第8話 勉強会編その3 人の楽しみって数え切れないくらいあるよね?
ぢゅらおです。
前回のクイズの答えはこの話の予約投稿を設定している日が変わっていたでした。非常につまらなく申し訳ありません。
「また1!? このルーレット壊れてるだろ! 絶対に!!」
「それが君の実力だよ?」
「ルーレットに実力があってたまるか!」
「じゃあ私の番ね─────はいーまた9〜」
「これで3回連続じゃねーか!」
人生ゲームは中盤を迎え、各々ばらつきはあるものの2人を除きほぼ同じ位置にいた。
と言うのもその2人とは間藤姉妹。この2人ずっと6以上の高い数字しか引いていないのである。
「来人...お前なんでまだそんなところなんだよ」
「お前にだけは言われたくないね! 晃太郎だって俺と大して変わらないぞ?」
「ふっふっ。そう見えるのはまだまだケツが青い。ここで俺は一発逆転のマスを引く!」
「はいじゃあ晃太郎のマスはっと...」
晃太郎の駒を少しどかしてマスに書いてある字を覗き込んだ花は笑うのを噛み殺しながら伝える。
「『人生最大の災難に遭う。最初のマスへ戻る』だって...くっくっく...」
「はいー晃太郎最下位〜。ドンケツ〜。ビリ〜。すけべ〜」
「来人貴様ぁ! 最後のは違かったよなぁ!?」
「・・・とりあえずこれで敵は1人消えたと」
「そうだね〜」
「うん〜」
「そうですね」
「誰か1人は否定してくれ?」
1人でぎゃあぎゃあ騒ぐ晃太郎は置いといてっと手で仕草する来人に花は一言付け足す。
「うーん...と言っても私と来人も1位取るのだいぶ難しいけどね」
「そうだよなぁ...間藤姉妹が強すぎるんだよな」
「・・・? 私は普通にやっているだけなんですけどね...」
「あ、時雨だけじゃないよ? 私も不正なんてしてないよ? あ、次花の番だよ」
「あ、忘れてた」
とルーレットを回そうとした手を止めた花は何を思ったのか時雨の手をルーレットに置きその上に自分の手を重ねた。
「これで私もいい数字出るでしょ」
「いや...さすがに花。いくら私たちが運が良いってことでもそれは意味ないんじゃないかな?」
「私もそう思い────そう思うよ?」
「時雨さん? やっぱり敬語無理してますよね...?」
「む、そんなことないですよ!」
「ほら敬語」
「これは相手が来人様だからです!!」
来人と時雨が言い争っているうちに花は「えいっ」と声を出し、ルーレットを回した。結果は...
「あ、8だ」
「うっそぉぉ─────!」
8を出した花より誰よりも驚いたのは紗奈花である。
「これ私たち実は神の子だったりして...」
「いや安心しろ。それはない」
「なんでそう言い切れるの!」
「いや進んだマス見てみろ」
来人にそう促されるままその場にいた全員は今花のコマがあるマスから8個先のマスを見た。
『有象無象の大災害が起こる。コマに止まった者はカードを1枚引き、出た役職でこの先のプレイを進める』
「うん? カード?」
「あ、言ってなかったか? 俺が持ってきたこの人生ゲーム...ただの人生ゲームじゃない・・・なりきり人生ゲームだ!!」
「な、なりきり?」
「そう。これを買ったのには訳があり、そう──────」
全員がキョトンとしている中1人意気揚々とゲームの説明(武勇伝)をする来人。それを横目にほかの全員は説明書を読む。
「えー。なになに...『このゲームには職業マスという特殊なマスがあります。このマスに止まったプレイヤーは職業カードから1枚引き、出た職業になりきってください。』とふむふむ...」
紗奈花が説明書を読み終わるのと同時に来人の方も説明が終わったようでカードの束を向けている。
「さぁ花さん! カードを1枚引きなさい!」
「うーん。まぁ引かなきゃゲームが進まないし...ほい」
渋々カードを引いた花の手から奪い取るようにカードを取った来人の手元に全員の視線が集中する。そこには『小悪魔』と書いてあった...
「こ、小悪魔か」
「おう。小悪魔だ」
来人と晃太郎が確かめ合うように繰り返すと全員が花に視線を送る。花はそれを確かめ、噛み締めるように頷くと来人の方に全てを悟ったような笑顔を向けた。
「・・・ごー」
「ん? 花さん? どこにごーって言った?」
「・・・ごーとぅー」
「とぅー?」
「hell(地獄に落ちろ)」
「お、早速小悪魔の練習か?」
「死ねぇぇぇぇ!!! きぇぇぇぇい!!」
その後とても表すには生々しい描写が展開され、なんともまぁ来人は痛い目にあいましたとさ...
「それで...結局花は受け入れたと」
「...おう」
「最初は口調だけ揃えようとしてたんだけど...」
「お前が『口調が小悪魔風? そんなんいつもの花さんじゃん』なんて言うからまた痛い目にあったんだぞ」
「いやあれは本当に口が滑ったと思った」
何故か下の階にいるはずの花の視線を感じ、その場で身震いをする。
(まぁ実際本当にそうだと思った自分がいたんだよな)
ここで何故か心臓をグッと掴まれる感触に来人は胸を抑える。そして同時に脳裏にサタンの槍を持った花の姿が思い浮かび心臓に刺されたという感触もあった。感触であったが実物に負けず劣らずの恐怖を感じた。
「いやまぁ色々とあったけどよくもまぁ花も衣装を着るなんて受け入れたよな」
「あぁ。なんか紗奈花も紗奈花でウキウキだったらしくて『これ着たらマフィンあげる!』って言ったらしい」
「餌に釣られたのか...」
「餌」というワードを晃太郎が言った瞬間いよいよ可能性ではなく本当に殺意が下から上に向いているのを感じた。晃太郎はおそらくこの後人でなくなるに違いない。
「しかし、いくら衣装に着替えているとはいえ少し遅いですね...」
「いやそれにしても、家に小悪魔の衣装があるってどういうことですか...」
「あ、それはですね...」
時雨が言いかけた瞬間扉が開き、まずは紗奈花が入ってきた。
そして、1度扉を閉めると来人にハチマキのようなものを渡した。
「それ目に巻いて。で後ろを向いて」
「待ってくれ。なぜだ?」
「未就学児には刺激が強すぎるからだよ!」
「言葉には気をつけろよ? いくら俺でも3歳以下の子供と一緒にされちゃ黙ってない────」
「その間マフィン食べてていいから」
「わ〜い」
「お前未就学児じゃなくて保護動物だよ」
来人と紗奈花のいつもの漫才に適切なツッコミを入れた晃太郎は少し真面目な顔をして来人に顔を向ける。
「すまない来人。いくら友達と言えども彼女のハレンチな姿を見せる訳にはいかないのだ」
「...了解した。その代わり後で貴様にはパンチをあげよう」
「それを受け入れてもいいくらい俺は今花のコスプレを見たい...!!」
「俺も見たいわ! 神様の馬鹿野郎ー!」
なんて捨て台詞を残しつつ来人は後ろを向く。そして手探りで器を探しながらマフィンに手を伸ばす。
「よし来人の処理も完了したし、花入ってきていいよぉ!」
扉が少しずつ開くのに合わせ紗奈花は小声で「気絶しないでよ?」なんて合わせながら主役の登場を待つ。そして扉が完全に開き、現れた花に思わず見ている全員は息を飲む。
「わぁ! 下でも見たけど何度見てもこれは良いですなぁ」
「うぅ...俺の彼女がこんなに可愛いなんて知らなかった」
「花ちゃん...とっても可愛いで・・・んん! 可愛い!!」
全員の賞賛の嵐を受け止めながら「それほどでも...」と照れつつゆっくりとその場で唯一その姿を拝むことの出来ない者へと向かう。
そして、ただ一言。本当に短い一言を耳元で囁く。
「次は来人ね♡」
ただ逆らうことの出来ない命令にマフィンを食べる手が恐怖に怯えるか弱き手に変わる。
その後命令通り小悪魔の服装を着ることになった来人。二階の部屋に現れた時に、全員の腹がよじれるくらい滑稽だったのは言うまでもない。
※※※※※※
「じゃあ勝者は持っている家の数で紗奈花より1棟多かった時雨ちゃんね!」
「まぁ。今回は運がよかっただけですので...」
「そして、最下位はゴールマスの1歩手前で地球崩壊マスを引いてしまった来人ねー」
「やはりこの人生ゲームおかしい...」
「ではさっそく報酬を使ってもいい? 花ちゃん」
「お、そういえばそういうルールあったね〜まぁいつから1週間っていう規則なかったし今日からでもいいっか!」
「で、では...」
言いかけて、しかしモジモジし始めた時雨にここは珍しく晃太郎がボケを入れる。
「もしかして、来人と一緒に寝たいとかか? まぁそんなことある訳────」
「────はい」
「ないよ───はいぃぃ!?」
時計は11時過ぎを指した頃。来人たちの夜はまだ始まったばっかりである。