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23話 放送と隠し事


 剣崎と別れてすぐ、俺ーー裕栄奏斗は予定通り放送室へと向かった。放送室の場所は向かいの校舎のすぐ目の前にある。道順としては渡り廊下を渡って左手に曲がった先だ。


「グギャアァアア」


「邪魔だ」


「グギッ!?」


 道中かなり魔物がいたがそれらを軽くいなし、拳で叩く。魔物の数はこの一時間でかなり減っているとはいえまだまだ多い。できるだけ体力を使わないように心掛けながら、突き進んだ。


 そうしているうちに放送室に到着。その後、周囲に魔物がいないことを確認すると、ドアを開ける。


「誰もいない……」


 中には誰もいなかった。ここに来る前、何度も放送部を名乗る誰かからクエストの経過報告がされていたが、当人と思われる人物の姿はない。


「逃げたのか」


 わからない。声音からして女子生徒のような声だったが、もしかしたらあれはダンジョンそのものが放送を操作して経過報告をしていたのかもしれない。なんにせよ幸運だ。放送室で戦闘を行うことだけは避けたかったからな。

 今はともかく、放送を開始しよう。

 そう思い、俺は放送ボタンを押す。放送はマニュアルが置いてあったのでそれを頼りに進めれば問題ないだろう。


 スイッチが入った。元からすべての教室へ音声が届くように設定されていたので電源を入れるだけでよかった。あとは、俺がここから今回の追加ルールを話すだけ。深呼吸をすると早速マイクの前に立つ。


『放送部からの放送……じゃないな。こちらは裕栄奏斗。今回護衛班として参加した冒険者の一人だ。今放送室に入って放送を始めている』


 まずは自己紹介。いきなり放送すると驚かれそうなので、ちゃんと話が届くように前置きを含めてしゃべっておく。


『最初に言っておくと俺は偽物じゃない。ダンジョンが誰かを操作してしゃべらせたわけでもなければ、俺の声をまねて話しているわけじゃない。そこだけは信じてくれ』


 ダンジョンでは偶に人の声をまねる人もどきが存在する。そう言った場合を懸念してここも前置きとして口にした。放送室じゃらだと俺の顔は見えないし、それこそ声だけしか届けられない。そこだけはしっかり話したほうがいいだろう。


『俺が今放送室にいるのはほかでもない。みんなに伝えたいことがあるからだ』


 前置きはこの辺にして本題に入る。少し緊張するが、気にせず口を開いた。


『今ダンジョンでイレギュラーが起きている。内容はクエストクリア後の追加ルールについてだ』


 俺は今回追加された新ルールについてみんなに伝えた。

 内容は剣崎に伝えた罰則制度についてだ。今回のクエストは各教科のテストを受け、合格点75点を取ること。だが、それだけじゃない。合格点をとったとしてもそこに罰則制度という制度が追加された。その詳しい内容は、みんなを萎縮させることになりかねないため、『失点により面倒ごとが起こる』程度に控えるが、とにかく状況が想定よりも悪くなるだろうということを伝えた。


『一つ肝に銘じてほしい。もしこれからの放送でクエストの失敗報告が一つでもされた場合、今回のダンジョン攻略は失敗だ。その時は校舎内で集結し、次の指示を待ってくれ』


 そう言って、一度言葉を切る。


 もしクエストが失敗した場合、魔物が追加で降ってくる。それは、前回のダンジョン攻略で分かったことだ。となると、失敗次第、即撤退するためにはまず一カ所に集まって撤退する必要がある。

 そうでなければ、校舎内にいる冒険者は追加した魔物に対し太刀打ちできず虐殺されてしまうからだ。そうならないためにも冒険者は一カ所ーーつまり剣崎のもとに集まる必要がある。


『それともう一つ。増援組に連絡する!!』


 ラスト。これは剣崎に言われた言伝だ。内容は結界外にいる増援組に向けてのもの。特段大した内容ではないため、淡々と伝えておく。

 それらをすべて伝え終わると、俺はマイクのスイッチを切った。


「これで最低限の情報共有はできたな」


 罰則制度は何よりも伝えておかなきゃならないことだ。じゃなきゃクエスト失敗後、撤退を命令された冒険者が納得してくれない可能性がある。ここまで人を集めておいて結局何も得られなかったじゃ、みんな不満だろうからな。せめて、仕方ないで終わらせられるように説明はしておくべきだ。


「……」


 伝え終わった後、しばし俺は立ち尽くしていた。


 問題は、()()()()の追加ルールについて、俺が誰にも言わなかったことだろう。今回のダンジョンには追加ルールとしてもう一つ存在する。

 しかし、あまりにも不条理だと判断した俺は、それをみんなに伝えないことにした。特に、人情に厚い剣崎には絶対にNGだと判断した。


「生憎、クエストに失敗したときは撤退する。もう一つの追加ルールの存在は、ほとんどの人には気づかれない」


 あのルールばかりは、俺にはどうしようもないことだ。みんなが撤退すれば最低限の損失で済ませることはできる。


「……」


 思い返せば思い返すほど、ふつふつと湧き上がる感情を感じた。


 最低限の損失……という言葉が脳裏をよぎる。

 そんな言葉で都合よくまとめていいことなのかと、自分の中で錯綜する。

 クリア後、本当の意味でみんなと笑いあえるのか、達成感はあるのか。そんな考えばかりが俺の脳内をこれでもかと走った。


「わからない」


 きっと俺のこの行動は褒められたものではないのだろう。

 失敗したときはもう取り返しのつかない時だ。俺にはどうすることもできない。だからこそ、俺は追加のルールの全容を剣崎には言わなかったんだ。


 ーーカチッ。


 そんな俺の苦悩を裏腹に、放送室の電源が入った。


『放送部から、ダンジョン経過報告を行います。宮野ルリが数学のテストをクリアしました。宮野ルリが数学のテストをクリアしました。クリアタイム75分。残り、5教科です』


 放送室には誰もいない。だが、そこにはたしかに誰かがいるかのような、そんな感覚だけが残されていた。


「もう、わけわかんねえな」


 ダンジョンそのものが放送をしているのか。それとも、そういうシステムだから、なのか。どちらせよ、もうそういうものだと受け入れるしかない。放送は勝手にされる。俺の声とは別に、みんなに届けられるものなのだ。


「持ち場に戻るか。ここからだと直線で行ったほうが早い」


 放送室から出て対面の窓を開け中庭へ、そのまま中庭から三階へ飛ぶ。そして宮野ルリがクエストを行っている隣の教室の窓を割って入り、仲間たちと合流。それが一番手っ取り早い行き方だ。


 俺はすぐに放送室を出てると、宮野ルリのいる教室まで向かうのだった。


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