突然の転入生
それから二年が過ぎた。
高校に進学した熊田は平凡な高校生活を送っていた。
彼にとって幸いなことに高校には好みの男子がいなかったから恋に落ちることもなく、男子とも女子とも普通の友人関係を築くことができた。
それでも特定の相手と親密になりすぎると恋愛感情が生まれてしまうことを懸念し、部活には入らなかったのだが、自由な時間はそれなりに楽しかった。
そんなある日。熊田の隣の席の女子が転校した。
熊田は背が大きいため窓側の一番後ろの席に座っているのだが、その隣が空席となった。
ぽつんと空いた席がやたらと寂しく見え、彼は自然と溢れてくる涙を拭った。
それから数日後、熊田のクラスにひとりの転入生がやってきた。
「青山葵です。今日からよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる少女は男子の制服を着ていた。
栗色のブレザーにスラックス。細長い手足が映えて似合っていた。
さらさらと絹のように揺れるふんわりとした髪。
澄んだ大きな双眸に雪のように白い肌。
微かな胸の膨らみに魅力的な声音。
二年が経過したが、熊田は忘れるはずがなかった。
「それじゃあ青山は熊田の隣な」
熊田は大きな手を挙げて言った。
「私が熊田だよ!」
「ああ、あなたは……」
言いかけて青山はフッと口元を綻ばせた。
優美な動きで熊田の前までくると青山は彼の顔を覗き込み。
「よろしくね、熊田くん」
「う、うん」
オドオドとした熊田の態度を気にすることなく青山は隣に座る。
授業中、青山から漂う柑橘系の香りがやたら気になる熊田だった。