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適応教室指導員 ポン&カン ~「助けて」と言えなかった親子のための教室~ ここは孤独と向き合う最前線です  作者: さとちゃんペッ!


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1 卒業式 みんなが祝う一人だけ呪いの言葉を

ご覧いただきありがとうございます!

謹んでお届けします。


3月の終わり。

東西大学の構内には、長い桜並木が続いている。

今年はまだ寒さが残り、桜のつぼみは固いままだった。

その足元で、花壇の水仙だけが静かに咲いている。


東西大学の大講堂では、卒業式が厳かに行われていた。


「卒業を許可する」


学長の声が、広い会場に響きわたる。

その言葉を聞いた瞬間、カンナは隣の席の風香ふうかと顔を見合わせ、にこっと笑った。


今日はふたりとも、ほかの女学生たちと同じように袴姿はかますがただ。

早朝から美容院で着付けと髪のセットをしてきたせいで、興奮と疲れが重なり、少し涙もろくなっている。


風香は赤く染めた髪をアップにまとめ、赤い着物に紺色のはかまを合わせている。

陽キャで華やかで、優しくて――

不登校だった私なんかに、いつも寄り添ってくれた風香は、女神そのものだ。


思わず、うっとりと見とれてしまう。


「楽しかった大学生活、終わっちゃったね」


風香は泣いていた。

何をするのも一緒だった風香の言葉に、カンナは返す言葉が見つからなかった。


(風香ちゃんのおかげで登校できた。

卒業までこぎつけた。

これまでどれだけ助けられたかわからない。

不登校が長かった私が、大学生でいられたのは、全部、風香ちゃんのおかげ)


心の中では、何度も何度もそう思っているのに、言葉にできない。

それが悔しかった。


バッハのG線上のアリアが厳かに演奏される中、ふたりは順に席を立ち、会場を出る。


(もう、ここには戻れない)


感情が一気にあふれ、涙がこぼれた。


後輩たちが駆け寄ってきて、「おめでとうございます」と声をかけてくる。

人気者の風香は、すぐに後輩たちに囲まれ、写真をねだられていた。


そのとき、ママの姿が目に入った。


「カンナ、みんな来てるよ!」


指さされた先には、フリースクール「カナリア」のみんながいた。

小学生、中学生、そして高校生もいる。

学校に行っていない子たちばかりだ。


人混みが苦手な子。

大きな音が苦手な子。

それでも今日は、勇気を出して、この人の多い大学の卒業式に来てくれている。


「こんなきれいな着物、みたことない。

ピンクがキレイ。

桜の花びらが舞ってて、チョコレート色のこのスカートみたいなの、すごく素敵」


ミホちゃんが目を輝かせて言った。


はかまっていうのよ」


カナリア代表の馬場さんが、ミホちゃんの手を握りながら教える。


「髪もすてき。

カンナちゃんのさらさらな髪に大きなリボン。

すごくステキすぎる!」


ミホちゃんのお父さんが、にこにこしながら握手を求めてきた。


「ミホにとって、カンナちゃんは憧れの人だからね。

おめでとう、カンナちゃん。

いやあ、小学3年から不登校。

中学は全部欠席。

通信制高校から東西大学。

そして無事卒業だろ。

カンナちゃんは、オレたちの希望の星だよ」


「そんな、人の経歴を大声でぺらぺら言うもんじゃないよ」


馬場代表が、やんわりとたしなめる。


「いいんですよ。公開しているのですから」


ママが、間に入った。


「とにかく、おめでとう!!」

「カンナちゃん、おめでとう」


気がつけば、二十人ほどが集まっていた。

子どもたち。

送迎してきた父母や祖父母たち。


拍手を浴び、握手を求められ、手紙や花束を受け取る。

写真もたくさん撮った。


持ちきれなくなった花束を、ママが紙袋に入れて預かってくれている。


「すごくきれい。

わたしも、こんなの着たいな」


小さな声が聞こえた。

知らない女の子だ。最近入った子だろう。


「ありがとう」


一通り写真を撮り終えたころ、一人の母親が、おずおずと近づいてきた。


「うちの子がね、

カンナちゃんみたいなきれいなはかまを着たいから、

死ぬのをやめるって言ったの。

死ぬのをやめるって!!」


その人は、その場に崩れ落ちた。


周りの人たちも、もらい泣きして、そして笑った。


「そうだそうだ。

君たち、みんなはかまを着るんだ。

ほら、あの人みたいなスーツもかっこいいぞ」


「カンナちゃん、卒業おめでとう。

オレも、通信高校に進学するって、今、決めた」


中学生のぎこちない言葉に、拍手が起こる。


小さな男の子が、フリースクールのイメージキャラクター「カナリン」のハンドタオルを差し出してくれた。

黄色いタオルいっぱいに、カナリンが描かれている。


「これを持ってると、勇気が出るよ」


「わかった。ありがとう。ずっと大事にするね」


ハイタッチをした。


この中には、ずっと人と話していなかった子もいる。

笑うのも、拍手をするのも、外の空気を吸うのも久しぶりな子もいる。

オンラインでしか会ったことのない子もいる。

そして、来られなかった子もいる。


馬場代表のスマホには、今もライブ映像が映っているはずだ。


「カンちゃん、話してやって」


渡されたスマホは、ずっと握られていたのか、温かかった。


画面に映ったのは、男性の顔。


「……カンナさん。おめでとう」


馬場さんの子ども――

もう三十歳を超えているという純一郎さんだ。


「ありがとうございます。純一郎さん」


「……う、うん」


スマホを馬場さんに返す。

純一郎さんはコクシ浪人。

頭が良くて医学部に通っていたが、国家試験が難しく、なかなか合格できないらしい。


ふと気づくと、周囲の学生たちがこちらを見ていた。

拍手が目立ったのだろう。


少し離れた場所には、テレビ局のスタッフがマイクを持って立っている。

遠景で撮影が続いていたらしい。


ママが言う。

「すみませーん、お待たせして」


「いいんですよ。

終わったらインタビューをお願いする約束ですから。

この喜びを、しっかり味わってください」


そのとき、誰かの声がした。


「カンちゃんは、みんなの希望の星だからねえ」


振り向くと、指導員の松原千秋さんが立っていた。


声をひそめて言う。


「カンナさん、卒業後はフリースクールを手伝ってくれると思っていたのに、小学校に就職するなんて。

不登校生徒への裏切りかしら。

まあ、せいぜい頑張ることね。

一年もたたずに辞めたら許さないから。

みんな絶望するわよ。

その時は、事故に見せかけて殺してあげる。

交通事故がいい?

それともストーカー殺人?

冗談よ」


そして、皆に向かって明るく言う。


「ああ、皆さん。今日は嬉しい日ね。

カンナさんは、私たちの希望の星ですものね。

うちのエミリも来たがっていたんだけど、起立性調節障害でね。

でも、お菓子を焼いてくれたのよ。

さあ、どうぞ召し上がって」


差し出された菓子。

いらない。

帰ったら捨てよう。


(どうして、この人は……)


目を閉じる。

エミリの声が、よみがえる。


「ねえ、カンちゃん。

一緒だよ。

いつも一緒。

裏切らないでね」


耳を押さえる。


忘れたいことは、たくさんある。

エミリのことは、特に。


どんなに辛くても、仕事を途中で辞めない。

心に誓った。


辞めたら、松原さんに殺される。

……だって、エミリの人生を台無しにしたのは、わたしなんだから。




最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

いかがでしたか?


感想をいただけるとすごく励みになります。

次回もどうぞお楽しみに!


さとちゃんぺっ!の完結済み長編歴史小説、良かったら読んでください。↓

歴史部門:なろう日間2位 週間2位 月間2位 四半期2位 (1位はとれない)

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