■Fly Me To The Moon
ひとことで言えば、『雄大』という表現が相応しい。
足元を見渡せば、低木がまばらに群生する。乾燥した環境に強く、岩の多い場所でも育つらしい。
平地とはいえ、一定ではなくデコボコね。大きい岩、小さな石、人の手によるものでないのはわかる。
歩きやすいように、小道を整備してくれている。これはありがたいわ。
私はリナ。兄を訪ねてどのくらい来ただろうか、まだ会えていない。
***
円錐形の丘を登る。この丘は、火山活動によって作られたらしい。「地獄の業火の丘」なんて怖い名前よね。
ちょっと大きめの岩をヒョイと手に取る。思った以上に軽くてビックリした。よく見ると穴がいくつも空いてる。
兄を追いかけて丘を進む。半分観光なんだけどね。
長男バースとは似ても似つかない次兄リュート。
うおーーーーーーーーーーー
叫びながら、丘を駆け上る。足が地面を蹴るたびに、砂煙が昇る。
なんの意味があるのよ、リュートお兄ちゃん。
それを見て、幼馴染のエレナはポーッとしている。
エレナの気持ちは知ってるけど、アレのどこがいいの!?
エレナの兄キース、執事見習いのシンは後ろを歩きながら押し黙ってる。
赤子のミーノは、エレナの胸元でお昼寝中だ。
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この丘にきたのも、「私を"月"に連れて行って」というエレナの言葉から。
エレナは、どこからか、この丘が"月"って呼ばれてることを聞きつけてきた。
「"月"から見える春がみたい」、だなんて、どこか詩的よね。
ミーノを私に預け、リュートに追いつくと積極的に手をつないでる。
丘の頂上で肩を寄せるのを見て、「ふたりきりのほうが良さそうね」と呟く。
キースもシンも察してくれたのか、一緒にふたりを見守ってくれてる。
・・・それにしてももどかしい。リュートお兄ちゃん、次の一手よ!
***
月、エレナの言葉、二人の仲睦まじさを見て、あの歌を思い出す。
この世界の言葉ではない、知らないはずの歌。
ある時は男性が、ある時は女性が、いろんな人に歌われた歌。
特に思い出すのは、女性の歌声。
言葉はわからなくても、歌の意味はわかる。
その歌は、愛情そのもの。好きだ、という純真な心を綴った歌。
私は歌っていた。私達以外が居ないこの丘で。
朝方の丘、日陰になってる場所はまだ肌寒いその場所で、私は歌う。
丘を照らし、低木を照らし、ふたりを照らす。
歌い上げて、ふたりを見上げたら、ふたりとも涙を流してたっけ。




