■フォルティシモ
馬車は、地平線に向かって進む。どこまで行っても地平線。そんな気持ちになる。
まっすぐ、まっすぐ。ただまっすぐ進む。
風は私達を迎えてくれるように、ザワザワと心地よく吹き続く。
俺はキース。伯爵領代官の娘、リナの護衛を承った。
俺にとってリナがすべて。今こそ誓おう。
遠くで、かなりの速度の一団が見えた。
野生の馬か。何頭いるだろうか。砂塵を巻き上げ、ただ奔放に駆ける。
黒、茶、白、まだら。色は様々。
どれも尻尾にツヤがある。綺麗だ。
どこに向かうのだろう。時折疲れたのか、歩く馬も居る。
風の集めてきた、ほのかな土の匂い。どこか獣の匂いもあるが、悪い気はしない。
赤子のミーノは、妹のエレナに抱かれながら、リナの兄リュートとじゃれ合ってる。
***
次の街はまだ遠い。
リナはウトウトとしている。長旅だ。疲れが出たのだろう。
執事見習いだというシン。いつも無表情で得体が知れない。
警戒は一応しているが、これまで変な動きはない。
牧草地帯に見えるのは牛だ。強靭な角、長い髭、毛に覆われた前躯。どれも力強さを感じさせる。
近づいても意に介さない。ひたすらに草を貪っている。絶対的な自信なのか、鈍感なのかは分からない。
ふと気がつくと、喧嘩を始めている。額を突き合わせて押し合う。
雌を奪い合ってるのだろうか。
***
ひょこっと、モコモコしたナニカが頭を出した。
キャンキャンッと子犬のような鳴き声のソレは、さも当然かのように休憩中の俺達に近寄ってくる。
人に慣れているのだろうか、リナは持っていたナッツをあげている。
「かわいい!」リナもエレナもメロメロのようだ。
ミーノはハイハイで追いかけている。ここで泥だらけは勘弁してくれ、ミーノ。
陽が沈む。景色が昼間とは打って変わって真っ赤に染まる。
何もない場所、と思っていたが予想もしない絶景。
ただの日の入りだったのに、ここまで心奪われるとは思ってなかった。
一歩前に出て、頬を伝った涙を拭う。こんな顔はリナには見せられない。
一緒に夕焼けを眺めていたリナ。
ジジジジジッ!ジジジジジッ!
蛇だ。大きな蛇。子犬のソレであれば、丸呑みするであろう大きさのヘビ。
威嚇であろう金属音を発している。
***
とぐろを巻き、時折舌なめずりが見える。こちらの隙を窺っているようだ。
ゆっくり剣を抜き、リナを背に、中段に構える。
剣先を相手の額に向け、深呼吸して集中する。剣を固く握る。
言葉では表せない、熱いたぎり。リナを守る!
リナが安全圏まで下がった気配を感じ取る。
勝負は一瞬だった。
敢えて作った隙。大蛇はまんまと罠に嵌り、頭部を両断した。
リナをちらりと見ると目が合う。
ふーっ
ふたりで同時にため息を付いた。
我慢できずにリナが吹き出すと、俺も思わず笑い出す。
なんだ、なんだとエレナとリュートが近づいてくる。
リナが歌い始める。
異国の言葉。謎の言葉。それでも伝わる思い。
美しい歌声。どこまでも届く、不思議な歌声。
強い、極めて強い歌声。いつにも増して光ってるようだ。
俺にとってリナがすべて。今こそ誓おう。
強く、強く思う。




