新人冒険者と宝箱
「まいったなあ~。」
「どうするの?」
ここはダンジョン、まだ1階層目の比較的入り口に近い通路。
15歳の誕生日、成人した。
で、その日の内に町の冒険者ギルドへ行き、冒険者登録した。
まだまだ駆け出しのFランク、新人だから当たり前。
同じ時期に同じく冒険者登録した、幼馴染のマリーと共に、直ぐさま町に一番近いダンジョンへ。
ろくな装備も無しで挑み、モンスターと遭遇。ギリギリの勝負を制し、討伐に成功した。
何か、ミミズみたいな魔物だったが、体当たり攻撃さえ避ければ俺達でも倒す事が出来たのだ。
そして、倒したモンスターが宝箱を落としていったのだ。
「宝箱、だよな。」
「見れば分かるでしょ!」
遠慮がないマリーは軽戦士、俺は戦士だ。
「えーっと、まず宝箱を調べるんだよな?」
「そうね、トラップとかあったら嫌だし。」
だが、俺達はスカウトのジョブを取っていない事に気付く。
「どうやって調べるの?」
「仲間にシーフとか、スカウトのジョブ持ちが居れば良かったのにね。」
「鍵開けなんて出来ねえし、調べるっつってもなあ。」
魔法使いならばこういう時、解錠の魔法が使えるのだろうけど。
「やっぱりトラップの可能性は低いと思うわ、ここはまだ低層だし。」
「まあ、万が一トラップが発動しても大したもんじゃないだろうし、出口まで走れば良いや。」
「入り口が近くて助かったわね。」
こうしていても始まらない、俺は意を決して宝箱に近づく。
「大丈夫?」
「ああ、へーきへーき。何も無い。トラップは無さそうだ。」
身体を張って調べたが、取り越し苦労だったみたいだ。
「さてと、鍵は掛かっているかな?」
「ちょっと! もっと慎重にやりなさいよ!」
「そんな事言っても、トラップが無かったじゃんか。」
「そうだけど、開くまで分からないじゃない!」
うーん、確かに。もしミミックだったらヤバいし。
「それに、こんな低層階のモンスターが落とす宝箱なんて、きっと大した物は入ってないわよ。」
「そんなの分からないじゃないか、もしかしたらお宝かもしれないだろ。」
「どうせ「傷薬」とか、鑑定が必要な謎のアイテムよ。」
うーん、もし鑑定が必要なら、調べて貰うのにお金が掛かるんだよなあ。
冒険に出たばっかで、お金なんて持って無いし。
「傷薬でも売ればいくらかにはなるだろう?」
「そんなの分らないじゃない、それにもし傷薬なら私達が持ってた方が良いわ。」
「うーん、確かに。冒険者って生傷が絶えないからなあ。」
とにかく、宝箱を開けてみないと分からない。
「鍵が掛かってたらアウトだな、なあ、この宝箱ごと外に持ち出しちゃ駄目かな?」
「その途中で徘徊するモンスターと遭遇戦になったらどうするの!」
「そうか、見た目も重そうだしな。」
「何て言うか、発想が新人じゃないわよね。アンタ。」
「こうしていても始まらん、よし! 開けるぞ!」
ゆっくり、慎重に、宝箱の蓋を恐る恐る開ける。
「開いた!」
「なになに! 中に何が入っているの?」
宝箱を開けたら、俺の背中からひょいっと身体を覗かせ、マリーがはしゃいでいる。
「ちょっと待て、落ち着け、お前さっきまでの慎重さはどこいった?」
「それはそれ、これはこれよ!」
まったく、昔からこいつは。
宝箱の中身を確かめる為に、俺は中を確認する。
そして、宝箱の中身には一枚の紙きれが。
「なになに! 魔法のスクロール? それとも宝の地図?」
「だから落ち着けって、えーっと、何か書いてあるな。何々?」
その紙切れには、こう書かれていた。
『怪盗雷電3号、参上!』
「なんじゃこりゃああああああああ!?」
「雷電3号って誰よおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
こうして、新人冒険者はまた一つ、経験を積んだのかもしれない。