青山さんのお弁当と甘々な空間
昼食時。熊田は壁山と一緒に食べようかと思っていたのだが青山に誘われたので机を合わせて三人で食べることになったのだが、熊田は青山の弁当を見て驚愕する。
細身で華奢な体格からしてサンドイッチのようなお洒落なものを食べるものとばかり考えていたのだが、彼女が鞄から取り出したのは二重で特大の弁当箱で上の段には分厚いカツが下の段にはびっしりと白米が埋め尽くされていた。まさかのカツ丼である。
否、この場合はカツ重と表現すべきだろうか。
「いただきます」を口にして箸でパクパクと食べ進める青山に熊田は少しの間呆然としていたが、やがて躊躇うように口を開いた。
「青山さん。頬にご飯粒がついてるよ」
「え?」
きょとんとする青山に熊田は指で彼女の頬に触れてご飯粒を取る。
「とれたよ」
「ありがとう。熊田くん。優しいんだね」
「……どういたしまして」
米粒をティッシュにくるんで近くのゴミ箱に捨てた熊田だったが、指先には青山の頬の柔らかな感触が残っていた。
「どうぞ」
箸で掴んだとんかつを熊田の弁当の上に乗せる。
「いいの?」
「さっきのお礼」
「ありがとう」
「あなたもどうぞ」
「わーい! ありがとうっ」
嬉しくなった壁山は椅子から立ち上がるとぎゅっと青山に抱き着く。
「青山さんってすっごく甘くて爽やかでいい匂いする~。どんなシャンプー使っているの?」
「知りたい?」
「フフフ。それはね――」
壁山の耳元でシャンプー名を囁く青山にまたしてもドキリとした。
青山に対して積極的にハグをする壁山に羨ましさを覚えながらも、自分には決してそういうことができないことを熊田は知っていた。