第27話 過去
朝起きると、深呼吸をした。嗅覚が感じとったのは消毒液のような刺激臭と少し錆びた鉄の匂い。時間が経ったのだから当たり前だ。
身体を見てみると昨日の痕跡は無い。しかしエリカは少しやつれている。
「おはよー、エリカ。答えが分かったよ。君の様子でね。」
トラウマとなったその声は村長であった。
声をかけられた時エリカはビクついた。
「君の回復のメカニズム。過程こそは分からないが何を源にしているか。それは魔力だ。」
「君は以前、莫大な魔力を持つと言った。その情報と魔力の特性、輝石に魔力を伝えることが出来る。媒介を使って細胞レベルにまで干渉したんだろう。魔女のための輝石なんだ。そうなってもおかしくは無い。半分は推測だがな。」
「そしてそれを裏付けるのは君の様子。私達は早く切り上げた。なのに疲れが溜まっているようだ。つまり魔力の大幅な消費により多少なりとも体力が奪われたのではないのか?」
エリカは納得してしまった。
この考察は恐らく合っていると。
そして今度は村人がやってきた。手に持っているものはバケツ。
バケツをエリカの傍に置くと、村長はエリカの手を持っていき、破片で手を滲ませるとバケツの中に滴ませた。ピリッとした痛みはエリカの唇を震わせた。
手が風呂上がりのようなシワができた時、採取は終わった。
「よし、こんなもんでいいだろう。これを解析しなきゃなぁ……。俺は忙しくなる。あとは頼んだ。」
そう言うと次の日から村長は姿を現さなくなった。
しかし差別は終わらず村人が引き継いだだけだった。
エリカを殺そうとした村人もいたが他の村人に止められた。
数日後、村長が顔を出した。
エリカの様子を見た村長は村人に問いかける。
「こいつに飯どころか水さえも与えてないんだろう?」
「はい、そのはずですが」
村長は顎を擦り考える。
「エリカ、腹は空いてるか?」
コクリ、とエリカは頷く。
嘘はついてないようだ。
「凄い回復力。魔女の輝石は栄養をも補填できるのか。」
魔女の輝石の底知れない力にみんなは驚く。
「じゃあ今日は発展と行こうか。」
村長達は一度立ち去った。エリカにとってその待ち時間は、永遠に続いて欲しいものだった。この時間をすぎればきっと絶望が待っている。そう感じたのだ。
そしてやってきた、
長く鋭い刃を持って。
エリカは戦慄した。身体が震える。
「お待たせ、さっそく切ろうか。」
「なんで、そんなことするんですか!?する必要なんてないじゃないですか!」
エリカは反発した。村長はニヤリと笑う。
「試してみたくなった。組織を回復できるかをね。」
そして右肩に冷たい感触がする。この感覚がした瞬間にエリカは嗚咽する。そして━━━━━━━━━━
翌日、エリカが目を覚ますと、古傷だらけの左腕と比べると右腕は何も無かったかのように純白な腕をしていた。そして強い倦怠感だけが身体に募った。
「凄い、丸1日寝るだけで再生、しかも細胞の設計図を覚えているかのように完璧に同じ形だ。徐々に内側のものを再生して外側を再生する。実に合理的だ。」
村長が興味津々に右腕を見る。どうやらずっと再生している過程を見ていたようだ。
「面白いものを見せてくれた礼だ。今日はゆっくり休むといい。明日のためにな。」
と言うと本当に何も無く、それどころか食料と水分もくれた。久しぶりのご飯にありがたくエリカは頂いた。
それと同時に明日の拷問がとてつもないものだという事を察した。
翌日。運命の日。
雨が降っている。激しく降っていて、雨の音以外は何も聞こえなかった。
村長がやってきたことにも気づかなかった。
「さてと、魔女の輝石についてある程度調べられた。」
「ま、最後の仕上げと実験をしようか。」
最後?この言葉にエリカは違和感を持った。約束の1ヶ月にはまだ時間がある。
「多少の傷はすぐ回復する。組織も時間があれば回復する。なら、」
エリカはゴクリとする。
「急所なら?」
村長が隠し持っていたナイフが光り、エリカを襲う。しかしエリカは余力を振り絞りそれを避けた。
「逃げちゃダメだって。そういや何にも繋げてなかったな。監禁するだけで。」
エリカは牢屋を逃げ回る。村長は追いかける。
破片は命中しない。村人は村長の猛攻にエリカを捕まえることが難しく何も出来ずにいた。
そしてエリカは追い詰められた。
角に追いやられてしまった。狭い部屋だったので割と早く追い詰められた。
そして村長はエリカを胸にめがけ突き出した。
そして皮膚を切り、肉を切り、血を泳ぎ、生命を断ち切ろうとしたその瞬間。
破片は粉々になった。
「なんだ?」
エリカは闇に包まれそして魔女の正装へと身を包んだ。
エリカの目にはハイライトが無く、まるで気絶しているかのように無気力であった。村長は冷や汗をかく。
「そもそも心臓を貫かせてはくれないのか!」
そしてエリカは小さく口を開く。
「全魔消費、終焉。」
その瞬間、光に包まれ、焼けるような痛みが全身に襲った。
何日だろうか。随分と長い間寝ていたようだ。身体はすっかり元気になって後遺症はどこにも無い。服装も元に戻っている。
そして周りも何も無い。
「なに……これ?」
村全体が更地となっていた。綺麗な程に何も無く、静寂に包まれていた。
そしてエリカはこの騒ぎに誰かが気づいて人間に見られる前にこの元村から離れていった。
そして邸宅街に足を運ぶ。
幼い見た目と服装の綺麗さにより門番の独断と偏見により関所は無事に抜けられた。
セントラル・ルミナへ着くと、ふと噂を耳にした。
「今日はデザイアルの予選だってよ。すっげぇ、強い奴らがわんさかいるぽいぞ!見に行こーぜ。」
デザイアルの予選?
固有名詞が分からずにいたがやることないので興味本位で見に行くことにした。先程の人に着いていくと予選会場に着いた。
観客席へ着くと放送の音が聞こえた。
「レツ・スズキ、ライララ・ソウジャーは、闘技場へ集合してください。」
2人の選手が呼ばれ、しばらく立つと2人の姿が見えた。
エリカの目には2人は似ているように見えたが根本的な物が違うとわかった。
試合のゴングが鳴った。激しい戦いだ。これが自分の信じているものを背負う者の戦い。
エリカはデザイアルという試練で優勝すればシャルトで願いが叶うという事を街で知った。
自分なら差別を無くしたい。どんな種族も平和に生きていけたらなと願うだろう。とエリカは思った。
「理不尽に搾取されるこの世界は、根本から腐っている。抵抗できないこの世の中はどうかしてんだよ。」
ライララの声が聞こえてきた。
「それはそうだ。ただお前がどうやってそんな世界を壊すという思想になったかは、分からねぇ。だけどよ、それが間違ってるってのはわかる。いいか、その平等は間違いだ。」
烈の声も聞こえてくる。
ライララが持つ壊す平等を否定しているようだ。
私は壊すことで解決してしまった。ライララという人と同じ手段を取ってしまった。
本当にそれでよかったのだろうか。
「分かるわけないだろ。客観的に言おう。お前はただの我儘だ。それで何を救う気でいる。結局はただの私利私欲だ。だが、そうなるのはわかる。不平等だと自分はより求めてしまう。」
烈の言葉が反論してくれた。もっとやることは出来たか。他の方法で救えたんじゃないのか。そんな後悔ばかりが募っていく。だがあの時はひとつしか無かったんだ。
「 俺も我儘だ。 」
エリカは自然と涙が出ていた。
彼の言う平等に興味を持った。人間不信だったエリカは少しずつ心を取り戻している。
「平等っていうのはな、弱者を助けてくれる。すがりつけば、救済をくれる。そういうもんなんだ。世界は変わる。」
エリカはそういうものなのかと納得した。しかしライララがそれに反論する。
「そんなのが、今の世の中で出来るのか?無理だろ。貧民は敵、みたいなこの世の中、「異端者」が裁かれるのが定着している。見た目だけ取り繕っても、改善するわけねぇだろ。」
シャルトで平等を願っても根本的な解決とは思えない。一時的なものでしかなり得ない。また惨劇が起こってしまう。
「見た目が変われば中身も変わる!、例え中身がどす黒くても、見た目を清純に本気で変わりたいと思えたなら!中身もより研磨され見た目と同意義な存在になる!」
子は親の背中を見て育つという。親が平等に生きていたら、当然のように子も平等に生きようとする。
エリカは烈の言葉に虜になっていった。
予選が終わりエリカはその余韻に浸ったまま会場を後にした。
そしてエリカも平等に興味を持ち始め、少しずつこの世界について学び始めた。自分の魔女の輝石について研究した。調整できるように修行をした。
数週間後、貧民天国にて
「ここが貧民天国……。」
スチームパンクの服と貧民天国の風景は一致していて、まるで最初からそこに住んでいる人のようだった。
エリカは腹をさすりながら歩く。
「お金が無くて、3週間ほど飲まず食わずだったから腹痛が酷いなぁー……。」
ゆらゆらとなっていく、香ばしい匂いがしてきた。
出店からの流れ出る匂いのようだ。
そのせいで限界となったエリカは横に動きそのまま路地裏のゴミ置き場に倒れ込んだ。
そして数分後、烈とミリアに拾われ今に至る。
***
エリカは話終えると。どこか寂しげな表情をした。
烈はエリカをギュッと暖めるように優しく包んだ。
「ごめんな……エリカ…。ごめん。」
その烈の目には涙が浮かんでいる。
それは中々止まらない。
(私のために泣いてるの……?私を拒絶しないの?)
エリカは1つ、目から水を流した後、その流れは急激になり、ひたすらに泣いていた。烈もエリカと一緒に泣いていた。それは強く辛く。
「辛かったよな……エリカ。」
エリカもコクリコクリと頷き、エリカは烈を抱き返す。エリカはわんわん泣き、そのはけ口として烈はエリカを受け入れた。
エリカは烈の胸でとにかく泣く、涙が染みた服はとても冷たく、寂しいものだった。
烈はエリカに温かさを知って欲しかった。
もう二度とあの過去を思い出す必要がないように。
「俺と同じだ。俺もそんな人生過ごしてたんだよ。」
烈は誰にも話したこと無かった自分の過去をエリカにだけ話した。
自分が差別されてきたこと。搾取されてきたこと。そして自分の心が蝕んだことを。
2人の距離はこのベッドの広すぎる広さは必要のないぐらいに近く。
エリカが涙目で烈を見て、一つ願望をこぼした。
「レツさんがもし私の退屈で苦痛な毎日に居てくれたら、楽しかっただろうな。耐えられただろうな。どんなに辛くても笑顔でいれただろうな。」
そう笑顔で言った。
「そうだな。」
そう肯定し、更にもう一言。
「もう俺がいるから今度は大丈夫だ、俺を頼れ。」
と言うとエリカが今度は突っ込む。
「でもレツさんも1人だったら抱え込んじゃうじゃないですか。」
途端に2人は笑顔になる。
冗談交じりにそういうと烈は照れる。
「はは、そうだったな。」
突然ガチャっとドアが開く。
「たっだいまー!」




