1/10

失恋の絶望

熊田太郎は同性が好きだった。小学生の頃から何となく同性にときめきを覚えていたし、中学に進学してからそれを恋心と自覚するのに時間はかからなかった。

恋をしたのは学年で一番のイケメン男子でスポーツ万能で成績優秀だった。

彼とは同じクラスになったこともあったが、熊田は距離を置くように心がけていた。

彼と会話すれば心がどうしようもなく高鳴るし顔も赤くなるだろうから。

万が一にも気づかれてはいけない。同性に――それも暑苦しい外見の自分に好かれたとあってはイケメン君も迷惑するだろうし、最悪の場合はトラウマを植え付けてしまうかもしれないからだ。どんなに好きで恋焦がれていようとも決して踏み越えてはいけない一線の重さを熊田はよく理解していた。

それだけに、イケメン君に彼女ができたときは絶望を覚えた。

もちろん彼には幸せになってほしい。けれど自分以外の誰かが隣で手を繋ぎながら歩いている姿を想像するだけで、どうしようもなく辛い気持ちになるのだ。

想いを告げることもできないままに、彼の初恋は散った。