第19話 もう1人の改革者
トルからの修行で、基礎的な訓練を始めた烈。
今正に修行の真っ只中だ。
烈の右腕の攻撃がトルに炸裂する。
しかし止められてしまう。
「押しが弱いな。速さが足りない。普通の人より弱い感じがする。」
右腕左腕右足左足と、あらゆるものを数分間ずっと指摘されまくった。
良い所はほぼなかった。しかし一つだけ
「こんなに打っても諦めないのすごいね、かれこれ数十分罵倒しまくってるのに。」
精神の強さを褒められた。
そこだけが取り柄だと烈自身も認めている。
「うん、だいたい分かった。レツ、まともな戦闘をしたことないだろ。正々堂々の戦い、殴り合いだけの、ね。」
ライララとの戦いが正々堂々ならそうだが、殴り合いだけでは無い。
転生する前は普通のしそうかだったんだから実戦経験は少ない。
「でも、その場合簡単だよ。力の使い方を教えればいいんだから。」
確かに。早速実践も兼ねて
戦いながら教えてもらうことに。
「レツ、君はとにかく俺の攻撃を受け流せ。反撃できるならしてもいいけど、君がしなければならないのはあくまで守りだ。」
どっちかというと正面突破の殴り合いの方が烈は好きだ。
しかし楽しいことばかりが過程じゃないので仕方なく承諾する。
「それじゃあ行くよ。」
その掛け声の後トルは地面を蹴り、烈に向かって突進する。
最初の攻撃は食らってしまった。烈はあまりの痛さに絶句している。トルは距離を置き話す。
「ほらほらどした?身体全体を使って受け流せ!そうだな、お前は今まで平等を求めるために何をしてきたんだ?お前ならできるはずだぜ。」
その言葉に烈は真剣な表情と化す。
受け流しの具体的な方法は烈には分からない。しかし、烈は攻撃の避け方を知っているはず。
まずは前世の討論でのインプット。そして数少ない実戦のアウトプット。
これを上手く使えれば。
烈はトルが放つ拳を動かずに受け流した。
「さすがだね。今のはフェイント。避けたところを打つ、さすがに厳しいかなと思ったけど行けそうだね。」
相手の行動をよく見る。
大体の避けは2通り。さっきのは「無視」だ。相手が討論をしかけた時、逃げ場所が無いほど完ぺきな論なら変に取り繕うとせずに逃げなければいい。勝手に自滅する。
「まだまだ行くよ!」
そして第2。論点をずらす。あえて論点をずらすように導くと。
そして烈はトルの攻撃を横に受け流し、
論点をずらしたことで隙が生まれる。そこを目掛けて論破する。
生まれた横腹の隙に反撃を打つ。
バギィッ!
トルは後方に飛ばされて立った。
上手くいくとは思わなかった。
「いいじゃあないか!レツ!その意気だぞ!」
レツは褒められ気分は高揚する。
そして少しだけ調子に乗って、
「余裕だぜ!トル!このまま本気で来やがれ!」
トルが嬉しそうに声を出す。
「おー!ほんとに?」
そして思い切り力む。
「じゃあ行くよ!レツ!」
その掛け声と共にトルは走り出した。
烈はニヤリと自信満々に受け流そうとする。
烈はトルが拳の突き出しを受け止めようとした時
目の前に見える光景は真っ直ぐにそびえる太陽だった。
「これがフェイント!」
受け流し……、はできなかったが、防ぐことは出来た。
肉体が、警戒している状態ではあったのだろう。
「さすがにこれは対応しきれなかったね。これをずっと続けるぞ。」
こうして段々と2人の影面積は狭くなっていった。
烈は完全に疲れ切っていた。汗を垂れ流して、身体が痙攣している。トルはレツの様子を見て
「レツ!そろそろ昼食にすっかー?」
烈は見下されたと思い、既に息が切れていたが頑張って言葉を発した。
「舐めんじゃあねぇ!まだまだやる━━━━」
その瞬間、グルルルと何かが悲鳴をあげる音がした。
「……、飯にしよっか!」
半ば強制的にご飯に連れ出された烈(そういう体)。
家に帰るとゲレナ村長がリビングに座っていた。
「レツさん、おかえりなさい。今ミリアさんとリヤが料理をしていますよ。」
なんと疲れきった烈とトルのために精がつく料理をしてくれているとは、ミリアの成長を感じた。
汗をかいたのでタオルで身体を拭いている。拭いたあとのスッキリさは素晴らしいものだった。
しばらくしていると、軽快なステップで皿を持ってくるミリアと「危ないわよ?」と注意しながら歩くリヤが現れた。
皿の上には香ばしく、刺激がある匂いがした。1度臭ったら忘れられなさそうなものだった。
「へいお待ち!貧民街特製、ガラクタ丼だよ!」
中身を見てみると、鶏肉が入ってはいるが、皮のものばかりで一見高脂質に見えるが、茹でて脂質はしっかり落としてある。そしてレバーも入っている。ただし匂いと見た目から野菜(烈が推測するに、ニンニク、ショウガ、ニラ、玉ねぎ等)でしっかりと臭みは取れている。しかし貧民街だからだろうか、普段の家庭で使われなさそうな肉の部位を使っている。
「これどこで買ってきた?」
ミリアは天真爛漫に答える。
「ふふーん!貧民の掟その3、使えるものは使っとけ!、みんなが捨てる予定だったお肉を再利用したのだよ!刺激臭がするのは、そこら辺の草を引っこ抜いたんだよ!大丈夫大丈夫!一応薬草らしいし水で洗ったから!」
そのセリフのせいで、烈の頭に本来存在して欲しくない不安が芽生え始めた。
漠然とした不安があるが、とりあえず食してみる。
塩味が強く、疲れた身体に効いてくる栄養がこの食事を通してヌルりと入ってきた。
素晴らしい味だ。
思わず感嘆の声が口から漏れる。
「ねぇ、リヤ、レツが食べてるのリヤが作ったやつじゃない?」
小声でそう言う。からかわれたリヤは顔が赤くなり。
「だからなによ!あ、あんまりそういうこと言うんじゃない!」
と、ミリアに猛反発する。しかしリヤは満更でもなく烈のところをチラチラとみている。
一方烈は笑みがこぼれる勢いでご飯が口から溢れそうになる。
「なんだこれ、めちゃおいしい……!温かくて今まで食べてきたご飯の中でいちばん美味いかもしれねぇ。」
褒め言葉が出る度に、リヤの顔は沸騰する。
しかし烈は母親が健在だった以降まともな食事を取っていないので信頼度は今一つである。
「なぁ、レツこの後はより強く修行するぞ。」
嬉々としてトルに言われ、これは骨が折れそうだな。
食事を取り終わったあと、早速家を出た。
そしてまた同じ荒野で守護のトレーニングを続ける。
一方、烈達を見送ったミリアとリヤは何かを秘密裏に話していた。
「ほんと諦めないわね。トルはなんであんなやつに付き合うんだろ。」
と、烈達が出た何分か後にミリア達も出ていた。
烈達が修行している間なにもミリアは何もしていないわけではない。一緒に平等を目指すと誓った仲間なのだから。
村外れにある廃墟に着いた。なぜかここは神聖な雰囲気で貧民街の見た目はしているが、規模はセントラル・ルミナにあっても違和感はないほどの大きさだった。
ガラスのない窓所と天井を覆う生い茂る葉から木漏れ日が指す。
ミリアは黒の正装に着替えており、その場でストレッチをしていた。
一方リヤは、正装らしき正装も無いので比較的動きやすいショーパンで臨んでいる。
「急に修行したいだなんて、珍しいね。」
ミリアが目を閉じて健やかに笑う。
「へへーん、試したいこともあるし。なにより、今よりもっともーっと強くなりたいからね。」
リヤがジトーっとなる。
「デザイアルのため?、ほんと平等好きね。」
「私は平等を信じてるから、きっと世界は豊かになるよ!リヤも一緒に目指そ?」
突然そんなこと言われたリヤは答えを出せずにいた。世界を変えるという規模の大きな話には少々手が出しづらく、
「私はそういうのは好きじゃあないなぁ。」
と、中途半端な返事をした。さすがに失礼かなと思って、ミリアはどう思うだろうかとリヤは少し心配する。謝罪をしようとした時、
「レツもいるよ?」
「やかましいわ!」
と、何も思っていないかのような返事をされた。
リヤの心に安堵感が灯る。
「じゃあ早速始めるよ!」
ミリアの修行が始まる。




