第26話 差別
「信じて貰えないかもしれないですが私━━━━━」
「━━━━━魔女なんです。」
瞬間烈の身体は強ばる。
烈はあの「地」が脳裏をよぎる。
「何言ってんだよエリカ。どういう意味かわかって言ってんのか?」
エリカは服をギュッと掴んで言う。
「信じられないなら、これでどうですか?」
そういうとエリカは一瞬闇に包まれる。風が舞い起こり様々な部品が吹き飛んでゆく。
そして再び姿を現した。
エリカは服装を変えて出てきた。その姿は気迫に包まれ。威圧されたかのような雰囲気をだした。
いかにも魔女らしくカッターシャツのようなものにネクタイをかけその上にローブを羽織っている。しかし本当に言いたいことはそれじゃあないだろう。
恐らく証拠と言えるものは一瞬にして着替えられる程の余裕があるということ。今までは多少自然現象や人間の力を変える程度の能力しか見ていない。
しかしエリカの輝石は明らかに違う。人間の限界を超える潜在能力がある。
「私の本当の名前は、エリカ・マギサ。これができるのは、マギサの一族、魔女の一族が代々受け継ぐ潜在輝石のおかげ。」
色々言いたいことはあるが烈は確信した。
こいつは魔女だと。
ドンッ
部屋に音が響く。烈が壁にエリカを埋め込んだ。
「いたっ」
先程のような穏やかな顔はそこにはなかった。
烈は怒っていた。
「エリカ、なんでお前はあそこで、被害が出るようなところで!輝石を使ったんだ!」
烈はエリカを怒鳴り散らす。
エリカは青ざめたかのように烈を見る。
「な、なにが……?」
その言葉で烈はよりヒートアップする。
「とぼけてんじゃねぇよ。あの戦争の跡はお前がつけたんだろ。」
エリカは思い出したかのように早口で話す。
「あれは違うんです!、私がしたくてした訳じゃ」
烈はそれに被せるように反論する。
「でもお前は人間に危害を与えたんだろ?」
「ッそれは!」
烈は一旦離す。
そして物理的にも精神的にも見下し提案する。
「今すぐ死ぬか?」
エリカは絶望する。この人なら分かってくれると、自分の痛みを分かってくれると、信じていた。
だが目の前にあるのは他の人間と変わらない。
「差別です……。」
烈はピクッと体が揺れた。
「差別?」
エリカは大声で叫んだ。
「誤解です!……私は魔女なんですが、差別されてきただけなんです!、というか私は人間と一緒に生きていたんです…生きたかった!普通の生活を過ごしていたかったんです!壊したのは私じゃない!」
烈は戸惑う。
騙されては行けないと思ったが、真剣な顔に烈は嘘をついていないように見えた。
烈は話をとりあえず聞くことにした。
無駄に広いベッドは今回ばかし距離感を保つには調度良い広さであった。
「正直に話せ。お前はどうやって生きてきた。」
そう言うとエリカは自分の過去を語り始めた。
***
昔、エリカは魔女の末裔だった。唯一の生き残り。
物心が着いた時には、魔女は絶滅していた。
自分が魔女だと知ったのは母の遺書からだ。
遺書には魔女について、潜在輝石について。今後生きていく最低限の情報を遺していた。
いつまでもお金がある訳でもないので遺書に従い、どこかに働きへ出た。
そして貧民街のとある村で働くことになった。
遺書には自身が魔女ということは明かすな。と言われているのにも関わらずエリカはつい自分のことを魔女と話した。
しかし村人はそれを受け入れた。魔女がこの世の中から恐れられていた時代はあの戦争から終わったのだ。
魔女との関係は最早無いに等しいと思われていた。
それはそれは楽しく働いていたとさ。
エリカ自身も村の1部として貢献していた。
ある日村長に呼び出された。
「なんですか?村長さん。」
村長は自身の髭を擦りながら答える。
「この村はどうだい随分経つけど、慣れたかい?」
エリカは姿勢よく座っている。
「はい!おかげさまで」
と、恥ずかしがりながら感謝している。
村長は足に腕を乗せる。
「君はたしか魔女だったよね。魔女って特殊なこととかできるの?」
エリカは自身に「魔女輝石」があることを知っている。そして信頼しきっているエリカはその人達にそのまま話してしまった。
「私が持ってる魔女輝石というのはですね、莫大な魔力を持ち、様々な輝石の応用ができるそうです。例えば、畑を早く成長させたり……、あとは……」
良い例が思いつかずにエリカは口を止める。
村長がフォローに入る。
「ほうなるほどね。その輝石というのは君だけにしか使えないのかい?」
「分かりませんね。魔女だけが持っていて魔女だけが使える……みたいなものですかね?」
村長の目がキリッとなる。
「君の魔女の輝石は、他の魔女と同じなのかい?」
エリカはちょっと考えたあと指を出して話す。
「他の魔女ができたことは私は一応できます。試したことはあるんで。」
村長は目を閉じた。しばらく考え込んだ後、口を開く。
「わかった。もう行ってもいいよ。すまんな。」
エリカは不思議に思ったことを言う。
「どうしてそんなことを聞くんです?」
村長はすぐに答える。
「魔女をよく知るためだ。平和にやっていくにはお互いをよく知らんとな。」
その言葉を聞いてエリカはなんだか嬉しくなり軽快なステップで帰っていった。
夜になった。
エリカはこの村に来てから借り宿で暮らしている。
窓を閉めずに寝ていたため夜風が当たってしまってつい起きてしまった。
1度起きてしまうとなかなか眠れないので仕方なく眠くなるまで外を歩いていた。
「今日は満月かー……。綺麗だなぁ」
月を見ながらそんなこと思う。
「うそでしょ!?」
突然大きな声が聞こえてきた。
声がした所を見ると村長の家があった。
窓からエリカがひょこっと見る。
「あの子が魔女と同じ力を……!?」
なんと村人が全員集まっているようだった。
エリカは(自分だけ呼ばれてないの仲間はずれにされた気分)と心の中で思った。
「あの子は、本物の魔女だ。」
「かの魔女と同じ力を持っているというのなら根絶やしにするしかない。」
村長がそう言うと、村人は躊躇ったあと
「……そうね。」
と、言った。
エリカには会話は聞こえず、ただ何かを話しているということだけしか分からなかった。
「ただ、殺してはダメだ。」
村人は机を叩く。
「なぜです!?殺さなければならない種族ですよ!」
村長は睨み返すように反論する。
「魔女はあの子1人だけだ、他は全滅した。政府の意向により、」
村長は顔を上げる。
「内密であの輝石について研究しろとのことだ。どんな方法を使おうとも。この村から逃がしては行けない。」
皆は腑に落ちない顔をしていたが渋々了承した。
エリカは段々眠くなってきて、自分の部屋へ戻り、そのまま眠りに落ちた。
地獄が始まることも知らずに。
翌朝、目が覚めた後着替えて外へ出る。
今日は雲行きが怪しく、このあと雨が降りそうだった。
「みなさん、おはようございます!」
と、そういつも通りに元気よく挨拶する。
しかし、村人はいつもよりなんだか素っ気なく返す。
エリカは
(今日はみんな元気がない日なのかな)
と呑気に思った。
いつも通り仕事を始めようとした時、なんと村長が来た。村長はエリカに近づくと、何かを堪えているかのような顔をしながら話す。
「今日は村おこしをするんだ。手伝ってくれるかい?」
エリカは二つ返事で引き受けた。そして村長の後に着いていくと何やら歪な古い小屋……いや牢屋のようなものを見つけた。
しかしそれは横からは丸見えで申し訳程度の天井がそこにはあった。
「ここだ、さっさと中に入れ。」
エリカは困惑する。
「なんですか?これ」
そう言った瞬間、エリカの背中に強い衝撃が襲った。そして勢いよくその「牢屋」の中に入れられた。
「なにするんですか……!?」
村人はエリカに対して冷ややかな目を突き刺す。
「被害者ぶってんじゃないわよ」
「えっ……?」
目の前にいる人たちは昨日までの人達と全く違う。その落差にエリカは愕然としている。
「エリカ、君は人間じゃない。悪魔だ。」
「今日から魔女は人間の実験体だよ。」
エリカは悟る。もう二度とあの平穏な日々には戻れないと。村人が去った後、エリカは1人寂しく泣いている。
ぽつりぽつりと小雨が降ってきた。
雨の音と重ねるように地面を蹴る音が聞こえてきた。
「村長……さん?」
エリカの言葉を無視し村長は牢屋の中に入っていくと
ギチギチと破片が見えた。そしてエリカの前へしゃがみこむ。
エリカはそれを以前の作業で見慣れているものであった。そして用途は今現在は考えるまでもなく明白で、
それはエリカの肌に赤い線を通した。
「ぐあぁ……!」
エリカは呻き声をだす。
しかし待つこと数分、エリカの赤い糸はたちまち解かれ元通りとなった。
「人間みたいな血出しやがって」
声をした所を見上げるとそこには村人が居た。
「傷がすぐ治るのか……、興味深い。」
村長は立ち、村人と話をするとみんなが破片を持ち始め、
一斉にエリカの生命力そして精神を削いでいく。
村長の合図でみんなが止まる。そして今度は観察が始まった。
「なかなか傷が回復しないな、多すぎると追いつかないのか、はたまた傷を回復する根本的な物の不足なのか。」
村長は考察する。
「どちらにせよこれを調べるには日を跨ぐしかないな。今日は撤収だ。」
そう結論付けた。
「あ、そうそう。この研究は1ヶ月ほど続けるつもりだよ。それまで付き合ってくれたら解放してあげるよ。」
そう言い残し立ち去る。
夜風に吹かれると様々な所から針で刺されたかのようにチクチクとした痛みが襲う。少しずつ回復はしていっているが痛みは治まっていない。
「お腹空いたなぁー……。」
そしてもう一つの問題。今日は一度もご飯を食べていない。頼んだところでくれるとは到底思えない。
エリカは自分に襲う腹痛だけを感じ、静かに眠りについた。




