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20話 追加のルール


「よし、これで第一関門はクリアだな」


 ルリが教室に入ったとほぼ同刻。俺ーー剣崎隼人は保健室に尋菜(たずな)を連れていき、額の汗を拭った。

 学校に入ってから35分。回答班が攻略を始めて15分が経った。思いのほか忙しい現状に、僅かながら疲れが見え始める。


「剣崎、魔物はまだまだいる。狩っても狩ってもキリがない」


 仲間の相神(あがみ)が涼しげに言った。魔物と対峙しながらではあるが、見た感じ体力に余裕はありそうだ。


「わかってる。どうやら今回のダンジョンは最低限のリポップ数が決まってるらしいからな。どんだけ狩ろうがリポップし続ける。ここからは完全に持久戦だ」


 ダンジョンにはいくつかパターンがある。その一つが最低限の魔物リポップ数が決まっているというものだ。これはいわばダンジョン内の魔物の数が一定以下になった場合、追加で魔物がリポップされるのである。つまりどれだけ倒そうが魔物が根絶されることはないということ。


「それが分かってるなら体を動かしてほしいね。僕たちもどれだけ持ちこたえられるかわからない」


「それはそうだが……」


 相神に言われつつも、俺は背後にある教室のドアから中を見た。

 ただの空き部屋だが、ちょうど壁に立てかけられた時計が見える。時刻は先ほど確認したばかりなので、まだ数分しか変化がないが。

 

「今回、一番肝になるのが回答班によるクエストクリア。だが、それがいつ終わるかは未知数だ。今代わるより、あとで俺が変わってローテーションしたほうがいい。だから今は耐えてくれ」


「はいはい。そういうことなら了解した」


 当初の予定では全員で戦う予定だった。だが、思いのほか魔物の数が多いため俺は交代制を指示する。最悪俺一人で交代して、あとの三人を途中から休ませるという判断もできる。

 それはこれからの状況を見てから判断すればいいだろう。


 そう考えた次の瞬間だった。

 窓がパリンッと割れると、外から女子生徒が入ってきた。


「剣崎、報告!」


「うおえあっ!?」


 いきなり出てきた生徒に思わず変な声が漏れる。


「あ、ご、ごめん。中だと動きにくくてさ、外から回ってきちゃった!!」


「い、いや、それはいいんだけども。今度から普通に声をかけてくれ」


 これが魔物だったら反射的に切っていたかもしれない。直前で見分けがついたからとどまれたものを、もう少し用心してほしい。


「んで、なんだよ急に? お前ここ担当じゃないだろ」


「あーそれがさ、裕栄から伝言預かってて」


「伝言?」


 彼女は頷く。どうやら裕栄のやつから伝言を預かってるらしい。あいつは今体育のテストを受けに行っている筈だ。伝言を受けたのはその前だろう。

 俺は伝言とやらを聞く。


「今回のダンジョン、もしかしたらクエストが変わった可能性が高いって」


「クエストが変わった?」


 彼女から語られたのは信じられない言葉だった。裕栄曰く、クエストの内容が変わるほどの異変を見つけた、とのことだ。


「一体何が変わったってんだよ」


「それは……ほあら、あれだよ。あれ」


「ん? あれ?」


 彼女は無言で指を指す。そこには先ほど尋菜を送り届けた保健室があった。

 言われた通り目を向けてみると、そこには何人もの人影があることに気づく。不気味にもぼっぺらぼうが30人余り。そしてスーツを着た女が一人だ。


「な、なんだあれ!? あんなの知らねえぞ!?」


 前情報にはなかったものだ。いや、前回攻略した時とは似て非なる現象。教室に回答班を送った時点で気を抜いていたが、たしかにそこには自分の知らない光景が広がっていた。


「一体中で何が起きてんだ!?」


「それを今裕栄が直接確かめに行ってる。クリア次第変化箇所を報告する、だって」


「そ、そうか」


 その言葉に一抹の安心感を覚える。

 行動が早い。


 たしかに自分が一番にクリアすれば変化箇所を確かめることが出来るだろう。そうすればまだこの攻略が続行可能なのかも、知ることが出来る。


「じゃあ私伝えたからね。この後持ち場に戻るけど、剣崎からみんなに伝えたい事とかある!?」


「伝えたいこと……? あぁ……そう、だな」


 伝えたいこと。そう言われて少し考える。

 いきなりすぎてすぐには思い浮かばない。俺はここからどうするべきなんだろうか。


 撤退?いや流石に今更だ。じゃあ戦うとして、このまま放っておいていいのか?もし今回のイレギュラーで問題が起きるとすればそれは何だ?

 多分それは回答班がクエストクリアに失敗すること、だよな。だとすれば、俺が出すべき指示は?……そんなの決まってる。

 

「……失敗後のフォローだ」


「え?」


「回答班がもしクエストクリアに失敗した場合、もう一度挑戦する必要がある。そのために戦力を集めたい。増援分は一旦待機させて役割を変更しよう。あいつらは回答班がもしクエストに失敗したときのために温存する。向こうのやつらにはそう伝えといてくれ」


「了解。じゃあ裕栄の件は?」


「それはこっちで全員に伝える。一旦は無視でいい」


「はいよ」


 そういって、彼女はすぐに窓から飛び降りた。そのままグラウンドを走り校門の方へ。


「おい、大丈夫なんだろうな剣崎? 今更失敗したなんて言ってくれるなよ?」


「馬鹿言え、俺がついてんだ。失敗なんかしねえよ。全部うまくいかせる」


「そうかい。信じるよ」


 鼻で笑いつつ、相神が言う。

 失敗はない。なんて本当は言いきれないが。ともあれ、今できることはそのくらいだろう。なんにせよクエストの成功失敗は回答班に掛かっているのだ。そもそもそこの勝敗がどうなるかによって結果が左右される。俺たちの行動は彼らによって変わってくるのだ。


 ちょうどその頃、学校のチャイムが鳴った。


『放送部より、ダンジョン攻略、経過報告を行います。現在10時10分。裕栄奏斗が体育のテストをクリアしました。裕栄奏斗が体育のテストをクリアしました。クリアタイム24分。残り、9教科のテストが残っています。頑張ってください』


「ま、まじかよ。あいつ有言実行したのか……? 早すぎだろ……」


 どうやら裕栄は作戦どおりクエストをクリアしたらしい。

 裕栄奏斗。

 同じ冒険者でありながら常に冷静沈着。判断力に優れ、実力も折り紙付き。


「すっげ、まだクエスト行ったばかりだよなあいつ? 流石剣崎の上位互換」

「ああ、流石剣崎を負かした男だ」

「流石剣崎君よりモテる男子」


「おい、やかましいぞそこの三人組!」


 自他ともに天才と認めるほどの才能の持ち主、とはよく言ったものだ。ともあれ、こうして実際に有言実行しているのを見るに、中々どうも好きになれない。というか俺はあいつが嫌いだ。

 あいつは完璧すぎる。

 ついさっきも、俺がテストの教科忘れたとき合いの手いれてきたし、俺が気付かないことに即座に気づいて伝言してくるし。おまけに俺が最速でクリアして変更箇所教えます、とかどんな超人だ。しかも本当にクリアしてやがるから何も言えねえ。


「相変わらずいけすかねえ野郎だ。これで俺より強かったら確実にぶん殴ってたわ」


「誰が誰をぶん殴るんだよ?」


「うひょやぁは!?」


 っと思ったら本人登場。窓から顔を覗かせながらこっちを見ていた。


「お、お前!! 一体いつから!?」


「今だよ、放送聞いてたろ。クエストクリアして急いで戻ってきたんだ」


「は、はあ」


 たしかに体育館はここから目と鼻の先だ。裕栄のスピードなら20秒とかからないだろう。にしても、ため息が出るほど早い仕事に、最早言葉が出ないが。


「あーっと、それで、伝言は聞いた。何か変更箇所とかあったか?」


「ああ、あったぞ」


 やはり変更箇所はあったらしい。裕栄の見立て通りだ。


「だが、最初に言っとくとかなりまずい状況になった。正直、すぐにでも撤退したほうがいい」


「あ? なんで」


 その言葉に疑問が浮かぶ。


 訳が分からない。

 裕栄は速攻でクエストをクリアできたんだ。だったらこのまま他のやつらもクリアすれば問題ないだろう。それでダンジョンは攻略なんだから。


「理由は単純だ」


「?」


 そう言うと裕栄は窓から廊下に入ってきた。


 その瞬間、俺は目を見開いた。

 裕栄の体には何かで殴られたような()()()がいくつもついていたのだ。それも、どれも痛々しく、殺意のこもった一撃であることは想像に易い。見るのも憚られるような傷跡である。


「お、おい、お前その傷……何で、そんな怪我……」


 裕栄がこれほどの傷を負ったのを俺は初めて見た。

 こいつは雑魚種による攻撃じゃあ大きな傷は与えられないほど頑丈だ。それだけの魔力を常に垂れ流しにしている。

 つまりこのことからして、中でよっぽどの事が起きたのはすぐにわかる。もっと言えば、それはクエストによる負傷だと推察することが出来る。

 裕栄は改まった様子で俺と目を合わせた。


「剣崎、どうやら今回のダンジョンは普通のそれとは違うらしい。クエストのクリアだけがゴールじゃない。これは、悪意の詰まった最悪のゲームだ」


「最悪の…ゲーム?」


「ああ」


 裕栄は力強く、頷く。


「クエスト内容に二つ、追加ルールが足されていた。それはーー」


 そこから裕栄はクエスト中、中で何が起こったのかを事細かに説明してくれた。


「なっ!?」


 それを聞いて俺は呆然とした。それはあまりにも、酷で、残酷な真実だった。


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