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1話 慣れない世界

第一章は39話構成になると思います。

最初は日常会や無駄な会話が多いので流し読みでも良いと思います。

気長に読んで下さい。


 仕事終わりの帰宅中、俺はふと隣の岩壁にぶつかりそうになっていた。

 いつも通り、時刻は夜の8時半。空は既に影を差し、周囲は閑散としている。


 ……はぁ……今日も疲れたぁ。


 仕事を始めて一か月。社会人になってからは毎日仕事をするようになった。

 当たり前と言われれば当たり前けど。でも、俺にとっては当たり前の世界ではなかった。


 もともと小学校中学校と進学し、その後そこそこの高校に入学、さらに大学に入り、遊び惚ける毎日だった。

 入学当初は半年くらいバイトをしていたが、もともとの貯金もあり少し働けばある程度たまった。だから仕事もする必要もなくなり、辞めた。そこから三年半ほど何もせず友人と遊んだり家でゲームをしたり本を読んだり、なまじ適当な毎日を過ごしていた。

 

 大学の単位もある程度取っていた。俺の入学した大学はそこまで大した大学じゃなかったし、当日か前日に友人と学校で勉強でもすれば余裕で取ることができた。


 だからだろう。大した熱量もなく、日々ゆったりとした、だらけた生活をし続けた。それで俺の世の中が回っていたから、それでよかったのだ。

 とはいえ、そういう怠けた生活をしていると、あとで痛い目を見るのは必然だ。

 大学三年生の夏休みから始めた就活。特に手を抜くことはなく、そこそこの大手の企業に内定をもらい実際に働くことになったが、これがまた普通にしんどい。

 辛いのは分かっていたし、何かに対して手を抜いたわけでもない。ただ、もともとが週6休日で怠け切った生活が当たり前だった俺にとって、いきなり週5で働くなんて無理な話だ。まるで新しい世界にでも入ったかのような、そんな感覚だった。


「はあ……世の中の大人はどうなってんだよ」


 悪態をつくのも仕方のないだろう。俺にとっちゃ週4でも多いくらいである。

 最近の大人ーーーいや、昔からの人類は明らかにおかしい。こんな毎日を当たり前のように過ごしているのだから。


「……親って偉大だったんだな」


 働いてて思うことは親がいかに偉大だったか、である。俺は大学生活のみならず小中高、親に支えられて生きてきた。それは家事育児はもちろんのこと、大学生活では一人暮らしもしていたので家賃も出してもらっていた。つまり金銭的な支援もしてもらっていたのだ。

 ただでさえ苦労して働いた金を、家族とはいえ他人に無償であげるなんて。今の俺には想像もできない。


「すげぇよなぁ。家族って」


 これぞ愛とでもいうのだろうか。俺もそんな親のもとで生まれてきたからこそ、やらなきゃいけないことはしっかりしたつもりだが、それでも挫けそうだ。


 俺もいずれは社会の歯車になるんだろう……。

 こうやって一か月辛い思いをしても、半年も経てばすっかり慣れるのだろう。


 そこが人間の怖いところだ。

 慣れというのは、辛いことも辛くなくなる。

 それは時に『感覚の麻痺』とでもいうんじゃなかろうか。


「なーんてな……くだらないこと考えてないでさっさと帰るか。こんなこと考えてる場合じゃねえ」


 俺は首を横に振ると、顔を上げた。

 今日は綺麗な満月だった。

 ちょっとしたラッキー(?)と言っていいのかは分からないが、何となく、明日も頑張ってみようと思った。


よろしければ是非、

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