第21話 万全の準備
烈はトルと、ミリアはリヤと、修行をした。
太陽が沈み、夜がやってきた。
烈はトルとの修行が終わり、ミリアもリヤとの修行が終わった。
晩御飯を囲み、食べる。
今回も栄養が豊富な食べ物だ。みんなはすぐに平らげた。
いつもの皆と違う表情であり、前より仲良くなっていたように見えてゲレナ村長はニコっと笑っていた。
しかし烈の修行はまだ終わっていない。
これからゼノとの修行が始まる。
みんなが解散したあと烈は一人でこっそり外へ出た。
そして急いであの地へと向かう。
◇◇◇
相変わらず、虚無を感じる。ここで一体何があったのか聞いてみたい気持ちもあるが、本当に聞いてしまったら烈が烈でなくなるかもしれない。
コツコツコツと、誰かがあるく音がする。
昨日ここで戦闘し、敵だったゼノ。
奇妙なことに今は師として存在している。
「や!昨日ぶりだね。」
相変わらずいつもの服で来ている。
まぁそれは烈も同じことだが。
「んじゃ、さっそく修行始めていいよ」
、、!?
なぜ自発的に、完全にゼノに修行をつけてもらう流れだと思っていた烈。
「ま、さすがに丸裸で放り出すのは可哀想だ。少し話をしよう。潜在輝石についてね。」
潜在輝石、新しい単語だ。普通の輝石と違うのだけは確かだ。
「潜在輝石、僕もその類だよ。てか誰でも手に入れる素質はある。」
と、烈の顔を見て静かに話し始めた。
「前にもちょろっと言ったけどそもそも潜在輝石というのは、非物質的……つまり形を持たない輝石のこと。
と言っても他の輝石とさほど変わらない。強いて言うなら能力の種類が少し違うってことと、少し条件があるということ。」
ゼノが日中でしか輝石の能力を使えないというのが条件なんだろう。
もしかしたら烈のあれも?
「察しの通りレツくんの平等の天秤も潜在輝石の1種だと思うよ。」
やはりそうだった。
しかしそうなると烈の条件とはなんだろうか。
「発動条件は……なんだろうね、本人なら分からないはずがないんだけどねー。」
確かに、自分のことなのだから。
恐らく平等に関わることだろう。
「それと君の能力の弱点というか欠点は自分が能力の恩恵を受けないということ。」
平等の天秤の効果は烈自身には受けない。どうしても他人よりも弱くなってしまう。
「だけどそれ改善できるよ。多分。」
衝撃的な事実に思わず
「は!?本当か!?」
と声を漏らしてしまった。
自分が平等の天秤の恩恵を受けることができたら戦略が格段にひろがる。
しかし烈は平等の天秤を好まない。
だが、平等を目指せるならそれでいい。恒久的な平等を実現できるなら一時の不平等ぐらい腹を括ってやる。
と顔を歪めながら
「俺に平等の天秤の真の力を引き出させてくれ。」
「いいよ。」
そしてゼノは推測する。
どうやら見えたようだ。目を見開いた。
「考えてみれば簡単なことだよ。」
それはどういうものなのか、もしかしたら烈を愚弄するものなのかもしれない。
「レツくん、君は外れ値として扱われてる。」
迫真の顔でこちらを見る。
ほう……興味深い。平均をとる上で邪魔な存在なのが外れ値。平均を求める際外れ値は数えられない場合が多い。
烈は拳を握る。
「だがそれは改善できるよ。簡単だ強くなればいい。」
決意を固める。
さっそく本題に入る。
「じゃあ早速やっていいよ。」
やはり自発。何をすればいいのかいまいち分からない。
「何をすればいいんだ?」
「え、昨日会った時に言ったじゃんあのメニューだよ。」
あーあれか。と思い出してしまった。
とにかくあのきつい練習をこなす。
烈が必死こいてトレーニングをしている間
ゼノは岩にもたれ寝ている。
トレーニングと言っても内容がハードなだけで時間はそんなに取らない。
終わった瞬間徐ろにゼノに近づく。
そして岩に全力に蹴りを入れた、が思うように力が出さなかった。
「な?思うように力が出せなくなっただろ?それが君の弱いとこ。意外と少ないだろ、ここを完璧にしたら敵なしだと思うけどね。」
烈はゼノの態度にムカつきを覚える。
「そう怒んなって、それじゃあ潜在輝石の特訓だ。」
潜在輝石を鍛えるためにはとにかく輝石を使いまくる必要があるらしい。
「じゃあしまくるぜー!」
平等の天秤
辺りが白く包まれ発光する。しかし対象は1人しか居なくて、力を奪われたり増えたりしなかった。
「はぁ……」
先程のトレーニングも相まっていつもよりも疲れている。
「何疲れてんの、まだまだやるよ。」
搾り取られる。烈は絶望感に包まれた。
この特訓の目標は、烈の平等の天秤を使用後、疲労感を無くすためと、使用回数を増やすためと、範囲を大きくするためと、応用方法を編み出すためと、様々な目的がある。
果たして1ヶ月で大成できるのか。
「きっつ……だがやりきってやるぅぅー!!」
そしてそれから烈達は修行に励んでいく。
◇◇◇
「はっ!はっ!はっ!」
誰かが遠くで叫ぶ声が聞こえる。その声は一定で同じ時間に聞こえてくる。
「ふぁーあ」
最近はその声でいつも朝起きている。彼女にとっては彼は目覚ましのようなものだ。
「今日もレツは頑張ってるなぁー……。」
ミリアは窓際で烈の自主練を見ている。
本格的に修行が始まったことで積極的に奮励している。
そうしていると、一緒に寝ていたリヤが横に入ってきた。
「なんか目の色変えて頑張ってるわね〜。」
リヤが烈を褒めた。
ミリアがふわーっとあくびをしながら答えた。
「ん〜、朝はさすがに元気が出ないなぁ。でも修行しちゃう?」
「いいわよ。じゃ、すぐ行こ!」
ーーー
壁に塗られた磯の香りを放つ漆喰に、まるで地位の高さを証言するかのような傲然と敷かれた真紅の道。
そこにその場所には絶対的な地位を確立したかのように存在する人間とふさわしくない人間が対面していた。
誰もが尊敬するその人間は、不必要な人間に静かに語りかけるように口を開く。
「よくもまぁ、のこのこと帰ってきたもんだね。ルナ・ヴァルティア」
ルナは男に跪き下を向いていた。
「誠に申し訳ございません。」
立ち上がった男はルナの周りをコツコツと歩いている。
「謝罪が欲しいわけじゃないんだよ。お前は何しにここに来たんだ?騎士団……いや、ルミナリスを裏切って。まさか贖罪かい?」
ルナは何も口を出せずに黙ったままだ。
男はわざとらしくはぁー、とルナに聞こえるほどの大きな声でため息をした。
「償えるわけないだろ?貴族を傷つけたのだから。君はこの世界の秩序を破ったんだ。それとも何かい?
まさか俺に個人的な頼みとかあるのか?」
ルナの体が一瞬揺れる。
その動きを男は逃がそうとはしなかった。
「図星……かな?」
「誠に恐縮ながら、折り入って頼みがございます!」
ルナは突然思い切り立ち上がる。
男は粛然と立ち止まった。
「なんだ?言ってみろ。」
ルナは敬礼をし、真摯な姿で力強く声を出した。
「イザナ・ギルドラ団長、私にご指導いただけますでしょうか。」
その目は反抗の目。部下と上司の関係はないように見えた。
イザナの白髪がふわっと流れる。
そして彼の生命力に満ちたひとみにはまるで翡翠をはめ込んだような麗らかな翠眼がルナを凝視する。
ーーー
「うらぁぁ!!」
けたたましい叫び声が響く。
それに覆い被さるかのように怒声が唸る。
「こんなもんじゃねぇだろぉ!セレナ!」
「こっからじゃボケ!ガルド!!」
地面を粉砕したり隆起させたりとやりたい放題していた。しかし貧民街でよくある更地なので近隣住民からの苦情などはない。
戦いに一段落が着いたとき
「いい感じに体技が強くなってんじゃねぇか」
ガルドが鍛えられたセレナの身体を褒める。
セレナは口角をあげる。
「まだ時間はある。こっからもっと強くなっぞ!」
休憩をしていたはずだったが、すぐにまた再開した。
ーーー
暗黒が床、壁全てを形成している。
その中で彼女は自己を極めていた。
「これが潜在輝石……ってやつなのかな〜」
影の輝石とはまた別に新たな殺法を創り出していた。
周りは消し飛んだかのように不自然な地形と化していた。
「全魔力を消費したらこんな力がでるなんで驚きだよ〜」
リズは歩き出し土地を転々とする。
次第に彼女は闇夜に消えていく。
ーーー
「レツ、今日は輝石からの対処法そして使い方を学ぼうか。たしかレツ、輝石持ってたよね?」
今日は一転して輝石を主に修行をする。
レツは着々と力をつけていく、心折れそうな時もあったが平等を思いここまでやってきた。そしてここからも。
◇◇◇
「レツくん、そろそろ自分を含める平等の天秤の使い方を研究するかい?レツくんの強さは著しい。外れ値とは言えないんじゃないんかな。」
ついに弱点を克服する特訓に入る。
ここからは応用だ。
◇◇◇
そして長いようで短い時は流れ、デザイアル残り1週間。
烈は相変わらず朝早く起きる。しかしいつもとは違う光景がそこにはあった。
寝床の隣で艶やかな黒髪の女の子がベッドにもたれかかり烈を待っていた。
「おはよ!レツ。」
寝顔を見られたと思うと少しだけ羞恥心を感じた。
そんな顔は表に出さず冷静に言う。
「何してんだよミリア。」
そういうとミリアはぴょこっと立つ。
「レツレツ!今日はさ試合しない?」
唐突な提案に烈はとりあえず起きながらふるびたジャケットを着る。
「突然だな、どうしたんだ?」
質問を質問で返してしまったがミリアはそんなことを気にもとめなかった。
「私達はデザイアルに向けて修行したでしょ?私は対人をあまりしてないからレツと試合がしたいの!」
まともな戦いは烈もしていなかった。この状況は烈にとっても得でしかなく。もちろん烈は
「よし、飯食ってさっさと行くぞ。」
「おー!」
と快諾した。
そしてリヤとトルを叩き起した。ゲレナ村長は自分で起きていた。
全員で朝食を囲んだ。
そして栄養を取り込んだ所で外へ出る。
場所は烈が指定した。
もちろんゼノと修行した、魔女の跡地へ。
「ほんとにここでいいの?人が多いとこ選ぶかと思った。」
ミリアは準備運動をする。
烈も関節をほぐす。
「いつまでも人に頼ってらんねーからな。今度は俺自身が戦う。」
朝の冷たい風が吹く。
トルはリヤにヒソヒソと話す。
「お前、こっそりミリアと修行してたんだな。」
リヤが微笑する。
「別に隠すつもりはなかったんだけどね。」
トルが1つ提案した。
「どっちの弟子が強いから勝負だな。」
どちらがより優れているか賭けを提案する。
リヤが呆れる。
「あんたねぇ……。てか私は師匠とかそんなんじゃないんだけど。」
「まぁでも、ミリア!!頑張って!!」
賭けには乗り気では無いがミリアを全力で応援する。
「任せといて!リヤ!」
トルも烈に一喝。
「勝てよ!レツ。」
「当たり前だ!」
自信満々にそう答える。
2人の緊張が兄妹の合図により解かれる。
修行で自己を高めた2人が激突する!




