家族と月におくられて
4度目の投稿です。
「そんなのダメだ!」
月の綺麗なある夜、若いものが異論を唱えた。
「ええんじゃよ、もう」
もうこれは、決まっていることなのだから。
「何がいいものか! あんたどうなるかわかってるのか?」
「わかっておるよ。その上でええと言っておるんじゃ」
口は悪いが、わしのことを心配しているのがよーくわかる。この子は本当にいい子に育った。
「じいさん、どうしてそんなに落ち着いていられるんだよ……」
「おじいちゃんっ」
「じーじぃ……」
別の子達が言った。何が起きているかはわからない子もいたが、わからないなりになにか察したのだろう。
この子も、この子も、この子も……。皆ええ子になった。
「わしは幸せものじゃ。こんなにも、皆に慕われて生きている」
「それは、じいさまが私たちに恩恵を与えてくれたからです」
「そうだぜ、俺はただ借りを作りたくないだけだ」
皆わかっている。もう、これはどうしようもないことだと。それでも、それでも皆一様に反対する。
「本当はわかっているのだろう? もうどうにもならないことくらい。ならば、最後の夜くらい静かに過ごさせてはくれんかね?」
「でもっ……」
「じーじぃ」
「おぉすまんすまん。そんなつもりは無かったのじゃが……。おまえたち、泣くことはないんだよ? これは、決して不幸なことではないのだから」
そういっても、笑っているものは誰も居なかった。
「いいかい、お前たち。わしは充分に人生を全うしたのじゃよ。充分すぎるくらいに。その永い永い人生の間に、家族が増え仲間が増えた。わしはとても楽しかった。この人生に、何一つ悔いは残っていないのじゃよ」
「ウッ……ウッ……」
「俺は泣かねえからなっ」
ほんとう、いい子達ばっかりじゃ……。全く、わしまで泣きそうになってくるわい。
しばらく月を眺めて、心を落ち着けた。
……わしは、良い最後を迎えられそうじゃな。こんなにも恵まれている。
「わしがいなくなったあともまた新しい命が芽吹き、育っていく。その手伝いがわしの余生の生きがいじゃったが、これはその最後の手伝いじゃ」
「うわああああん」
ついに、小さい子が大きい声で泣いてしまった。それにつられるように皆声をだして泣き始めた。
「わしはこの土地が大好きじゃ。鳥も、リスも、柔らかい土も、心地よい風も。だから、わしがいなくなったあとのここをよろしく頼まれてほしい。それが、この老いぼれの最後の望みじゃ。皆、わかったかな?」
「はいっ……わかりました……」
皆の中では、比較的年上のものが応えた。きっと、この土地を良い方向へ導いてくれるだろう。
「では、皆そろそろ休みなさい。わしも疲れた……」
「じーちゃんっ!」
「なぁに、これが別れというわけではない……。わしのあとをつぐものが、また現れる……。その時に、その子をかわいがってやってくれ。おっと、また頼みごとをしてしまったな。悪いがこれも追加しといてくれないか」
月が明るかった。
「きれいな月じゃ。冥土の土産には最適じゃのう……。ばあさん、よろこんでくれるかなあ」
そういった時、急に眠気が襲ってきた。
「ではな、皆の衆。さらばだ」
段々と意識が薄れていく。月が段々と闇に覆われていく。だが、その月が消えることは決してなかった。
「ねぇ、ママー」
「ん? なあに?」
「ここの大きなイチョウさんどこにいったの?」
「ああ、ここの大イチョウね。この木はね、中が腐っていて、もうどうしようもなかったらしいの。それで伐採することにしたんですって」
「くさ? ばさ?」
「まだあなたには早かったわね」
「?」
「つまりね、このイチョウさんはちょっと遠いところにいったのよ」
「もう会えないの?」
「そうねえ。もう会えないでしょうね」
「イチョウさんに会えないの、さみしい……」
「そうね、ママも寂しいわ。でもね、イチョウさんは疲れちゃったの」
「つかれた?」
「そう。だから、お疲れ様って、ゆっくり休んで下さいねって。ほら、チカちゃんも言ってあげて」
「うん、わかった。
いちょうさん、おつかれさま。ゆっくりやすんでください」
その時、風は吹いていなかったが、確かに木々がざわめいた。
友達に見せたら、童話っぽいっていわれました。
そう、なんですかね?
童話っていうのがいまいちつかめない今日この頃です