5話 私の理由
そうして連れてこられたのは屋上だった。屋上は高いフェンスが周囲を覆い、近くには青いベンチが設置されている。
風が心地いいし、上からの景色も良い場所だ。
私たちは普段食事スポットとしてここを利用している。
もちろん、フェンスがあるとはいえ落ちたら危険なので侵入できないよう屋上の鍵は閉まっている。だが、昔先輩の一人が鍵を勝手に複製したことがあったらしく、それがきっかけでたらい回しにされているらしい。今は由利原のもとにある。よっていつでも入ることが出来るというわけだ。
そんな場所で、私は千代の肩から降ろされた。
「ぐへっ……ちょ、ちょっと千代……」
「あぁ、ごめん。もっと優しく下ろせばよかったね。ちょっと乱暴だった?」
「いや……」
四つん這いになりながらも「やっぱり大丈夫」とジェスチャーする。
半ば無理やり連れてきたくせに今更乱暴とか言われても困る。
途中で男子どもに変な目で見られたのも精神的にきた。勘弁してほしい。
「じゃあいつも通りそこのベンチでお昼たーべよ。みんな弁当持ってきたでしょ?」
「ああ、もちろん」
「私もです」
「一応」
「よし。偉い偉い!」
いつも通りなのでここで弁当を食べることは知っている。私たちはベンチに座って食事をすることにした。
ベンチは正面に一つと、左右にも一つずつある。
そのうちの正面のベンチに千代と由利原が座った。
私と静香は座る余裕がないのでその目の前に座る。当然ベンチには余裕がないので地面だ。そこそこ綺麗なので特に気にしない。
「よっこらせっと。さて、今日はどんな弁当かな~」
由利原は楽しそうに弁当を開けている。
昼休憩はそう長くないし、私も早速昼ご飯を食べることにした。
昼は冷凍食品マシマシの冷凍食品弁当。それと、朝母さんが作ってくれた卵焼きだ。どこにでもある弁当だけど、美味しいので気に入っている。
ちなみに野菜はほとんどない。彩のための緑黄色野菜など我が母にとってはないも同然なのだ。だから私の弁当はいつも茶色弁当。
「うまい」
一口頬張ると予想通りの味が口いっぱいに広がった。
予想通りは予想通りでも、やはりうまい。私の好きな食べ物がこれでもかと詰まった逸品だ。
「ルリちゃんの弁当はいつも茶色だね。野菜とか食べないと太っちゃうよ?」
由利原が私の弁当を見ながら言った。
「余計なお世話だよ。私は死ぬまで好きなものだけ食べるって決めてるから」
「じゃあ太ってもいいの?」
「そ、それは……嫌だけど。…………大丈夫。私は太らない体質だから。この弁当も明日には消化されてるはずだよ」
あまり考えたくない現実だ。
私は思わず由利原から目を逸らしてしまう。
「ふぅーん。ま、それなら別にいいけど。もしデブになっても私とルリちゃんは友達のままだからね。安心して太ってよ!」
「や、やめろぉ変なこと言うな。私は絶対太らないから! 普段から母さんの仕事の手伝いとかしてるし、体力は使ってるもん」
「ああ、そういえばそうだったね」
私の言葉に由利原は顎に指を指しながら反応した。
納得のいっているようないっていないような、そんな顔だ。
そんな彼女に顔を濁しつつも、私はごまかすように弁当を一口食べる。
「仕事か……ルリの仕事ってなんだっけ? 魔道具屋?」
千代が聞いてきた。
「うん。うちは代々魔道具屋だからその手伝い」
「実際に何してるの?」
「実際? あー、んっとね。魔道具の修理とか、作成とか。偶に売り場で売ったり………あとはレジ打ちと掃除とかの基本的な仕事?」
「へぇ、結構色々やってるんだね。………っで、それって実際疲れるの?」
「…あ? あぁ……まあ……10分くらいは…歩く………かも?」
「いや全然疲れねえじゃねえかよ! なんだよもう! 嘘じゃん!? 嘘つきルリちゃんじゃん!?」
「は、はぁ!? いや動いてるし! 私だって部活やってるもん! 部活やってりゃ太らないじゃん!」
「さっきまで仕事してるから太らないって言ってたのに理由変わってるじゃん! 仕事はどうしたんだよ仕事は!?」
「……っ」
どこか呆れ顔の由利原に私は言葉を詰まらせる。
たしかに、言われてみれば仕事で疲れるかと言われれば疲れない気がする。
魔道具の修理から製作までずっと椅子に座ってやってるし、掃除だってすぐに終わる。
どっちかというと疲れるのは精神的な部分。
あとは手が痛くなるくらいだけど、それで痩せるかと言われば……う~ん…………
「その辺にしてやりな由利原。これ以上はルリがかわいそうだ」
「ごめんごめん。ルリちゃんの反応が可愛いからつい。……なんかいじめたくなっちゃうんだね。偶に変な虚勢張るから」
「その気持ちはわかるよ。こいつは弱いくせに意地っ張りだからな」
「そ、そんなことない! 私こう見えて結構強いから!」
「ほらな?」
千代が予想通りだと言わんばかりにクスッと笑い、由利原も大声で笑い始めた。
このしてやられた感……結構心に来る。でも、実際千代の予想通り現在進行形で意地を張ったのは事実だし、本当にそうかもしれない。
私は意地っ張りなんだろうか。でも本当に運動はしてるし、そこそこ力も強いほうだと思う。
そりゃ……千代と比べれば50歩100歩なのかもしれないけど。
「まあそうはいっても、意地を張るところはルリちゃんのいいところだけどね。おかげで私はルリちゃんと友達になろうって思えたわけだし。多分、好き好き度で言えば剣崎君の次くらいには大好きだよ」
「次かよ。男には負けたくないなぁ」
「安心しなルリ。私もお前のことは静香の次くらいには好きだ」
「変わんねぇ……。私を一番にしろ」
どいつもこいつも私をいじる。
別に悪いことじゃないし、好かれてるのは自覚できるからうれしいけど。
でも妙な気持ちだ。
まるで苦手な教科で89点を取れてうれしいのに、どうせならあと一点ほしいみたいな。
これが人間の欲望か。
ちょっと怖いな。
「はぁ……この弁当だって本当は剣崎君と一緒に食べるはずだったのにぃ。なーんでこんな女連中と一緒に食べてるんだろう私」
「いいじゃんか女連中で。何が不満なの?」
「そりゃ不満はないけどさぁ。私も一人の女子中学生として恋愛にうつつを抜かしたいんだよ。所謂青色の青春ってやつ?」
「へぇ」
千代は興味なさげである。
青春かぁ。
やっぱり学生と言えば恋愛なんだろうか。
女子の話を聞く限り結構色づいた人もちらほらいるらしいけど。私にはよくわからないな。
そもそも前世の記憶が入ってきたせいで恋愛心が完全に消えた気配すらあるわ。
私恋愛とかできるのか?
「一応聞いてあげるけどさ。由利原は剣崎の何が好きなの?」
そう思っていると千代が聞いた。
ちなみに朝から名前が挙がっている剣崎っていうのは私たちと同じ学年の男子生徒だ。
噂によれば、容姿端麗、才色兼備。性格もよく、剣技の腕前はピカ一と言われている。
まあいわゆる学校の顔みたいな生徒だ。最近では生徒会長も務めるんじゃないかともっぱらの噂で人気が加速している。
「あれじゃない? 将来有数の冒険者になるからとか。うちの母さんはそういうやつに唾かけとけっていつも言ってるし」
私の予想。
金があるやつはモテる。あるいは、将来でっかくなる奴はモテる。母さんの受け売りだ。
「そういうもんなのか。でもそういうやつに限って裏があるって言うけどね。私も偶にあいつとダンジョンに潜ることがあるけど、実際はかなり罵詈雑言の嵐だったぞ。表と裏とじゃ見え方が違う」
千代はちょうど食べ終わった弁当の蓋を閉めた。
……なんか今のかっこいいセリフだ!
もう一回言ってほしいな。
私が羨望の眼差しで見ていると、千代の目が細くなった。
「なに、それ何の顔?」
私を不審がるような訝しい顔だ。
そんな彼女に、私は構わずーー、
「やっぱり千代はかっこいいね。流石私の大好きな友達!」
そう言って、できる限りの満面の笑みでグッドサインをした。
「ぐっ……や、やめろ恥ずかしい。別に普通でしょ。あくまで事実を言ったまでなんだから……」
千代は恥ずかしがって顔をそむけた。
珍しい。
普段からクールなキャラだからあまり恥ずかしがることはないのに。
「はいはい、そこイチャイチャするのやめる。ったく……油断したらすぐこれなんだから。お前ら付き合ってんのかよ」
「「誰が!!??」」
「息ぴったりじゃんかよ。なんか羨ましいなおい」
由利原がそう言って乾いた笑みを見せる。
「っで、結局なんなの? 由利原が剣崎を好きな理由」
「ふむ。よくぞ聞いてくれました。もう言うタイミング無くなっちゃったのかと思ったよ、二人がいちゃつくから」
それは普通に申し訳ない。
なんか変に盛り上がっちゃって。
由利原は私を少し睨むと気を取り直して口を開いた。
「まあいいや。私が剣崎君を好きな理由ね。大したことないからチャチャっと言うよ。ズバリそれはーー」
「「「……」」」
私たちは固唾を呑んで次の言葉を待つ。
由利原は目をかっぴらくと言った。
「それはーーー顔がかっこいいからだぁああああ!!!!」
由利原の声が山彦となって空の彼方へと消えていく。
同時に期待していた回答とは全く違う答えに私の目も千代の目も興味を失った。
「そういえば、静香の家の近くのダンジョンそろそろモンスターパレード起こすって話だったよね。あれ結局どうなったの?」
「おい千代! なんで無視してんだよ!」
そりゃ無視されるだろうよ。
面食いなんざに興味はない。
よろしければ是非、
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