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第16話 懸念点

トルのオーラがとてつもなく溢れている。それを無駄な消費だとは思えなかった。仕方の無い消費。末端の消費。あまりにも壁が高すぎる。


目の前に戦っているのは人間なのか。いやまて、何勘違いしてるんだ。まだ始まってすらいない。

怯む訳にはいかない。


「来やがれ!」


戦闘が開始した。


日が通らないトルの方へと走る━━━━━━はずだったのに、目の前に広がった光景は鮮やかに落ちて行く夕焼けだった。


その瞬間、背中に重い衝撃。

鈍い痛みが全身に広がる。


ミリアの口が開く。

リヤが当然だと言わんばかりに見ている。


一瞬にして烈は倒されたのだ。トルによって。


「勝負ありー!勝負ありー!」


ミリアの発言により、烈は自覚した、自分の敗北を。


「大丈夫?レツ。」


トルは烈に手を差し伸べる。腰をさすりながら烈が立つ。


「お前、強すぎだろ……。」


トルは、笑った。そして烈の前に指を立てて


「レツ、それが敗北だ。悔しいだろ。」


続けて言う。


「その悔しさを糧にして誰にも負けない強者と……なれ?」


敗北した彼に慰めるように言葉を立てる。それはなにか託すように。


「最後の最後で台無しだな。決めゼリフぐらい最後まで言えよ。」


と、呆れられながら言われる。トルがあはは……と、苦笑をする。烈は踵を返し、歩く。そしてトルに振り向く。


「なってやるよ、お前にも負けない最強に。」


烈がそう言うとトルが、頑張れと言う。2人は並び歩き出す。

この2人は友情が芽生えた。初対面のように全く見えない。


「おつかれおつかれー!」


ミリアが2人を労った。




そして家に戻る。日が暮れた。

烈とミリアは1日だけ、村長の家に泊まることにした。


そして2人は食事を摂る。まともな食事を食べたのは初めてだ。烈とミリアはバクバク食べる。


「うんまぁーーーー!!」


あまりの美味しさに2人は口を零した。

ゲレナ村長は嬉しそうに笑う。

トルも笑っている。


「ねぇミリア、今日一緒に寝よーよ!」


とリヤが言うと、ミリアが了承する。


「いいよー!」


なんとも微笑ましい会話だ。

烈の心も満たされていた気がする。


食事も終わった頃、ミリアたちは先に席を立っていた。


烈は借りた部屋でゆったりと本を読んでいる。

貧民街での特産品。水利が悪く、柑橘系の果樹園が豊からしい。烈の好きな柑橘系は、みかんだ。レモンも捨てがたいがやはりみかん。


烈達がいる場所の真反対の貧民街では、今は雪が降っているそうだ。そこで栽培されている、ほうれん草やキャベツが甘くて美味しいらしい。なぜなら霜により甘く熟成されるからだ。


ここの村でも美味しいものがあるとゲレナ村長が言っていた。明日、少し行ってみようかなと思った烈は


今日も夜を更かす為にカフェインを摂取しようとゲレナ村長の所へ向かう。階段を降りてすぐ右にゲレナ村長の部屋がある。


コンコンコン。3回ノック。


「どうぞ」


その掛け声で烈はドアを開けた。

ゲレナ村長は椅子に腰かけ、眼鏡をかけてゆったりと新聞らしきものを読んでいた。


烈が尋ねる。


「カフェイン……、目が覚めるものが欲しいんですけど何かあります?」


ゲレナ村長が新聞を閉じて、徐ろに目を閉じる。


「確か、キッチンの戸棚にスイダミンハがあった気がします。取ってもらって構いませんよ。」


烈は感謝した後、キッチンの方へと歩く。その時に何かを思い出したかのようにゲレナ村長が話す。


「それと風呂湧いているので入ってもらっていいですよ。」


ゲレナ村長がそう言った。

風呂……?ここに来てから風呂はろくに入っていなかった。


かなりハードな生活をしてきた烈は切れるものは全て切ってきたそれはもちろん風呂も。入る日もあるにはあるが、まるで滝修行のようなあまり清潔を保つ行為には思えないものだった。


シャンプーとかボディーソープとか色々あるだろうが、いまいち分からない。試行錯誤で色々やってみよう、と思う烈。


異世界での風呂は良いところなのだろうか。

リラックスできる良いところであって欲しい。

そう思い、烈はコーヒーを嗜む前に風呂場へと直行する。


湯気が立ち上る風呂の中で、あどけなさと賑々しい雰囲気に包まれた2人の女の子が体を流していた。


リヤは髪を洗い流し、ミリアは湯船で目を横に伸ばして至福の表情を浮かべている。


「いやぁ〜、お風呂なんか久しぶりに入ったよぉ」


リヤが驚く、驚いた拍子に目にシャンプーが入ってしまった。リヤが目をこすってミリアに向き直す。


「ミリア、それほんと!?」


ミリアが首を傾げる。風呂に入っていないと言っても、ミリアの髪はサラサラで黒光りしていた。


「毎日、ここのお風呂使っていいよ。」


リヤの気遣い。ミリアは


「悪いってぇ〜」


と言うがリヤは、


「臭うわよ。」


と一蹴した。さすがにこの言葉はミリアには堪えた。

渋々了承したミリア。


シャワーが済み湯船に浸かるとリヤは考え込んだ。

ミリアはぶくぶくと口まで浸かって泡を吹かせている。

突然リヤが、


「ねぇミリア、レツっていってもあんなんなの?」


と言った。ミリアは顔を出した。


「うんそうだよ、いつも自分の信念に真っ直ぐで仲間想いのいい人だよ。」


リヤは烈がトルとの戦いの時に疑問に思っていたことを聞く。


「なんでレツは、あの時あんなに自信満々だったの?」


勝てるはずがない。それなのに立ち向かう。普通は逆だ。勝てるわけが無い。だから逃げる。それをしないのはなぜなんだ、と。


「そんなの簡単だよ、烈は平等を目指してるからね!平等を目指しているのに怖気付いて、立ち向かわないなんて……えーっと、とにかく!挑戦せずに諦めたくないんじゃないかな!」


ミリアは半分は推測。しかしほぼ合っている。

リヤは顔をしかめる。ミリアは驚く。

リヤがため息を吐く。


「ミリアがどんだけ烈のことを信用しているかわかったわ。」


ミリアの信頼度が保証する烈の思想は相当なもの。烈はどんな事があっても自分の信念を通したい人だということが分かった。


でもトルが()()戦うなんてありえなかった。それだけ、トルは戦いが嫌いだった。だから比較的安全なこの村を作ったのに、トルは烈の何が気に入ったのか?なにもかもトルに劣ってる。負けたのに勝ったような振る舞いをしている。


(意味わかんない。レツ……一体何なの、変なやつ……)


複雑な心を抱いているリヤを見兼ねてミリアが言葉を出す。


「リヤはレツのことどう思ってんの?」


かれこれ長く風呂に入っている。ミリアは変貌は無いが、リヤはまるで逆上せたかのように肌が赤く染め上がってる。


「はぁっ!?別に好きじゃないけど!!」


リヤの切羽詰まっている迫真の顔にミリアは疑問に思い、その答えを考えて理解した時、ミリアは口角を上げ、にやけ笑う。


「えぇ〜別に私()()なんて言ってないよぉ〜?」


リヤは煽られると激昂した。

ミリアが笑うと今度はリヤが問い詰める。


「じゃあ、ミリアはレツのこと好きなの!?」


ミリアの時が一瞬止まる。左上に視線を向けて記憶を遡っている。だんだん頬が染っていく。


「別にそんなんじゃないかも〜……」


あやふやな返事、2人は気分が高揚している。

気分を落ち着かせるためにリヤは冷水を浴びている。

ミリアもとりあえず湯船から身体を出す。


リヤは考えれば考えるほど烈が頭に過り再び顔が染められる。


烈が浴場へ着き、脱衣所を見ると、銭湯のような雰囲気がある。しかし一般的な家庭の大きさしかない。


烈は、風呂の様子を見るためドアを開けた。


そこで見た光景はあまりにも━━━━━━━━━━


烈が大学在学中、あまりにも生活が苦痛すぎて講義中に倒れ、精神科医に休めと言われた翌日。やることがないのでたまたま目に入ったシャボン玉セットを買った。


何を思ったのか部屋で椅子に腰かけシャボン玉を呆然と膨らませた。


部屋はシャボン玉だらけだ。

そこら中にシャボン玉が引っ付いている。

烈は机に伏した。


ふと顔を上げると目の前にシャボン玉がある。

烈は艶やかで純白な2つのシャボン玉がゆらゆらと揺れているのを見た。そして2つのシャボン玉がくっつき、激しく揺れていた。


━━━━━━━━激しく揺れていた。


風呂場の湯気が外へ流れて湯気が、ぶわりと顔を撫でた。霞んでいた景色がより鮮明に見えていく。


「あ……」


完全に目が合う。


「な!な!な!なにしてんだぁぁ!!このやろぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!!!」


文字通り赤裸々のリヤが冷水シャワーを烈に向かって放つ。ミリアは湯船に浸かる。


「ぶふぁぁ!!!」


烈は目を瞑り、まともに息ができなくなる。


「すまん!リヤ!ミリアー!」


謝意を込めながら後ろに下がると何かにぶつかる。


「レツくん」


それは低く響いていた。

明白な怒りが乗せられていた。恐る恐る油の切れたブリキのように後ろを振り向くと笑顔でこっちを見る、


トルが居た。


言い訳をしようとなんとか言葉を編んでいる。

しかしその前にトルが話す。


「レツくん、君が強くなりたいのなら僕も全力で応援したい。だからさ」


ゴクリ。烈は嫌な予感がした。


「外にある丸太を持って外周して。今すぐ。」


優しさを持つ言葉に反して目は笑みを浮かべていなかった。トルは烈をたたせ、手を引っ張り外へ連れていく。そして夜も更けているのに関わらず外に出されてしまった。


外には丸太が1本置いてあった。とりあえずそれを背負って、走り出そうと前に傾いたその瞬間、丸太に下敷きにされた。


仕方が無いのでそこら辺の丸太を集めてちょうど良い重さにした。そして走り出した。


暫く走り続けた。足がパンパンになっていて、流れ落ちる汗と夜風とさっきの冷水のせいで体温がとてつもなく下がっている。


体が悲鳴をあげており脾臓が酸素を供給している。


相変わらず貧民街は活気が無い。夜は誰もいないみたいに静かだ。


魔女が抉りとったという所へ再び訪れる。とても広く、綺麗に均されてある。ここでは、月がよく見える。あれは月と言えるのかは怪しくはあるが、人っ子一人もいない。ここで叫ぼうと周りをよく見る。しかし


ん?


目を凝らして遠くの岩の上を見てみた。人影がある。

突風がビューっと吹く。


岩へ近づく。だんだん影が実態を帯びて

烈が知っている人物へと変貌を遂げる。


その銀灰色の髪色は夜の世界でも麗らかに映り、その佇まいは烈に魅せただけで格の違いを見せられた。


「なんでお前がここに……!」


「予選ぶりだね、レツくん。」


そこには本来こんなとこではなくデザイアルで戦うはずの人間。目標である存在。


ゼノが居た。

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