■スマイル・フォー・ミー
着いた!やっと着いた。
私はリナ。侯爵領事館で働く兄、バースに会いに来た。
バースが働く領事館は、侯爵領中央にある。
侯爵領事館に向かう大通りを背伸びするように歩く。
道路は整備され、とにかく広い。ゴミのひとつも落ちてない。
これが都会かぁ。私達の故郷、帝国最南西に位置する伯爵領とは大違いなわけよ。
道路を囲む建物はどこかきらびやかで、どれもこれもお日様を遮るように背が高い。
眩しい!時折目に飛び込む陽光は、影が強い分、一層力強さが増す。
ピューッと風が吹くと、建物のせいか、いつもより強く吹いてる気がする。とにかく寒い。
湿った感じがあるのかな?故郷の風は、もっとこう熱かったような。
悠々と歩く人たちと比べて、私達はキョロキョロ、ソワソワ。「田舎者」って思われてたりして。
先を行く幼馴染のエレナの抱くミーノは、いつもと同じでキャッキャッと両手で愛想を振りまいてる。
ミーノのあまりの元気ぶりに、エレナも大変そうだ。
エレナの半歩後ろを歩くのは、次兄のリュート。護衛騎士でも気取ってるのかしら。
動きだけは機敏に周囲を警戒している。野次馬先でも探してるのかな?
私の隣には、エレナの兄キース。キースだけはキョロキョロしてない。落ち着いたものね。
いつもどおり、私の歩幅に合わせてくれてる。安心して観光させてくれる。
シン。執事見習いの彼は別行動。宿の手配に走ってる。いつも頼りにしちゃうのよね。
***
侯爵領事館は、荘厳な門に門兵が三人。門の両脇で、槍を手に微動だにしない二人と、忙しなく応対する受付係が一人。
キースが受付係に話を通すと、領事館に迎え入れてもらえた。
応接室に通される。「しばしお待ちを」と給仕の方がお茶を用意してくれた。
お茶も高級みたいで、如何にも香りが違う。シナモンかな?オレンジかな?香りが印象的でさっぱり爽やかだけど、甘味が強い。
エレナはわざわざ砂糖を追加してるみたいだけど、流石にいらないんじゃない?
お茶請けにはなんとチョコレート。高級菓子よ。これは是非堪能せねば。
ひとくち、パクリ。鼻を抜ける濃厚な味わいの甘味の中に、カリッとした食感。食感のあとに広がる塩の味。
濃厚さを際立たせてくれる。ちょっとビックリしたけれど、これがチョコレートなのね。
お茶にお菓子にと夢中になっていると、館の執事長様がいらっしゃった。
執事長様が言うには、バースは領の東に使いに出ていると言うのだ。
えーん、がっかり。会えると思ったのに。
肩を落とし、トボトボと門を出ようとしたところで、お茶を出してくれた給仕の女性が声を掛けてきた。
「あのぅ、ちょっとお話が・・・」
***
街の名物だという喫茶店に入る。シンと合流もしたいし、落ち着いて話すには丁度いいよね?
喫茶店の名物だという「コーヒー」は、私以外も皆初めて。
芳醇な香りに何故か落ち着く。独特な苦味に続く後味の爽やかさは、さっきいただいたお茶とも違う。
「あ、おいしい」
そんな素直なひとことに、給仕の女性ファナは思いがけずニッコリ。
彼女は、バースと付き合っているらしい。
私達が兄妹だってことは、帰り際に知ったのだという。
バースが赴任した直後は、行き違いで仲が悪かったんだって。
でもあるとき、野犬に襲われた所を助けてもらって、そこから。
その後は、やれどこのデートは良かっただの、あの夜景は二人だけのものだの、とにかく惚気の応酬。
***
そんな彼女の告白を聞き終えたところで、とある曲を思い出した。
両手を広げ、太陽のような笑顔で踊る若い女性。
ニッコリと微笑むと八重歯が印象的。
そんな彼女が元気いっぱいに歌う。
恋心が弾む、そんな歌。
街角で見た、強い陽光に負けないほど眩しい気持ち。
真っ直ぐな恋の気持ちを歌い上げる。
私のために笑って。
あなたのために笑顔になる。
最初から最後まで、元気に、元気に。
思い出した先から歌っていた。
振り付けだって踊れちゃう。
私はいつもの通り、皆を光で包む。この気持ちで、優しい気持ちで。




