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不死の軍団  作者: svn
9/20

■君は薔薇より美しい

どのあたりからだろう?馬車が道なりに進むと、芳しい花の香りで心が軽やかになる。

ふーっと自然と深呼吸をする。吐き出すのがもったいなくなるような、気品に溢れた香り。

「薔薇の街」。そう形容されるこの街に足を踏み入れると、香りは一層強い。

街角には、薔薇園への目印が随所に並ぶ。街の中心に大きな薔薇園があるのだとか。

観光名所として名高いその公園。優しい薄紅色、幾重にも重なる花びらは肉厚だけど、決して嫌味には見えない。

茎はスーッとまっすぐ、花びらをしっかりと支えてて、花を誇らしく支える健気な仕草に感動すら覚える。

青々とした、陽の光を全て受け止めようという葉は、生命力を感じさせてくれる。

茎や葉と調和した花びらは、正に芸術だと思える。

私の名前はリナ。兄バースを訪ねて、その旅の途中だけど、今は薔薇園で休憩中。


「ひさしぶりね」

女性が走ってきて笑う。見ればうっすら汗をかいてるよう。

ハァハァ、と息を切らして胸を抑えている。よっぽど急いできたのだろう。

彼氏がいる。彼女を見て、嬉しそうな恥ずかしそうな感じで佇んでいる。

彼女のほうは大胆で、彼氏にそっと頬を寄せる。

遠巻きに見てる私達も気付くぐらい、ポーッと彼氏のほうが赤くなった。

それを見て、ケタケタと笑い始める、同行している兄のリュート。それを幼馴染のキースが口を抑え込む。

「お兄ちゃん!失礼よ!」と私も咎め、カップルの邪魔にならないように奥へ進んだ。


***

赤子のミーノはスヤスヤと、キースの妹エレナの胸元で寝ている。

執事見習いのシンは日傘で、ミーノを燦々と降り注ぐ日光から守ってあげている。

薔薇の花びらの奥に、そっと鼻を埋もれさせる。爽やかだけど濃厚な、甘美な香り。

鼻先が妙にムズムズする。慌てて顔を上げると蜜蜂だった。

驚いて飛び退く私を尻目に、羽音を立てて逃げていく姿を見て、エレナはクスリと笑う。

私も思わず、はにかみ笑顔。リュートがブッと吹き出し、「ドジっ娘」と呟く。

「もう!お兄ちゃんてば!」

いつもの何気ないやりとりの中、キースはなんだか浮かない表情。

「どうしたの?キース」話を変えようと、キースに近づく。

キースの視線の先。さっきのカップルだ。声までは聞こえないが、何か言い争ってるようだ。

彼女がこちらに走ってくるのが見えると、キースの胸元にスッポリ収まった。

固まるキース。何が起きてるのかわからない私とリュートは、キョロキョロと互いの反応を伺う。

そこにエレナの「キースのうわきもの!」の一声で、皆、ハッと我に帰った。


***

彼女は泣きじゃくって話にならない。

キースは「やれやれ」と、そっと肩に手をやり、「さぁ」と、ハンカチを手渡す。

ズッズビー。渡されたハンカチで豪快に鼻をかむと、ため息をひとつ。

やっと落ち着いたようだ。

キースに抱きついたのは、彼女のお父さんに似てただけだって。

フフッ。キースの春なのかと思ったのにね。

それはさておき、話を聞くと、彼氏のあまりに不器用な態度なので、言い争いになったんだって。

言葉は強いけど、惚気話しよね、これ。

不満をぶちまけたいのだろう、と皆聞き手に回ってる。

うんうん、と頷き、相槌を打って話しやすいように仕向ける。

私達はこう見えても聞き上手なのよ。エッヘン。

「・・・というわけなの。あんな不器用な人、もう知らないわ!」

ひとしきり喋り倒したと思ったら、彼女の表情は晴れ晴れとしていた。


そこに、大きな花束を手に持つ彼氏が駆け寄ってきた。

服はボロボロ、手先には血が滲んでる?

ハァハァ、と息を切らしているが、顔は真剣そのもの。

彼女が振り向くと同時に、彼は意を決したようにその場に膝をつく。

薔薇園のざわめきが、一瞬で静まり返った。


***

彼氏は、小箱をパカりと開ける。指環だ。

彼氏は叫ぶ。

そう、あの薔薇より。薔薇よりも美しい。

目には見えないけれど、その背には羽ばたくための翼が広がっている。

結婚しよう。

黙って頷く彼女。目にはキラリと光るものが。

抱き合う二人を、私達も、他の観光客も祝福する。


彼氏のプロポーズの言葉がやけに響く。

その熱い気持ちを応援したい。私は口ずさみ始めた。

この世界の言葉ではない、圧倒的な声量で歌われる、その歌を。

その声量には負けられない、対抗心も歌に乗せて。

男性が女性に惚れ直す、そんな歌。女性への恋慕を真っ直ぐに歌詞に乗せた歌。のはず。

居たのは薔薇園の中央。ベンチが並び、木々は豊かに繁っている。

そんな中私は光る。燦々と降り注ぐ日光さえも、私の前では陰ってしまうほどの強さで。

光は四方に広がり、影の無い世界を作り上げた。

キースは、女神を崇めるような目で、リナを見つめていたのだった。


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