第3話 共謀の願望
誰もがみとれてしまう声。
一世を風靡してしまうような佇まい。不思議と敵意を感じなかった。
謎の男が質問に答える。
「ごめんごめん、自己紹介がまだだったね、私はゼノ。」
そしてゼノは微笑んだ。ミリアが警戒する。
ミリアがこいつのことを知らないということは、
どうやら貧民街のものでは無いらしい。
「そんな警戒しないで、ただの通りすがりの一般人さ。ただ、ここにふさわしくない人がいると思ってね。」
ゼノは烈の方を見た。
ミリアが短剣を構える。
「随分昔の匂いがする……あんた何者!?」
ゼノはミリアを無視し、烈に近づいた。
「君は貧民街生まれじゃないね。」
と、早速見抜いてきた。そんなに分かりやすいのか。
それとも、洞察力が優れているのか。
「さっきの話聞いてたよ。平等ってね、君の怒りは正しい。だがね、この世界を変えるには力が必要だ。」
ゼノの言葉に烈は目を細めた。
そして最初にしてきた質問に答える。
「俺はレツ・スズキだ。」
ゼノはローブから輝く石を取り出した。その石は白色に光り、烈の目を奪った。
「大いなる輝石『シャルト』って聞いたことある?…世界に一つだけしかない、どんな願いも叶える力を持つ。」
烈は疑った、そんなものの存在を。
だが嘘をついているようには見えない。
「それを手に入れるには1000年に一度の神の遊び『神願の試練「デザイアル」』で1000人の中の1人にならねば手に入らない。」
ゼノの声は優しく、神秘的だった。
「もし君が本当に平等を求めるなら、デザイアルに参加し、シャルトを手に入れるといいよ。」
烈は眉をひそめた。
デザイアル?シャルト?、意味がわからない。
烈は言葉を零す。
「願いを叶える? そんな都合のいい話…そんなもんで願いが叶ったら格差は生まれねぇよ」
ゼノの笑みが深まる。
「まぁそれには深い事情があると思うよ。なにしろ1000年に1度だけだから。1000年も前なら今の生活と全然違うことも有り得る。」
烈は反論ができなかった。1000年というとてつもなく広い期間ならば変わっていても不思議では無い。
「もう一度言おう、夢を叶えたいならデザイアルに参加しよう。」
烈は考える。そのようなものが実際にあったとして、平等が願ったとして、それは平等と言えるのか?
いや言える。仮初の平等でも、いつかは慣れるんだ。「平等」に。だんだんみんなは平和を求めるようになる。人と人が正しく共存できるように。
烈はそう言い聞かせた。
「だけどリスクがある。シャルト自体の代償の重さ。本末転倒な代償なんだ。」
「シャルトの代償は…願った内容を二度と考えられなくなること。平等を願えば、平等のことを考えられなくなるってこと。」
烈の胸がざわついた。平等を失う? そんな代償…。確かに本末転倒だ。平等を願うのに平等を求める心が失われたら、俺自身が平等を保てない。
だが、ミリアが教えてくれた貧民街の現状、転生前の俺のために頑張ってくれた母の過労、が脳裏に浮かぶ。
「平等な社会を目指すなら…そんな代償、覚悟の上だ。」
やるしかない。俺1人の心が失われても、世界が平等になるのなら━━━
ミリアが叫ぶ。
「ちょっと待って! それがほんとうだとしてもよ?、そんな危険なもん、ほんとに狙うの? 次は本気で死ぬよ!」
ゼノはやっとミリアに話しかける。
ゼノは少し驚いた顔をする。
「君は……?」
「ミリア・クロウ……」
少し考えたあと、ゼノは話し出す。
「ミリアくん、君はレツくんに着いていくのかい?多分レツくんの旅はとてつもなく面白く儚い旅になると思うよ。」
そう抽象的に言い残し、消えていった。
烈が考え込んでいた。ミリアは何かが引っかかった。
「ミリア、俺は本気で平等を目指してるんだ。だから俺が臨める限界まで平等を追い求めたい。色んな人を救いたいんだ。」
救いたい。その言葉に遠く置き去りにしていた過去を烈の、ミリアの鼓膜を叩いた瞬間だった。
ミリアは、何かを思い出した。
ミリアが頭を押さえてうずくまる。 さっきミリアの感じた違和感と、烈の「救う」という言葉が、ミリアの中で強引に結びついたのだ。
忘れていたかった。忘れていれば幸せだった。 なのに、脳裏に焼き付いた鮮血の記憶が、濁流のように溢れ出してくる。
「ごめん、レツ、その言葉で悪い事思い出しちゃった。」
ミリアの無理に笑顔を作る表情に
烈は何かがおかしいと心臓をドキドキと鼓動している。胸が苦しい。
ミリアは、憂いのある表情で語り始めた。
しかしそれは自身の中に抑えるのが辛かったように見えた。だからこそそれは自然と吐いて出る。
「貧民街の人間の扱いは最初から酷かった。だから昔、私の友達も殺されたんだ。」
***
ミリアが6歳もなかった頃。ミリアは、ここの貧民街で出来た初めての友達━━━━セリア。
ミリアとセリアは近所に住んでいて、毎日日が暮れるまで遊んでいた友達。
水色の長い髪色や、透き通った声に、煌めかしい碧眼は、貧民街の酷い生活に活力を与えた。
ある日セリアが妙なことを言った。
「今日はちょっと遠く行ってみようよ!」
遠くというのは、貧民街の境界へ行ってみるということ。ミリアは、
「ダメだよー」
と言うが、ミリア自身も外の世界に興味があった。
だから行ってしまった。
貧民街の境界では、貧民街と邸宅街の外交が盛んである。なぜなら貧民街には貧民街の環境でしか育たない特産物もあるからだ。そして労働力も。
その日も至極当然、貴族たちがここへ来ていた。
ミリア達にはその人たちがどういう人か分からなかった。貴族に近づいては行けない。境界には近づいては行けないと言われていたが、肝心な貴族というのが分からなかったのだ。
「ミリア!ここ、なんか私たちの町より綺麗だね!」
そんな無邪気なセリアが微笑ましかった。ここは本当に貧民街とは思えないほどの美しさを感じた。
これが格差だと、当時は、全く慮れなかった。
ミリアは
「そうだね!」
と言った。本当に、こんな毎日が続いて欲しいと思った。なんの代わり映えもない平和な物語が。
だが、神はそれを許してはくれなかった。
セリアが1歩踏み出そうとした瞬間━━━━━━━━
━━貴族とぶつかってしまった。
貴族の人は怒っていた。洗練された装いから目を上げると、そこには心の底から侮蔑し軽蔑する眼が自分達を刺していた。
「貴様、下民の分際で我が七聖覇貴族アルタ・カーリタ様の着物をよごすだと?虫唾が走る。、今すぐ…」
アルタの服から手袋をした青白い腕が出る。しかしそれは磨きあげられた肉体。
「死ね。」
そう言われた瞬間セリアは顔面を殴られ、関所の壁に勢いよくぶつかった。その衝撃が地面揺らす。
ミリアは目の前の状況を理解することが出来なかった。この状況はミリアにとってあまりにも刺激的すぎる。
セリアはまだ殴られる。血が出ても、歯が欠けても、顔が原型が以前のセリアではないものになったとしても。
一通り終わった。終わった。ミリアはただ、ずっと立っていた。目は涙を流すことなくただ乾いていた。ミリアは非力で友達1人も救えないことに自責の念を感じた。
アルタは輝石を取りだした。放たれた光が剣状になり、その刃が、
この世にセリアの肉体を2つに作ってしまった。
なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?
そんな疑問が頭に浮かぶ。
「ついでに貴様も死ね。」
刃がミリアに向く。その瞬間、
「何をしているんだ。お前は」
冷徹な声に、憤りを乗せていた。謎の男が止めた。
そこからのミリアの記憶は失せていた。その後何事も無かったかのように家に居た。そして現在に至る。
***
途中ミリアは、涙が溢れていた。そして最後には、嗚咽し始める。頭の中から再び消去したそうにひたすら嗚咽。口からは喀痰しか出なかったが、それでも必死に出したそうにしていた。
聞くも無惨な話。腹の底から煮えくり返りそうな話。不平等を根源から表しているような話。そのなにもかもから不快の声をあげていた。
そんな空気を読まずに
突然の路地の奥から足音。貴族の私兵が再び現れた。
「あのガキだ! 殺せ!」
リーダーの男が剣を抜く。烈は立ち上がったが、体はまだ痛む。
「くそ…またかよ…!」
覚悟する。ミリアにとって苦にはなるかもしれない。しかし現状を変えるしかない。再びその惨禍を起こさないために。
烈はミリアの腕を掴む。
「着いてこい!俺が平等を見せてやる!」
烈に腕を引っ張られ、ミリアがよろよろ着いていく。
ミリアが涙目で驚いた顔をしていた。少し抵抗しながらも烈について行く。次第に自分の足で走り始めた。
ミリアは決心した。この現状を変えるために、セリアみたいな被害者を出さないために。世界を変えなければと。
ミリアは顔を上げた。そして顔を振って気合いを出す。ミリアの短剣が風を切り、私兵の剣を弾く。風輝石魔法が炸裂し、風の刃が鎧を切り裂く。
「行くよ、レツ!」
ミリアの言葉に
烈は口角を上げ、走り出す。
「ここから逃げるぞ、ミリア!」
「はいはーい!」
平等の世界を実現するために協力し、「デザイアル」へ向かう。烈の受難はまだ始まったばっかりだ。




