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第1話 不平等を生きる

「いらっしゃいやせ〜」


これは俺の毎日のルーティン。


鈴木烈(すずきれつ)は毎日、徒歩1分にも満たない、烈と店員以外は誰もいないコンビニでエナジードリンクを1本買って帰るのが日課だ。


だがしかし今日は少しだけ「ズレ」があった。


「どういうことだ……!?」


烈はふと横切ったおにぎりコーナーで震えていた。それは恐怖ではなかった。


烈は憤りを感じていた。


「なぜ、鮭おにぎりだけ180円なんだ?」


ツナマヨも昆布も160円一律だ。なのに鮭おにぎりだけは20円も上がっている。昨日までは全て160円であった。あの均一な値段が好きだったのに。


「おにぎりという同じ区切りならば、一律であるはずだ。」


なぜここに格差が生まれてしまうんだ?


烈はおにぎりの値段の不平等が許せないようだ。

そんな怒りを感じながらエナジードリンクを1本取り、会計に進む。


「ありがとうございやした〜」


烈は会計を済ませ帰路に着いた。夜ももう遅い。明日のために早くやることを済ませ寝なければならない。

烈はため息を吐きながら少ない街灯の道を歩く。


烈は朝は大学、夜はバイトとギリギリの生活を営んでいる。帰ってくるのは12時過ぎで、それぐらい働いていても学費やら食費やらで手元に残るのはスズメの涙だ。


明日も明後日もそのまた明日も、いつもと同じことを繰り返さなければならない。


「この世界は不平等だな……。」


そんなことを呟く。

今日あったことを振り返る。冷静に考えると、烈は疲れていると感じた。


ガタッと左肩が少し後ろに傾く。それに気付かず歩いていくと後ろから声をかけられる。


「よぉー兄ちゃん、肩ぶつかっちまったなぁ。」


それは烈よりも大きく烈は目を上げざるを得なかった。相手は2人。1人は方を抑えながら笑っていて、烈に話しかけたもう1人はニヤニヤとしている。


「これ骨折だな骨折!慰謝料もらわなきゃなぁ!」


男は肩を誇示する。

金髪で明らかにふざけている。


「断る。肩をぶつけてしまったことは謝罪する。申し訳ない。しかしその条件は釣り合わない、不適当だ。」


断る意志を見せると、男は烈に近づく。


「じゃお前、こっちこい」


◇◇◇


「グハッ」


男が場所の指定した所は、人どころか、街灯すらも見当たらない。リンチをするにはうってつけの場所だ。


金髪の恐らく大柄な男の後輩と思われる金髪が地面に横たわる烈を蹴った。


明らかに弱者を下を見る者が起こす音が響く。

その音は無惨にも鳴り止まない。


この世界は不平等だ。

強者ばかりが得をし弱者はただ踏みにじられる。


「ちっ……こんなの不公平だろ。」


烈はぼそっと言葉を零した。


「2対1……体格差も考慮すれば、戦力差は3.5倍……せめて俺に鉄パイプを持たせるべきだ……」


烈は更に小声で不満を表す。

その顔は息切れしながらも全く疲れていない。


「何ブツブツ言ってんだ?こいつ」


烈はフラフラと立ちながらせめてもの防御の構えをする。暗がりでいまいち相手が見えにくいが、それは相手も同じこと。


「関係ないぜ!さっさと金を出せ!」


烈は顔面を殴られた。その拍子に後ろに吹っ飛び、後頭部に強い衝撃を受けた。


段々と視界が黒くなる。

それと同時に右手に冷たい金属を感じた。


***


烈は不平等が嫌いだ。

この世界の縮図は、誰もが同じ土俵で輝けないものだからだ。


やりたいことがやれない、今の烈のようにただ嬲られるだけ、何も抵抗ができない。

だから烈はこの世界を平等に変えるために「思想家」となった。


***


本気で世界を変えるために。


烈は触れた金属を手に取り、佇んでいた。

烈が取ったものは鉄パイプだった。


「なんだこいつ!鉄パイプ持ってますよ!先輩。」


金髪がビビると、大柄な男はまだ笑う。


「なぁーに、こっちのが数では有利だ。」


2人は構える。

烈は口角を上げる。


「さっきの痛み……平等に返してやるよ!」


絶対勝てないことはわかっている。

体格差も歴然だし、数も不利、おまけに戦闘経験もない。不平等だ。


しかし世界を平等に変えるならまずは不平等で生きなければならない!


烈はパイプを下に向け両手に走り出す。

相手も走る。


金髪はパイプを警戒しながら右拳を大きくあげストレートを放つ。烈はその伸ばした腕に鉄パイプを当て、起動をずらす。


大柄の男の追撃、ために貯めて左フックを放ちそうだ。烈はその前に大柄の男の腹部に蹴りを入れようとする。


しかし金髪の男が予想以上早く復帰し攻撃どころか、反撃されてしまった。


烈はまだ勇敢に立ち向かう。

だが大柄の男は目の前に立っていた。烈は手に持っていた鉄パイプを落とした。


◇◇◇


目が覚めると目の前には財布が落ちていた。


不幸中の幸い、烈は金欠だったので、ギリギリの多少の金しか盗まれていない。


痛んだ体を抑えながら、警察に通報することもなく家に着く。大事にすると烈にも被害が出るからだ。先程の戦いの鬱憤を晴らすが如くパソコンを立ち上げ何かを書き始めた。


「現代社会は不平等のゴミ溜めだ。金と権力が全てを牛耳り、弱者はただ踏みつけられる。この腐ったシステムをぶち壊さない限り、誰も自由にはなれない!」


烈はいつも「平等の炎」という匿名掲示板で自分の思想を吐き出している。


ブログは過激だったが、ネットでは数千人の支持者がいた。コメント欄には賛同や批判が飛び交い、烈は夜通し議論に没頭した。


だが、現実は厳しかった。


バイトと学業の両立で睡眠は3時間。過労で目眩し、手が震える。


なんで人は対立し合うのか。自分自身を語るのにどうして他人を犠牲にしなければならないのか。


強くキーボードを打つ。

すると傷が痛む。動いたり感情的になればなるほど血が滲む。


「…くそ、こんな生活も不平等の産物だろ…」


烈は母の遺産を使い大学へ行き、社会学を専攻する24歳。大学とバイトとこの発散時間を組み入れて睡眠3時間ほどしかない。


「この世界は不平等だ。誰もが、輝けるそんな世界を俺は目指したい。」


エンターキーを押す。全てのストレスを乗せて。


エナジードリンクを一気飲みした。


瞬間、ドクンと脈を打った。これは烈自身が感じ、そして聞いた。


全身から力が抜けていき、動けなくなる。意識が朦朧とし視界が閉じていく。


心臓が早鐘を打ち、限界を超えたエンジンが焼き付くような音が体内で響く。


これは眠いからか?と思ったがその推測は違うと分かった。


先程の光景が目に浮かんだ。あの不平等、そしてこれまでの人生が視界を駆け巡る。


不平等の塊の人生。

そして烈は確信した。


これは「死」だ。


すっと、内蔵が浮くような感覚がした。

烈は怒りが湧き出た。


くっそ!神すら俺を見捨てたのかよ、

最後の最後まで敗北してしまった……!

復讐できなかった。俺の身体と心をも愚弄し蝕ませたあいつらに!


烈の意識はプツンと切れた。


ーーー


目を開けると、そこは見知らぬ世界だった。

整備されてない草と土しかない路地、煤けた建物、遠くにそびえる巨大な薄汚い時計塔。


烈は呆然と周りを見回した。


「…何だこれ? 夢か?」


だが、汗と埃の匂い、遠くの喧騒、肌を刺す冷たい風はあまりにもリアルだった。

腕に鋭い痛みを感じ、見ると擦り傷から血が滲んでいた。服はボロボロのジャケットとズボン。転生前のスウェットとは別物だ。水たまりに映る顔は、16歳くらいの少年。黒髪、前世と同じくらいの鋭い目つき、青白い肌。


別人のように感じる。


「…俺、若返ってんのか?」


混乱する頭で考える。眠っていたはず。いや死んだのか?死んだらどうなるかなんて考えてもなかった。ありえない話だが、目の前の世界は現実そのものだった。


(転生ってやつか?)


そう思った瞬間。突然路地の奥から叫び声が響く。


「やめて! 離して!」


少女の声だ。助けを求めている。


烈の足は自然に動いていた。自分と重ねてしまった。

強者からの不平等に対して胸を熱くした。

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