしはほっとした。
「誰も怪我をしていません。わたしの役割は果たしたと思います」
そう言って、ふと思い出した。ポンだ!
「教頭先生、ちょっと待ってください。昭和の熱血教師ポン先生なら、ヒナタさんの行動を許さないはず」
「確かにそうね。でもポン先生は今日は確か、長期欠席児童の指導について、研修に行っているはず。午後は帰ってくるわ」
これも交代できない仕事だ。
「でも、ポン先生がここにいたら、あの熱さで3年2組を立て直せるんじゃないでしょうか。明日はポン先生に頼みませんか?」
南山教頭は考えていた。
「適応教室にくる子がいない時は、それもいいかもしれない。校長先生に相談してみましょう」
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