7話 冗談じゃん
家に帰ると、既に母さんが帰っていたようで、夕食を作っている最中だった。
「ただいまー」
「あら、おかえり。今夕食を作ってるからちょっと待っててね」
「はーい」
我が家の今日の夕食はカレーらしい。食欲そそるスパイスの香りが鼻腔をくすぐった。
それを見ながら荷物を自分の部屋に置き、再びリビングへ。ララもリビングで見たいテレビがあるらしく、料理が出来るまで部屋にいるようだ。
「母さん、今日の夕食カレーだよね? もうできる?」
「んー、もうちょっとかな? 先風呂入っててもいいよ」
「あーじゃあそうするわ」
最近は少しずつ熱くなってきたし、結構を汗かく。
学校じゃ部活もやってるから、帰る頃にはベタベタするのだ。私はどっちかというと汗をかきにくい体質ではあるけど、にしてもこのベタベタ感を放ったまま食事をするのは嫌だ。よって私は風呂に入った。風呂は既に母さんが湯を張っていたらしく、簡単に水を流した後ゆっくり浸かった。
はぁ……生き返るぅ………。
温かいお湯が体の疲れを浄化していく。特に今日は前世の記憶なるものが戻ったせいで頭が疲れた。未だにどういう状況なのかいまいち掴めていないが、まあ記憶が戻ったことでいいこともありそうだし、一先ずは放っておいていいだろう。
少し浸かっているとのぼせそうになったので体を洗って風呂を出る。リビングに戻ると、まだララがテレビを見ていた。映っているのは『青春のクソページ』というバラエティ番組。最近始まった番組で色んな俳優や女優の人たちが世界各国で行われる祭りやイベントなどに参加するというものだ。
ララが好きだと言っていた俳優も出演している。わざわざリビングにとどまっている理由は言わずもがなそれが原因だろう。
「母さん、風呂あがった」
「はいよ。んじゃ、机の上片付けといて」
「うえぇ、めんどい……」
「じゃないと夕食食べれないわよ。いらないってなら別にいいけど」
「いりますいります! 今すぐに」
夕食が食べられないと私は二日くらいで死ぬからな。適当に机にあったものを下に降ろす。
机にはララの宿題らしきプリントや教科書が広げられていた。見たところ大した量進めている様子はない。おそらく、番組が始まるまでに進めようとしたがあまり進められなかった口だろう。私もたまにやるのでよくわかる。
「ララ、この教科書どうすればいいの? 捨てていいの?」
「ダメに決まってるでしょ? それ明日までに提出するやつなんだから。適当に置いておいてよ、あわよくば鞄の中に入れてくれると妹は喜ぶよ?」
「はいはい、じゃあ地面でいいな」
ぽとっと教科書たちが地面に広がった。
「ああ! もう! ルリ姉相変わらず意地悪! 妹が頑張ってやった宿題をゴミみたいに捨てるなんて!」
「そう思うならお前も片付けろ。私だけ不公平だ」
「きゃん!?」
首根っこ掴んでララを立たせる。
妹だからって容赦はしない。自分のものは自分で片づける。これは前世から続く常識である。
ララは不貞腐れたようにため息をついた。
「もう……ルリ姉のケチっ。私は裕理様を特等席で見るという使命があるんだよ? 机なんて片付けてる暇ないのに」
「知らないよそんなの。テレビなんて録画してあとで見ればいいじゃん」
「リアタイじゃなきゃダメなの。真のファンはたとえライブじゃなくとも録画なしで見るのが主流なんだから。ルリ姉は相変わらずわかってないなぁ~」
「はいはい、それはわるぅござんしたー」
大して古参でもないのにくせに随分と偉そうだなこいつ…………。
そういえば、由利原も前に同じようなことを言っているのを聞いたことがある。真の古参ファンはいつ何時も憧れに一番近い距離を保つべきなんだよ、とかなんとか。
録画がそれに該当するのかは分からないけど、まあいち早く好きな人を見たい、みたいな感じなんだろう。
私にはそういう気持ちは分からないが。
ララは私の手から逃れると、気を取り直した様子で片づけ始める。
「あ、そうだ。そういえばルリ姉にお願いがあるんだけどさ。この後って時間ある?」
突然そんなことを言ってきた。
一体何だろうか。
「あるけど……どうかしたの?」
「大事な話。ここじゃ話しにくいから後で私の部屋に来てよ。そこで話そう?」
「?」
どこか真剣な声に私は若干首を傾げる。
大事な話。
ララからそんな言葉を聞いたのは久しぶりだ。いつもハイテンションで小学生らしい言動ばかりなのに。何かあったんだろうか。
しかし、そこでちょうど母さんの料理が運ばれてきたため、話は終わった。
この後何か用事があるわけじゃないので、落ち着いたらララの部屋に行ってみようと思う。もしかしたら私にとっても重要な話かもしれないし。
そんなこんなで私は母さんの作ったカレーを前に手を合わせると、早速一口目を口に入れた。母さんはかなり気合を入れて作ったらしく、作ったのはただのカレーではなくポークカレーだった。スパイスもふんだんに使ったようで自信作らしい。
『どう? 私のポークカレー世界一でしょ?』
そう言ってにニカッと笑う母さんはどこか勝気な感じがして、千代によく似ていた。私が千代に惹かれたのはこんなかっこいい笑顔を作れるからかもしれない。
「うまい。これは世界一」
「よっしゃ」
口をモゴモゴとさせながら目が寝不足みたいになる。それだけ味が口に広がって美味しかったのだ。
私はあんまり料理が得意じゃないし、というか料理は普段全くと言っていいほどしないので母さんの腕にあこがれる。多分同じ料理を作ったとしても母さんの方が美味しいものを作るだろう。
そんなことを考えながら食べていたら、気づけばカレーはなくなっていた。これで二杯目だ。
「おかわりしてくる」
「また? ルリ姉最近いっぱい食べてるよね? そんなに食べたら太るんじゃない?」
「……」
そういわれて、思わず足が止まった。
図星である。
そういえば、今日の昼にも由利原に同じようなこと言われた気がする。このままじゃ太るよ、と。
ちょっと不安になってきたな。
最近結構食べてるしなぁ。運動してるからっていうのもあるけど、それ抜きに腹が減る。
とはいえ、それを理由にしたら今度はララに論破されそうな気がする……。
「じょ、冗談だから……」
うん、やっぱり三杯目はやめておこう。
私は渋々シンクに皿を片付けるのだった。
よろしければ是非、
評価☆☆☆☆☆
ブックマーク等
よろしくお願いします。
モチベーションにつながります!




