22話 ルールの詳細
それは由利原がクエストをクリアする少し前に遡る。保健室前では俺ーー剣崎隼人と、裕栄が話し合いを始めていた。
「罰則制度?」
裕栄が確認した追加のルール。否、クエストの変更内容を聞いた俺は思わず聞き返した。
「そうだ。この傷は今回のクエストクリアの後に負った。どうやら今回のクエストでは、合格点をとったとしても罰則として失点分の体罰が与えられる仕組みらしい」
「なんだよ、それ……」
それはあまりにも意味不明なルールだった。理不尽、不条理、まさにダンジョンの闇そのもののような、最悪のルール。
その意味不明さに俺は理解が追い付かない。
「なんでそんな制度が……」
問題はそのルールの目的だ。クエストやルールには裏で隠された思惑が常に存在する。
そもそもそんなことをする理由は何なのか。
ダンジョンというのは忽ちクエスト内容に変更があるが、とはいえ、クリア後というのが何とも謎である。
「俺にもわかんねえよ。けど、実際そうだったんだ。俺は合格点ギリギリを狙ったせいで25発殴られた。それ以下ならもっと酷かったはずだ。それは向こうのシステムが説明していたことだから、まず間違いない」
「……っ」
裕栄の言葉に俺は息をのむ。
なんだよそれ。じゃあ結局クリアしても殴られるってことじゃねえか。今まで何人挑戦してると思ってる?もう9人全員が挑戦してるんだぞ。
いやな予感がした。それも確実に当たるであろう、いやな予感が。
「じゃあ、今挑戦してるやつらはみんな……」
「十中八九体罰は免れないだろう。だが満点を取ればあるいはーー」
「んなもん取れるわけねえだろうが! お前も知ってるだろ! そもそもあれは満点が取れるように作られてない!! お前だって満点を取ろうと思えば取れてたのか!? 取れてなかっただろ!」
口に出すのすら憚られる。一言一言が現実を突きつけているみたいで喉をつっかえた。だが、それでも怒りが抑えられなかった。
「落ち着け剣崎。俺もそれは分かってる。だからーー」
「わかってたらそんな冷静にいられるかよ! 殴られるんだぞ! 回答班のみんなが! クエストクリアしても!!」
回答班のみんなは生身だ。魔力で自分の体を強化するのさえままならないような人たちだ。そんな奴らが罰を与えられるなんて。最悪原型をとどめないほどにぐちゃぐちゃになる可能性だってある。
「そんなの許されるわけねえだろ! 今すぐ教室にカチコミ入れてやる!!」
「やめろ剣崎!! 余計なことはするな」
「余計じゃねえ、やんなきゃあいつらが死ぬかもしれねえだろ!!」
「そんなのは分かってる! けどダメだ! 教室に入ったら何が起こるかわからない。お前だって死ぬかもしれないだろ!」
「今はそんなこと言って場合じゃーー」
「いい加減にしろ!!」
裕栄は俺の胸ぐらを力強く掴み上げた。
「いいか? 今このダンジョンはイレギュラー続きなんだ。もしお前が教室に入って回答班に罰則でも与えられてみろ!! 俺は本気でお前を殴るぞ」
「……っ」
それは冷静に考えられる裕栄だからこそ出てきた言葉だった。
もし、今無理やり自分が中に入ってしまったら。その先のことだ。
それは必ずしもいい方向に進むだろうか。否ーー、それはわからない。ただ、もしいい方向ではなく、悪い方向に進んでしまえば、裕栄の言う通り中に乱入者が入ったことで既存者への不正行為とみなされる可能性がある。
そうなれば、いよいよもうーー。
「生憎まだクエストを失敗したという報告はされていない。つまりまだダンジョンを攻略できる可能性は残っているんだ。だったらお前がするべきことは一つだろ」
「……予定通り、この場所を守ること」
「そうだ」
裕栄に言われ、俺は息を吞んだ。
そうか。そうだな。俺は今完全に頭がおかしくなっていた。裕栄の言葉で冷静を取り戻す。
「悪い、少し頭を冷やす」
「それでいい」
焦っていた。俺はもっと先のことを考えなくちゃいけないのに。今回の護衛班の統括者は俺だ。裕栄にお前がやれと言われてそうなった。俺はその意味を理解してなかった。俺は、護衛班の要だ。誰かに指示を出さなきゃいけない立場なんだ。なのにーー。
「自己嫌悪に陥ってる暇はない。まだまだダンジョン攻略は始まったばかりだ」
「そうだな。俺は、もう大丈夫だ」
大丈夫。ダンジョン攻略ならこういうこともある。それは冒険者なら備えておかなければならない心構えだ。
今回の場合その振れ幅が大きかった。だから受け入れるのに時間がかかった。それだけの話だ。
俺は「ふぅ」と息を吐くと心を落ち着かせた。
「これからどうする? 自分の持ち場に戻るのか?」
「いいや、それだと今の情報を広めるやつがいなくなる。俺は少し予定とは違う行動をとるつもりだ」
「予定とは違う行動?」
「ああ」
裕栄は頷く。予定通りの行動なら、裕栄は最初にいた護衛班に戻ることになる。だがそれだと今の情報を広める人がいなくなってしまう。こいつは情報を伝える役を担うつもりのようだ。
「お前もわかってるだろ。この学校で一番声が届く場所がどこなのか。今からそこに行ってみんなに今回の情報を流す」
「一番声が届く場所……?」
一体どこのことだろうか。少し考える。
最初に浮かんだのは屋上だ。あそこなら大声で叫べばみんなに伝えることが出来るかもしれない。しかし、そんなことをすれば魔物が屋上に集まってくる可能性がある。そうなれば魔物の行動パターンが変化し、怪我人が続出する可能性がある。
となれば、グラウンドだろうか。近くの体育準備室にメガホンがあったはずだ。あれを使えば学校の内部にまで情報を届けることが出来るだろう。作戦としては悪くない。ただし、あそこに行くためには一旦職員室まで行かなければならない。準備室の鍵を取ってまた戻らなければならないのだ。最悪ドアを壊して入ることもできそうだが、壊せなかった場合二度手間だ。ダンジョンの構造上ドアが壊せないというシステムもあるかもしれないからな。時間はかかるが仕方ない行動と言える。
とはいえ、裕栄の言い様を見るに、もっといい場所があるはずだ。学校の内部で、かつ、みんなに一気に伝えられるような場所。それも、魔物から注目されない場所が。
「まさか……」
「わかったみたいだな。そのまさかだ。俺は今から放送室に行く」
そういうことか。
たしかにそうすれば一斉に今回のことをみんなに伝えることが出来る。しかも放送は何度もされているから、魔物からすれば一定期間に流れるただの雑音に過ぎない。つまり何を言おうが注目されないということだ。
「剣崎、そろそろ代わってくれないか? 流石に疲れた」
「あ、ああ。すまん。もうちょっとだけ耐えてくれ」
みんなもそろそろ限界だ。俺が交代して他三人を休ませた方がいいだろう。
「放送室の場所は分かるのか?」
「当たり前だ。ここからすぐそこだしな。多分走れば数十秒で行ける距離だ」
「余計なお世話だったな。じゃあもう一つ、こっちから放送してほしいことがある」
「なんだ?」
「別に大したことじゃないんだが」
一々俺の方に状況を伝えて指示していくと手間がかかる。だから俺はこちらからの指示を少しだけ放送してもらうことにした。
「わかった。じゃあ俺はもう行く」
「ああ、頼んだ裕栄」
伝え終わると裕栄は放送室まで走っていった。あいつのことだ、道すがら魔物はいるだろうが、問題なく放送室にたどり着けるだろう。
「さて、そろそろ交代だお前ら。俺がここら一帯の魔物を全部狩りつくしてやる!」
俺は相神たちと交代して魔物狩りを始める。ここからは俺も本格的に戦闘開始だ。
修正の重要性に今更気づきました。




