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第4話 急な小テストほど嫌なものはない

ぢゅらおです。

最近カルピス牛乳とものにハマっているのですが、普通に水や炭酸水で割るより美味しくて、ちゃくちゃくと脂肪を蓄え始めてます…

「な、なぁ。紗奈花(さなか)さん?」

「なに?」

「とてもとても心当たりがないんだけど、俺なにかした?」

「何もしてない」

「とてもそんな風には思えないのですが」

「アホ、ボケ、カス」

「あ、これなにかしましたね」


 教室に帰ってきてさすがに態度が変わりすぎている紗奈花に来人(くると)は声をかけずにはいられなかった。


(待て待て待て。俺何した!? もしかして、さっきのホースで水かけようとしたことに怒ってる? いや行動で怒ってる感じはなかった、じゃあなんだよ!!)

 様々な思考が重なり合って頭の中はパンク寸前だった。


 そんな後ろで頭に手をのせながらヘッドバンしている来人の考えとは違い、紗奈花は紗奈花で悩んでいた。


(あぁ〜!! もう! さっきのタオルかけてくれた時の顔〜っ!)

 自分が何かしたかと悩む来人、何故かずっと照れ

いる紗奈花。おそらく一生解決しないであろう2人に晃太郎(こうたろう)は声をかける。


「お、おふたりとも?」

「「あぁ!?」」

「、! あっ〜と、次の時間小テストだけど大丈夫なの?」

「はぁぁぁ!?」

「そんなこと今は問題じゃないよ!」


 見事に正反対の反応をした来人と紗奈花。

 紗奈花はまた自分の席で悶え苦しんでいるが来人はボス倒したらまだラスボスがいてクエスト半ばで諦めかけている目をしている。


「は、範囲は!?」

「前回の授業内容だけど?」

「教科は!?」

「お前もう諦めろ」


 同情の余地もない来人に晃太郎は哀れな目を向け、「死んで見える世界もあるぞ」なんて意味不明な言葉をかけて自分の席に帰っていた。


 さすがの来人も背筋に冷や汗をかいていた。

 もはやこの男にプライドは残されていない。


「紗奈花! 頼む一生の願いだ」

「ひゃっ! な、なに!?」


 ガシッとお構い無しに手を掴んできたので少し前まであった悶えなんか吹き飛んだ。


「この間ケーキ奢るって俺言ったよな?」

「う、うん。確かに言ってた」

「それになんでもなんでもひとつする券つけるから」


 普通そういうのは女子がご褒美にあげるものだから成り立つのであって男子があげてもいい物ではないのだが、それは一般的理論である。


「うん!」


 紗奈花乗る気である。なんと単純。


「─────カンニングさせてくれ!」

「させる訳ないでしょバカなの?」


「ノォォォ!」なんて悲しんでいるが当たり前のこと過ぎて、むしろ教室でそんなことを言える勇者に全員が微笑みの目を向けていた。


「だけど」

「・・・ふぁい?」

「今からでもマシな点を取れる策をお教えしよう」

「まーじですか!?」


 半分涙目だった来人。その悲壮に満ちた心に神からのお告げに匹敵するお言葉に、紗奈花に対して思わず違う意味の涙をながす。


 フッフッフッと邪悪な笑みを浮かべる紗奈花は周りに漏れないくらい小さな声で来人に小さな紙を渡す。


「これには今回の範囲で大切なところが書いてある」

「な、なんと。そちらもその気満々だったとは」

「違うからね!? これは元々は電車の中で勉強するために作ったのだけど」

「つまりこれを見ればある程度は取れると!」

「そういうことだよ!」

「・・・これもカンニングでは?」

「チッチッチ。人に迷惑をかけなければカンニングではないのだよ」

「おぉっしゃーい!」


 あまりの策に思わず声を大きくした来人に紗奈花は「シーっ!」と人差し指を自分の口にあてる。


「じゃあそういうことだから頑張ってね己の力で」

「この紙の力もありますがね」


 2人でにんやり笑う不穏な雰囲気に気づく者は誰もいなかった。






「じゃあ小テストやるぞー。時間は10分用意───始め」


(馬鹿どもがァ、せいぜい己の力で足掻いとけぇ)

 泣く子も黙るクソ野郎だ。この来人という男は自分が有利だととことん煽るという癖がある。鬼に金棒。虎に翼。来人にカンペ...


(では俺はありがたく見させて貰いますかね)

 袖口に隠していたカンペを取り出した。また隠し方もゲスい。このために普段着ないサマーセーターも着ている。


(じゃあ早速問題に取り組みますかぁ)

 だが来人はある異変に気づいた。このカンペほとんど字が書いてないのだ。というより最後に少し書いてあるだけで白紙である。


(な、なんだこれ? あ、なんか書いてある)

「来人へ。『テストは己の力で解くものだよ』愛をこめて。紗奈花より」

 見事に騙された来人は前にある背中から見えないはずのドヤっとした顔が浮かんでいた。


「くそぉぉぉぉぉ!」


 思わず肉声を出してしまい、テスト中なので誰も振り向くことはないが来人は全員のあるはずのない冷たい視線を感じ慌てて口を塞ぐ。


(まぁそうですよね。なんか上手く行き過ぎてるとは思ってましたよ)

 ふと、後ろに殺気に似た感覚を感じすぐ後ろの扉に目を向けると、ちょーおっかない生徒指導の先生が鬼の形相をした顔でこちらを見つめていた。


 それからのテストが終わるまでの時間来人にとってどれだけの苦痛であったかは想像できるだろう。


 前を向けば偽善者が、右を見れば鬼の目が、左を見たらカンニング、かと言って問題を見ても解ける訳もない。悪夢である。


「इसे रोक। इसे रोक। मेँ मरना चाहता हूँ・・・」


 小声で何語かも分からない言葉をつぶやく来人に前はともかく隣の方は一体どれだけの恐怖を感じたであろうか──────






「じゃあこれからはしっかりと小テスト勉強してくるように成績にも関わるからな」


「はい・・・」


 実に1時間弱にもおよぶ説教を受けた来人はもう疲れ切っていた。


 あの後小テストが終わったあと放課後呼び出しをくらい、奇声を発したことを生徒指導の先生に叱られ、問題用紙も見ていたのでもちろん1問も解けなかったことに言及され心に大きな傷を───


「さぁ、帰って『ドキプリッ!!』でもやりますかぁー」


 負っているはずがない。この男こう見えるが怒られるのには慣れている。


 鼻歌を歌いながら荷物を取りに教室に戻ったら何故か自分の机ではなく来人の机で伏せて寝ている紗奈花の姿があった。


「おいこら。なに主犯が気持ちよく寝てるんだ」


 ポコっと頭をつつくと「ふぁぁ〜」とあくびをしてのっそりと起き上がった。


「あ、帰ってきたんだおかえり〜」

「はい。ただいま────じゃないな? バカ」

「あ、女子に暴言言ったぁー!」

「フッ、俺は男子でも女子でも容赦なく暴言は吐くぞ?」

「カッコつけて言う言葉じゃないでしょ」

「・・・でさ。そろそろこの教室で1人で残ってる理由聞いてもいい?」

「うん? 失敬な。女子が1人で教室で待ってる時に起きることはだいたいひとつでしょ?」


 机に置いた手の上に顎を置いて綺麗な上目遣いで来人の事を見つめた。


「あぁなるほど。すまん邪魔したわ」


 己の2次元脳から答えを浮かび上がると来人はそう言い机の横からバックを取ると行儀よくペコッとお辞儀をしトコトコと教室を出て行った。


「て! 違うでしょうがぁぁ!」

「! びっくりしたー...え? 何が?」


 下駄箱で靴を履き替えていた来人はあまりの勢いに思わず手を止めた。


「なんでスルーっと帰るのスルーっと!」

「え? 男待ってたんじゃないのか?」

「待ってたよ!! 君をね!」

「なぜ俺を!?」

「お詫びだよ! お! わ! び!」

「───いやなんの?」

「テストのやつだよ!」

「あぁ〜、あれね。大丈夫怒ってないから」

「いや違うからね? それで怒ってたら人として死んでるよ?」

「・・うん? そうなのか?」

「そうに決まってるでしょうが!」


 その場で地団駄を踏む紗奈花に思わず笑みをこぼす。


「で俺を待ってて何するの?」

「何するって一緒に帰るだけだよ?」

「それお詫びか?」

「女子と一緒に帰るのってご褒美って花から聞いたんだけど...」

「それお詫びじゃないじゃん...」

「あ・・・」


 自分の間違いに気づいて恥ずかしいのか顔を手で覆い隠して左右にふっている。来人はそんな姿を見て「まぁ...じゃあな」と言い残すと希望に満ちた目で1歩外に出た・・・かと思ったらUターンして下駄箱に帰ってきた。


「紗奈花? もしかして、傘2本持ってたりしない?」

「傘?・・なんなら1本も持ってないけど」

「今日学校に泊まるか?」

「え?」


 紗奈花は少しだけ外に顔を出すと、いつから降り始めたのかぽたぽたと雨が降り始めていた。

 いやジャージャーと、いやもっと詳しく言えばちょっとした滝レベルくらいの雨だった。

 普通の展開ならここでどちらかが傘を持っていて、その傘に相合傘をするというなんとも青春らしい展開が起きることが普通だった。

 だがこの2人は本当に2人とも傘を持っていなかった。


(傘持ってくれば良かったぁぁぁ!!)

(あ、学校の中にテレビってあるかな)

 傘をなぜ持ってこなかったかと拳を握り締めて悲しむ紗奈花と帰ることは諦め学校でどれだけ有意義に生活できるか考える来人。

 なんと騒がしい(精神的に)2人だろうか・・・

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