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第6話 勉強会編その1 幽霊って存在した方が得じゃん?

ぢゅらおです。

幽霊は嫌です。現場からは以上です。

(あ、待って。すごい待って欲しい。俺...女子の家初上陸では!?)

 着替えを取りに1度家に帰ってきていた来人(くると)は普段着に着替えてる時に重大なことに気が付いた。


 ちなみに花は着替えと勉強道具を持ってこいと言っていたが、来人は基本的に全て置き勉スタイルなので勉強道具については既に準備ができている。


「こういう時って、何か持っていった方がいいのか──────?」


 ボソボソと独り言を言いながらパソコンの前に座ると何故か『スクハル!!』(18禁)を起動...

 そして、エピソード9『君とお泊まり会』をスタート...


「・・・ってちっが─────う!!」


 両手を机に振り下ろした来人はそのまま己の拳を頬に強く当てる。


「調べ物をする時に、無意識にゲームを開くとか重度の廃人じゃねぇーか!」


 しかし、問題はそこではないのだ。いや問題ではあるのだが。・・・なぜエロゲーなのか。もうここまで来るとむしろ尊敬の念を抱き始めるやつも出てくるかもしれない。


『...もう! 遅いんだから!』


 来人が己の意識を刈り取ろうとしていると、ゲームは先へ進んでいた。


『いやぁ、わりぃ。わりぃ。ちょっと何着てくるか迷ってな』

『別になんでもいいでしょ!』

『いや、お前とのお泊まり会だぞ? なんでも言い訳ないじゃないか』


 さすがのゲーマー来人。こういうスキップ可の場所も決してスキップをしないゲーマーの鏡。

 そして、背筋はピシッと! 目はきらりと! 


『でほらこれお土産な』

『えー!? 良かったのに!』

『やっぱいるかなって思ってな』

『え? 何持ってきたの?』

『決まってるじゃん。コン──────』


「そんな訳あるかぁぁ──────!!」


 後にこの辺りでは夕方に死んだ男の叫び声が聞こえるという噂が広がり、心霊スポットとして有名になっていた...






『ピンポーン────』

 やっとのことで紗奈花(さなか)の家に着いた来人は背中にリュックを...そしてなぜか、手には人生ゲームを持っていた。


 プライドなんかない来人は紗奈花に電話をし、「何か欲しいものある?」と聞いたところ「夜中みんなで遊ぶもの!」と返答が来たのでこのチョイスである。やはりこの男普通じゃない。


「あ、く...来人、入っていいよ─────」

「お、お邪魔します─────」


 控えめに空いたドアからひょっこりと顔を出した紗奈花はあまり目を合わせないように少し顔を伏せていた。


 扉の奥から話し声が聞こえるため、もう既に花と晃太郎がいるのだろうか。そう思いつつ、扉に手をかけて引こうとしたが...


(あ、あれ? 開かない!?)

 試しに力いっぱい引っ張ってみても、びくともしない。いや開かないはずはない。


 来人はここでひとつの可能性に気がつき、扉の奥にいるであろう人物に話しかけた。


「・・・紗奈花? ちょっと引っ張り返すのやめてくれませんかね!?」

「・・・」

「ほぅ。つまりこの俺に力勝負を挑むと...負けて泣いても知らんぜぇ? お嬢ちゃん?」

「─────・・・」

「ふぅ。せぇーの─────!」

「はいこうさーん降参でーす(笑)」

「待て待て待て急に扉開けるなぁ──────!?」


 紗奈花が扉を押すのと、来人が思いっきり扉を引くのが重なり、扉は勢いよく来人の方に開いた。


 その反動で来人は扉のすぐ横にある庭にホールイン...


「ホールインワン! ナイスショット!」

「社長、流石です! ・・・じゃねぇーよ!」

「いや、本当にごめんね。まさかそこまで跳ぶとは流石に思わなかったよ」

「うんうん。その笑いこらえてるような言い方で言われても全く心に響かないんだけどな?」

「タイヘンモウシワケアリマセンデシタ」

「かと言って何も込めなければ響くという訳でもないが?」

「すぅっ─────!」

「待て。込め過ぎるのもダメだ」

「あちゃ、さすが私がやろうとすることなんでもわかるんだねぇ」

「バカは単調だからな」

「どっちがだい!」


 紗奈花はそう言いつつ、目に涙を浮かべ笑いながら起き上がろうとする来人に手を差し伸べる。


 そして、来人の服を見て少しわざとらしく目を細めた。


「とりあえず1回お風呂に入った方がいいね」

「まぁ...いくらなんでもこんな汚れてて人様の部屋に入ろうとは思わないな」

「うちのお風呂使っていいよ。今誰も使ってないはずだから」

「おぉ。じゃ、ありがたく」


 言われた通りにお風呂に向かった来人は途中階段の上からにんまりと笑っている顔を2つ見て、目を吊り上げたが、汚れてる身...階段を上って制裁を加えることは出来なかった。


「はぁ、来てそうそうこんな目に遭うとはな...」


 独り言をこぼしながら、服を脱ぎ、当てるとこにしっかりタオルを当てて扉を開ける。


 まずは汚れを落とすためにシャワーで体を洗い流していると、ふと横から視線を感じた...


(いやいや。まさか...幽霊!?)

 ギギギと音が鳴るような動きで来人が首を横に回すとそこにはお風呂の蓋を少しだけ開けて、首だけをスポッと出している人の影があった。


「────!?」


 あまりの突然の出来事に来人は思わず自分の持っていたシャワーヘッドの先をその影に向ける。


「ぶわぁっわべっ!」


 あれ人だったんだぁ。あはは。と思ってるうちに来人には次の恐怖が浮かんだ。では誰か...?


(紗奈花か?)

 否。紗奈花に関しては来人がお風呂に入る前にリビングに向かったことを確認している。


(あのバカ2人か?)

 否。あの2人はお風呂に向かう前に階段の上で確認済みである。


 親に関しては今日明日は仕事で帰って来ないということは紗奈花から聞いていたので、来人は考えうる選択肢がなくその場で唸った。


「あ、わかった! 触れる幽霊だ!」

「来人様それは違います」

「!? びっくりしたぁ...いきなり喋らないでよ幽霊さんや」

「いやですから幽霊じゃありませんから...」

「おーおー。自意識が高いのはいい事だ。けどな? 時にはそれで痛い目を見るんだから気を付けないとな」

「だから違いますから!!」


 幽霊(?)は手を浴槽から手を伸ばすと来人の右腕を優しくつねった。その場に流れる小動物のような唸り声...それとなにかに気づき体が震え始める来人。確信したくない事実に目を背けながら恐る恐る幽霊(?)からも目をそらす。


「も、もしかしてあのぉ、時雨さん...でいらっしゃいますか?──────」

「やっと気づいてくれましたか」


 その言葉を聞いて、壁に目を向けていた来人は水蒸気ではない何かが背中を走る。


 その様子を見ていた時雨は何を思ったのか、来人の背中をなぞるように人差し指を当てた。


「ほわぁ!?──────時雨さん!?」

「来人様は意外に頼もしい背中をしているのですね」

「背中と心はたくましく、と母に教えられてきましたので、はぃ...」

「本当に面白い人ですね─────」

「いや、そんなことはないですよ...」

「これが裸の付き合いというものですか♡」


 聞き捨てならぬ言葉に半分イマジナリーワールドに引き込まれていた来人は一気にUターン...壁に頭を打ち付けて現状の整理。そして、タオルで大事なところは隠したまま浴槽の方は見ないように扉に手をかけ、風のように風呂から脱出した。


 何が起こったか一瞬飲み込めなかった時雨だったが、浴槽の縁に顔を載せると微笑みを浮かべた。


「ふぅ。今日はこれで及第点だよね!...」


 口から漏れるように出た言葉はお風呂の中で誰にも聞こえないまま反響した。






 来人はお風呂から出なければいけないという野生の感覚でお風呂から飛び出したのはいいものの、ここは人様の家。どこに何があるかわからず、とりあえず、リビングらしきフロアに向かった。


 向かってる途中に今何が起きたか考えようと思ったが、考えれば考えるほどダメな方向に曲がっていき自分の頭を二度三度叩いた。


「ふぉ? ふぉるほぉ。ほぉしたん?」


 声が聞こえた方向に顔を向けるとそこには何か食べている紗奈花の姿があった。


「あー。とりあえず、1回口の中を空にするまで待ってるわ」

「ふぁーほぉへぇんねー」


 そして時間が過ぎること1分。満足そうな顔をすると紗奈花は布巾で口を拭きながら答えた。


「もう大丈夫だよー。でどうしたの? 来人」

「あ、いやそのぉ、なんて言うか」

「うん?」

「あ、えーと...お風呂出たから、部屋行きたいなーって─────」

「それだけ聞くとちょっと変な意味に聞こえるねっ」


 高く笑った紗奈花につられるようにして、苦笑いを浮かべた来人。明らかに不自然な笑い方だったが髪を拭いたタオルを口に当てていたために、不自然さが伝わることは無かった。


「まぁ、とりあえず上行こっか」

「りょーかいです」

「お風呂どうだった?」


 突然のキレのいい質問に思わず、胸に苦みをつまらす。


「・・・おぉ。うんうん。いい風呂だったわ」

「────そ。なら良かった!」


 そうして、和やかに階段を上れたら良かった。数秒後の来人が思ったことを今の来人は知らない。


「お姉ちゃん! お風呂お先に頂きましたぁー!」


 その二言で来人と紗奈花の和ましい空気は終わりを迎えた。


「へぇ。いいお風呂だったんだっけ?」


 紗奈花は眉間にシワがよりまくり、来人は顔に脂汗が滝のように流れ、最後に残した言葉は

「お風呂もう一度頂きます...」だった────

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