■風の通り道
大陸分水嶺。尾根にもたらされた天の恵みたる雨の行く末が変わる場所、らしい。
そんな場所を越え、湖に向かって下ってゆく。
これが風光明媚なのね。道はしっかり整備されてるけど、山を切り崩した断崖にある。
時折突風がバッと吹き荒れる。ゾクッと刺さるように寒い。飛ばされない?私。
ヒェー。底は暗くて見えない。落ちないように気をつけなきゃ。
見上げると、谷の奥に見える山は全て、どこかトゲトゲしい。
山頂はツルツルだけど、中腹は林がフサフサ。
フフフ
スキンヘッドのオジサマが髭を蓄えてる、そんな印象だ。
私達の前を進む一行は、立ち止まって景色を堪能してる。
この道は「陽の道」って呼ばれてるって後で教わったわ。
***
湖は本当の鏡のよう。
シンッと波ひとつない瞬間は、そこに湖があることを忘れた。
真っ青の空、まばらに浮かぶ雲、尾根に雪を残す山々、全てを見事に写し返す。優雅に羽ばたく鳥さえも。
森の、ずうっと奥から生まれたであろう、冷たい風。
断崖で浴びたものとは格別の冷たさ。でも今はなんだか心地よい。
ふわり、ふわりと私の髪をなびかせて過ぎていく。
両手を広げ、目を閉じ、ぐーーーっと背筋を伸ばす。全身で受け止め、風と一体になる。
うーん、最高。
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見渡すと、一面真っ白な帽子のような花。スーッと茎が伸びてて、どこか甘い香り。
別のところには、鮮やかな赤やオレンジの花。他には、うつむき加減の黄色い花。
これが色とりどりってことね。丸っこくて、モコモコな毛玉が2個、仲睦まじい様子。
蜂ね。耳元を通るのはやめてよ!ブーンってちょっとビックリした。
釣れた魚を見せててもらった。この湖の象徴らしい。喉に赤い鮮やかな筋。丸々としてて食べごたえありそうね。
湖の近くは、ふかふかの土ではなく、砂利が多い。歩く度にザザザと音を立てる。これはこれで楽しい。
この湖は、昔から「母なる湖」とか、「神聖な女性の湖」なんて呼ばれてるらしい。
「陽の道」も、「母なる湖」も、神秘的な呼び方よね。でもどこか納得しちゃう。
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今度は、ビューッと強い風。ここは風の通り道なのだろう。
ふと、この風はどこを旅するのだろうか。と考えていた。
私達は兄バースに会う旅だけれど、風は何のために旅をするのだろう。
私は歌っていた。
ゆったりとした曲調。透き通った、やさしい歌声だった記憶が蘇る。
歌詞の意味は理解しているが、言葉そのものはわからない、その歌を。
私は光り出す。湖畔の片隅で。世界の片隅で。
「神聖な女性の湖」に似合ってるかな?少しは神聖な女性に近づけるかな?
あとから、そんなつまらないことを考えた。




