ココアとホットドッグのお代わり
どういうことだろう。
熊田は自分の心情の変化に驚き、目の前の少女を一瞥した。
自分は同性愛者で恋愛対象も男だ。
なのに目の前にいる子にときめきを覚えてしまった。
彼女は間違いなく女性だ。スレンダーではあるけれど胸の膨らみがそれを主張している。
だからときめくはずがないのに、彼女の一挙手一投足に目が離せない。
どきどきどき。
心音が激しく早くなっていく。
熊田の顔中に血液が集まり赤くなっていく。
熊田の変化を知ってか知らずか少女はマイペースにボタンを押して店員を呼び出しホッドドッグを注文した。
「すみません」
口を開いたのは熊田だった。
「ココアのお代わりをもう一杯」
いつの間にか二杯目を飲み終えていた。
ぱくり。
少女が大きく口を開けて熱々のホットドッグにかぶりつく。
ぶちゅりとソーセージが嚙み潰される音が熊田の耳に反響した。もしゃりもしゃりと反芻する音だけが熊田の耳元に響き続ける。と、何を思ったか少女は食べかけのホットドッグを皿に置いて、コテンと可愛らしく首を傾げて問いかけた。
「あの、どうかされました?」
「いえいえいえ。なんでもないです」
慌てて弁解する熊田に少女は微笑み胸を撫で下した。
「安心しました。もしかすると僕が不快な思いをさせているのかなと考えていたものですから」
「そんなことあるわけがないじゃないですか」
ほんの少しだけ語気を強くした熊田に少女は目を丸くする。
「ただ、あまりにもおいしそうに食べるなと思って」
「そうですか……」
少女は少しだけ考え込む仕草を見せてからサッとボタンを押して店員を呼び出す。
「ホットドッグのお代わりをふたつください」