14話 それぞれの準備期間①
ダンジョン攻略まであと二週間。
忙しい日々はあっという間に過ぎていき、そろそろ本格的な準備期間へと差し掛かる。
私ーー由利原愛もまたダンジョン攻略に身を投げる一人の少女だ。今日も今日とてみんなのために奮闘中である。
まったく……私は別にダンジョン攻略になんて興味はないんだけどね。みんなが乗り気だったから流れで手伝うことになってしまった。まあ、剣崎君が実際どんなことしているのかとか、冒険者がそもそもどんな職業なのかとか、いずれ来る剣崎君の嫁修行としては知っておいて損はない。
夫の職業について理解ある嫁。うむ、これはもう間違いなく私の株が上がること間違いなし。
「由利原ちゃん、これ、頼まれてたやつ」
「おぉ、出来た?」
静香があるものを渡してくる。それは一枚のポスターだった。
「一応言われた通りには作ったけど……これで本当に大丈夫なのかな?」
「さあね。これで集まらなかったらもう私にできることはないよ。やるだけやってみよう」
私はそう言ってできる限りの笑みを作った。
あの日、二週間ほど前にした会話。千代に何かいい案はないかと言われ、私はとっさにあると答えた。それがこのポスターの貼り出しだ。
やっぱり一人一人声をかけるのは大変だから、まずはポスターを貼って人員募集のことをみんなに知ってもらおうと思ったのだ。
「で、でもこれって……」
「不安? 静香ちゃん」
「うん。だって……」
静香ちゃんはポスターの制作について懐疑的なようだ。
このポスターは文字をパソコンで打ち込んでもらい、余白に目に入りやすいような写真やらイラストやらを張ってもらっている。
色も派手なものを使うことで、できるだけ色んな人にアピールするよう静香ちゃんに頼んだ。
何よりーー、
「このポスターに書いてあることって、全部」
「うん。静香ちゃんの予想通り、全部嘘だよ。最初から最後まで全部ね」
私は今一度、ニコリと笑い返す。
そんな私に静香は顔を俯かせた。
ポスターには以下のような内容が書かれている。
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《ダンジョン攻略の人員募集!!》
・坂野原中学校の攻略のため人員を募集します!!
・参加人数は100人まで! 参加条件は特になし!
・現在の参加者は35名。その他条件により参加したい生徒が10名存在。
・集まり次第募集を切りますので参加したい方は参加希望書をもって以下の教室へお越しください。
・報酬は通常報酬の他、特別報酬となります。
・参加者の中には有名な冒険者も参加しておりますので安心してご参加ください。なお、今回は特別な魔道具を支給しますので安全に攻略を行うことが出来ます。
・現在不足している役職は以下の通りです。
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ダンジョン概要は冒険者特設SNSへ。また、QRコードを読み込めば情報を入手できます。
皆様の参加お待ちしておりますので、是非是非ご参加を!!!
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概要と言っても端的な内容だが、これが私の考えたポスターの内容だ。
「静香ちゃんは自己成就予言って知ってる?」
「自己成就予言? なんですかそれは」
「簡単に言うと、最初は事実と異なる主張なのに、それが人々の思い込みや予測で本当にその通りになってしまうこと。例えば誰かが「あの銀行は危険らしい」と噂したとするでしょ? そうするとその噂が広がってみんな不安になる。そしたら全員が一斉に預金を引き出して、本当に倒産してしまう。今回もそれと同じだよ。実際は10人くらいしか集まってないけど、このポスターを見てみんなが参加してると思い込む。これによりダンジョン攻略の勝算があるように錯覚して、みんなが参加する」
千代の言っていた勝算というのはこういうことだ。
思い込みだろうが嘘だろうが何でもいい。とにかく、勝機というものがあれば人は集まる。
まあ、命懸けの戦いに嘘をついて参加させることが非情だと言われればそうなのだが、しかし、こっちも本気だ。どんな手を使おうと、人を集める必要がある。
「もし失敗したら相当怒られるけどね。35人以上参加するって書いてあるのに実際は20人でしたなんてことがあれば、私たちはとんでもない嘘つきになる。これはかなりの大勝負だよ、シズちゃん」
もちろん失敗なんて考えてないけど。とはいえ、まったくない話じゃない。
みんなが完全にダンジョンを攻略する気がない場合は、賭けに負ける。そのときは、そもそも今回の人員集めが無謀だったと諦めるしかない。
「とりあえず行こう。生徒会にこのポスターを量産してもらうよ」
「は、はい! 行きましょう」
とりあえずポスターの量産から。
私たちは生徒会に行き、コピー機を借りに行くのだった。
§
今回必要な許可は、ポスターの貼り出し許可と量産の許可の二つである。量産というのは一言で言えばコピー機の使用許可だ。
「ということでこのポスターの張り出しの許可とコピー機の使用許可が欲しいんですけど……許可くれますか?」
簡単な要件のみを説明して私たちは生徒会に頼み込む。
「……うむ、問題ない。その二つの要件を許可しよう」
「ありがとうございまーす!」
許可はあっさりと降りた。
まるで示し合わせたかのように、あっという間に。
私は静香と共に大量の紙を持ち、生徒会の教室から出る。
「こ、こんなに簡単に許可って下りるんだね。普通、学校に張り出すポスターは中身の真偽を確かめてからでないと許可は出ないって千代ちゃんが言ってたのに」
静香ちゃんはあまりにもあっけなく事が進んでいることに驚いていた。
私としても思ったより簡単に許可が降りて安心だ。
「生徒会にもダンジョンの近くに住んでる冒険者がいるからね。嘘だろうが何だろうが通したい案件なんだよ。それに、一々真偽を確かめたたら攻略までの時間が無くなる。冒険者側にも相応の準備期間がいるから、それを知ってる向こうも確かめてる暇はないんだよ」
「……な、なるほど」
シズちゃんは感心している様子で頷いた。
相手の感情を利用したようで卑怯だと思われる知れないが、言っていることは事実なので仕方ないことである。
なんにせよ、これで準備は整った。あとは人が来るのをじっくり待つだけだ。
「そういえば由利原ちゃん。ポスターについて気になることがあるんだけど……」
「なに?」
「ポスターには特別な魔道具を支給しますって書いてあったよね? あれって実際に何を支給するの?」
「ああ、それねぇ」
ルリちゃんに任せたやつだ。ルリちゃんは放っとくと碌なもの作らないから私が作るものを決めて、作ってもらっている。
そろそろ半分くらいは出来上がる頃だろう。
「別に大したものじゃないよ。けど、みんなが死なないように保険として支給するつもり。珍しい物だからそれ見たさに参加してくれる人もいるかもね」
そうであればもっと人集めは楽になる。
当然制作者であるルリちゃんにはそれなりに苦労してもらうことになるけど、ルリちゃんは言い出しっぺなので我慢してほしい。
「ついでに私の友達とか先生にもこのポスターのこと広めてもらおう」
「え、先生にも……ですか?」
「うん。先生がどこに住んでいるか私知ってるから。それが今回のダンジョンの近くに住んでいたら尚更。不安を煽ってでもいいから、協力してもらったほうがいいでしょ?」
「……え、えぇぇ」
静香は呆然と呟くばかりである。
友達が多いと勝手に色んな情報が耳に入るのだ。やはり友達は多ければ多いほどいいね。
あとはルリちゃんが魔道具を作るのを待つだけだ。
かなり苦労していると思うけど、頑張ってもらいたい。




