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13話 今自分にできること


 その日の夜。


「ごちそうさまでした」


 夕食を食べた私はダンジョン攻略の準備をするため二階へ上がった。


「母さん、今日魔道具作るから入室禁止ね」


「了解。面白いものでも作るの?」


「まあ……便利なもの?」


「そう。夜更かしなしないようにね」


「はーい」


 準備というのも大したものじゃない。

 ダンジョンを攻略するにあたって私に出来ることといえば魔道具を作ることだ。

 便利なものを作って攻略に備える。千代にもそういわれたので今日から色々と魔道具作りに取り組むことにした。


「ん?」


 その頃ちょうど電話が鳴った。電話には由利原の文字が書いてある。


「もしもし、由利原?」


「どもどもー、ルリちゃん元気? 病気してなーい?」


 由利原の高い声音が耳に届く。向こうは聞かずとも元気そうだ。


「ご心配なく。それより何かあった?」


「別に何もないよ。けどこれからのこと含め千代が話したいって言うからさ。ちょっと通話でもしようかなぁって」


「千代が……」


 スマホを見てみれば、グループ通話になっている。

 昔夏祭りを一緒に行こうと言って由利原が作ったグループだ。ちょうどメンバーは千代と由利原、静香と私の四人。


「というかルリちゃんって今大丈夫? 魔道具作るんだよね? 忙しいなら切るよ?」


「ううん、大丈夫。作業しながらやるから」


「そ」


 私はそう言いながら部屋に入り、机上にあるものを適当に地面に下ろしていく。

 魔道具を作るのはそれなりの集中力がいるが、今日作るのは大したものじゃない。

 通話中でも大丈夫だろう。最悪ミュートにすればいいし。


「無理はするなよ。ルリは後先考えないタイプなんだから」


「うん、そこは大丈夫」


 若干低い千代の声。どうやら心配してくれているらしい。

 別に大した作業じゃないんだけどな。魔道具を作らない側からすれば心配なんだろう。魔道具作りは慣れないと最悪爆発する恐れがあるし。


 ともあれ、私は作業を始める。魔道具作りというのは魔筆と呼ばれるペンを利用して製作する。これは筆に魔力込めることで線状に凝縮することが出来る魔道具だ。

 握るとスカイブルー色に光り、書くとシュワっと煙が出る。これで道具に術式を書く。そうすれば魔道具が完成する。


 鞄には沢山の道具が入れてある。ペンダントや指輪、おもちゃ諸々。今日魔道具にする道具たちだ。

 それらを千代たちの会話を聞きつつ、私は魔道具化していく。


「にしても、今日は散々だったねー。あれからいろんな人に声かけたのに、ほとんど断られたよ」


 最初に口を開いたのは由利原だった。その声は少しだけ憂鬱を感じさせる声音だった。


 散々、というのは今日の放課後のことだ。あれから私たちは学校中の冒険者に声をかけたのだが、みんな揃いも揃って断られてしまった。


 断られた理由は様々である。時間がない。危険すぎる。人手がいない。別の依頼があるなど。もっともらしいものばかりだった。


「仕方ないと言えば仕方ないよ。そもそも攻略に乗り出してるのがこんな初心者三人組と私だけなんだ。攻略できる目途も立ってないのに人なんて集まるはずがない。根気強くやっていくしかないよ」


「そうなんだけどねぇ。中々集まらないとこっちのやる気も落ちるんだよ」


 今回のダンジョン攻略に必要な人数は50人。私らを抜くと46人。今日20人くらいに声をかけて、協力してくれそうだったのが2人。条件次第でやってくれそうなのが1人。

 つまり甘く見積もってあと43人は集めないといけない。

 一応かなり熱弁したつもりだけど、それで3人しか集まらなかったのは中々精神的にくるものがある。


「ごめんなさい。私がもっと声を張り上げていれば結果も変わってたかもしれないのに」


 静香の声もげんなりしている。静香は静香なりに頑張っていたと思うけど。とはいえ、それで結果が変わっていたかと言えばわからない。

 やっぱり千代の言う通り勝算がないと声をかけても意味がないのだ。結局ダメ元じゃ人はついてこない。せめてもっと攻略に対して説得材料があればいいんだが。


「静香のせいじゃないよ。問題は私たちが何か決め手になるものを持ってないことだ」


「決め手……?」


「ああ」

 

 千代も同じことを思ったようだ。


「剣崎も言っていただろう。ダンジョンを攻略するには人がいるって。今回のは特に護衛兼戦闘班が必要になる。それをみんな知ってるんだよ。学校には冒険者だけが招待されるSNSもあるし、過去に坂野原中学校のクエストも張られてるからさ」


「へぇ、冒険者同士で繋がってるんだ。ん? じゃあ千代も今回のダンジョンのクエストは知ってたってこと?」


「いや、攻略しないダンジョンの情報は一々覚えないよ。もし他のクエストとごっちゃになってミスしたら命取りになるし。雑音は捨てるタイプ」


「ほう。これがプロフェッショナルか。すげぇ」


「ただ面倒ってのも大きいけどね」


 冒険者あるあるみたいなものなんだろうか。私も頭がいい方じゃないしそういうミスはしそうだ。


 ダンジョン一つとってもいろんなルールがある。例えば今回の場合様々なテストをクリアしないといけないわけだけど、その際、教室の位置を覚えなきゃいけない。いわば見取り図のようなものだ。

 仲間が怪我をした時に一人でも目的地に行けるように暗記して、何なら同じ回答班が戦闘不能になった場合は私がその穴埋めに行く。

 覚えておかないといけないことが多いのだ。一々別のダンジョンの情報なんて入れている余裕はない。


「何か決定打になるものとかないの? 由利原ならそのくらい一つや二つ思いつくでしょ」


「ん~? ……まあ、そりゃないことはないけどさぁ……あんまりやりたくはないかなぁ。もし失敗したら皺寄せがすごそうだし。……何より、準備するのがすごく大変」


「この際大変かなんて考えなくていいよ。方法があるんならやればいいじゃん」


「うえぇ?」


 すごく嫌そうだ。そんなに面倒な方法なんだろうか。

 私じゃ大した作戦思いつかないし、由利原に任せられそうなら是非やってほしいんだけど。


「みんなできることやってるんだよ。私も冒険者同士の掲示板に今回の人員募集の情報を張っておいたし、ルリも魔道具使って自分にできることをしてる。静香だって人と話すのが苦手なのに頑張って取り組んでくれてる。じゃあ由利原もすべきだろ。今、()()()()()()()()を」


「それな」


 一応合いの手を入れておく。私の場合『魔道具作り』が自分のできることなのでかなり特殊なケースだ。そもそも家が魔道具屋の生徒なんてそうそういないしね。

 ただ、幸か不幸か私には魔道具作りの才能がある。今までいろんなものを作ってきたし、それを売った経験もある。だからこそ自分にできることがはっきりしている。

 対して由利原にはそれがない。というより不明だ。由利原は自分のことをあまり話したがらないし、友達の私達ですら彼女の得意なことが分からない。なんというか、欠点という欠点はないし、運動も勉強もかなりできるほうだけど、だからこそ得意なことがわからない、そんな感じだ。


「……みんながそこまで言うなら……わかったよ。最終日までに50人集めとく。けど、私はあくまで行動の指針を決めるだけだからね! みんなには手伝ってもらうから!」


「もちろん。静香のためだ。何でもするよ」


「わ、私も頑張ります。できることはやりたいですから!」


「うん。私も手伝う」


「いや、ルリは手伝わなくていいよ」


「え、なんで……!?」


「ルリは魔道具作りに専念しなきゃいけないでしょ。私も欲しい魔道具があるし、要望通りに作ってよ」


「そ、それはいいけど。そう簡単に強い魔道具は作れないよ? ドラ〇もんの道具じゃないんだから」


「わかってる。簡単なものでいい。だが、数がいる。できれば参加者全員に配れるようなものがあれば満点だ」


「は、はい? 参加者全員って……」


 それ何人分だよ。50人分?それとももっと?

 流石にそれは……


「無理なら無理でいい。それが出来れば由利原の仕事も楽になるって話」


 それが出来れば私の仕事は苦になるって話はしないのか?


「それ言われたらやらなくちゃじゃん」


 自分の身を守るための魔道具に加えてほかの魔道具まで。全員分となれば本当に簡単なものしか作れない。

 まあ、学校に道具を持っていけばどうにかなるとは思う。

 昼休憩とか放課後とか。部活はとりあえずしばらく休ませてもらえば時間は取れる。面倒なことこの上ないが頑張るしかない。


「ちなみにルリちゃんは今何の魔道具を作ってるの?」


 由利原が聞いてきた。


「バナナの魔道具だよ」


「バ、バナナ?」


「うん。もともと子供の頃に買ったおもちゃなんだけどさ。これを踏んだ奴は絶対に転ける術式を書いた。名付けてバナナマン。これ勝手に足生えて歩くんだよ。っで敵のほうに言って足元に待機。そのまま踏んでずっこけるって仕組み。あと魔物が触れないように結界も張っておいたから手でつかむこともできない。まさに最強の転ばせ屋!」


 私が目を輝かせながらそう言うと、一瞬静寂が立ち込めた。


「ねぇ、もしかしてふざけてる? ゴミだよねそれ。時間の無駄じゃん」


「ルリちゃん……今から私が言う魔道具作ろっか!」


「転ばせ屋ってそれ某アニメの……」


「いやちょっと待って!? みんな辛辣過ぎない!? これ絶対使えるから! めっちゃコスパいいから!? あとちゃんとオリジナルだから!」


 本当だ。これは私が作った傑作品。断じてゴミでもなければ失望されるものでもなく、パクリでもない。

 私はそれからこの魔道具がどれほど凄いものなのかをみんなに力説した。だが最後まで3人は絶妙な反応で、バナナマンのことを認めてはくれなかった。


 みんなには分からないのか。この魔道具の素晴らしさが……。


補足:魔道具製作の手順は一つ。

魔筆と呼ばれる魔道具で道具に術式を描くこと。

ただし、術式を描くには相当な魔力が必要になるためそう易々と作れるものではない。

強い術式になるほど術式は複雑化し、製作に時間がかかる。当然その分魔力も必要になる。


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