■夏色のナンシー
針葉樹林の奥に聳える真っ白な屋根。真夏だというのに山の頂きは雪に覆われる。
その自然が織り成す建造物を見上げると、どこか気持ちが豊かになる。
私はリナ。私の兄バースには会えなかったけど、今日は山登りに挑戦する。
赤子のミーノはさすがに連れてはいけない。幼馴染のエレナと一緒に宿でお休み中よ。
私のお目付け役、もう一人の兄リュートもミーノの相手。エレナと疑似親子を実践中。
山までの道程はしっかり舗装されてて案外歩きやすい。
木の実を求めてササッと走り回るリスがピタッと静止する。なんとも可愛らしい。
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やがて林を抜け、日を全身に浴びるようになると岩場が多くなる。とうとう舗装されてない場所まで来た。
私達以外にも、結構登山客は多い。皆それほど荷物を持つわけでもなく軽装だ。軽そうな背負袋と、せいぜい登山用の杖を持つ程度。
エレナの兄キースが先頭を、歩きやすい足場を選んで歩いてくれている。
最後尾、といっても3人だけど、後ろには執事見習いのシン。私が転んだ時のために後ろにいる。
もう!そうやすやすと転ばないわ!
ズデン!思いとは裏腹に足を取られて尻もちを着く。
「リュートとエレナがいなくてよかったな。」キースが振り向くと笑みを浮かべながら手を差し伸べてくれた。
何度か転びながらも尾根付近に到着すると、カップルが景色を眺めていた。
***
周囲に残る白い雪と、雲のない青空の調和。どこを見るでもなくぼうっと遠くを眺める。
スー、ハーと深呼吸すると元気が湧いてくるような気がする。
さっきまで仲睦まじいカップルが今度は言い争い?でもしているようだ。
ちょっと面白かったのは、突風がバババッと吹き荒れる度にカップルの様子がコロコロと変わる。
特に彼女のほう。そういう年頃なのかな?
なんだか私の野次馬魂が灯ったらしく、つい彼女に話しかけてしまった。
言い争いの直後だったから、彼氏さんはちょっと遠くに居た。
岩場に腰掛けて、他愛のない挨拶やら何のことはない世話ばなしに花を咲かせていると、彼氏さんはナンパ?をし始めた。
褐色の肌がきれいな女性。そういう印象の女性に声を掛けてる。
私が話しかけてるのもあるだろうけど、彼女をほっとくなんて失礼ね。
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彼女はナンシー。気さくな性格で、ふんわりとした髪型にパッチリお目々。華奢な体が衣服のうえからでも判る。
雲がないから、時間が止まっているようにも感じられる。
つい踏み込んだことを聞くと、朗らかな笑顔で語り始める。
恋かな?愛かな?
恋じゃない!愛じゃない!
去年からの付き合いらしいけど、大人になったこと、自立したことを認めてもらいたいらしい。
一息ついたところで、ハッとした顔でナンシーが彼氏さんのほうに走っていく。
静かに手を振り合い、私達も下山することになった。
下りの道中、山の爽やかに、そしてやさしく吹く風に、ナンシーのことを思い出していると、歌を口ずさんでいた。
小麦色に日焼けした女性がニッコリと微笑みながら歌。
歌詞に出てくる言葉はさっぱりなのは言うまでもないけど。
揺れる女性の気持ちを表したその歌を。
山を下るまでの間、転ぶのも忘れて何度も光ってしまった。




