第35話 1を0にするのと0を1にするのは全く違う。
ぢゅらおです。
実はこの話書くのはめっちゃ久しぶりです。
やはり度々来る書きたくない時期というのは嫌ですね。
「それでねそれでね……今日は魚を取りたいと思いますっ!」
「「こんな日にっ!?」」
腐食した大木に出来た空間に身を寄せ合って雨宿りをしていた私とあまと来人の3人。空からでも魚が降ってきそうな日にわざわざ水辺に行こうとするあまに私たちは再度ツッコミを入れる。
「こんな日、だからこそだよ来人」
「だからなんだよ」
「魚は今日人間に捕られることを想定してない」
「俺らも魚を捕りにいくことを想定してなかったしな」
「敵を騙すにはまずは味方からでしょ?」
「ご都合解釈ご利口なこった」
「にゃんですとぉー!?」「あぁ!?」などとお互いを罵倒し、まるでレッサーパンダの威嚇のようなポーズで相手を挑発する2人。私はそんな2人を面白く、そしてまた少しだけ不安だった。
「ねぇ、あま? こんな日に川行くの危険じゃない?」
「んー? まぁもう私たちのホームグラウンドみたいなところだし? 多少水増えたところで問題ないんじゃない?」
「いや多少ってレベルじゃ──────」
「まぁいいんじゃねーかっ?」
「ちょっと来人まで──────」
「じゃという事でしゅっぱーつっ!」
「めんどくせぇな〜」
ポンポンと決まってしまい流れで雨の中をスタスタと歩くあまと嫌がる素振りを見せたものの足取りは軽い来人がその後を追いかける。
私はただ、2人が歩いていくのを手を伸ばして止めようとしたが、既にそんな距離に2人はいなかった。慌てて四つん這いのまま大木の腐食により出来た空間から出ると、先程よりも強くなった雨が体の至る所を叩きつける。
まだ微かに見える2人の影を追いかけようと体を起こそうとすると、背中に嫌な悪寒が沿ったような気がした。
私は今でも、この嫌な予感を無視しなければ良かったとそう思っています。いや、今思えば、この時既に私たちの運命は狂ったのかも知れません。
どちらにせよ、私は自分の手の中にあったこの大切な時間だったものを手放してしまったのです。
※※※※※※
時間は少し進み、来人とあまは先に見慣れたはずの川辺へと到着していた。
「……これいつもの川だよな? 葉っぱ舟下りとかしてるあの川だよな?」
「あはは、間違いないはずにゃんだけどにゃー?」
「その喋り方いつまで続けるんだよ」
「思ったより私に定着しちゃったみたいですねん」
「……実際は?」
「可愛いでしょ?」
「ぶりっ子め」
上目遣いでこちらを覗いてくるあまを来人は一蹴する。「ちぇーやっぱり効果なしかぁー」なんて悪態をついて目の前にあった小石を蹴飛ばすあまの横顔を来人は呆然と眺める。そして何故か、自分の肩ぐらいにちょうどある頭に手が伸びていた。
「ふぇ?」
「うん?」
拍子抜けな声を漏らしたあまと何事もないかのように頭をさすり続ける来人。ちょっとの間の静寂をえて
「な、な、何してるのっ!?///」
パシーンと来人の頬に平手が飛ぶ。そしてこれまた何故か胸を抑える素振りを見せるあま。
「何って……何してるんだ?」
「私に聞くなっ!!」
舌をべぇーと出し、来人から離れるように川に近づいていくあま。
その時に私はちょうど到着し、無理して急いだせいか上がる息を落ち着かせるのに精一杯だった。
「ぜぇ……ぜぇ……はぁ、はぁ、全く2人とも歩くの早すぎるよ──────ってあまっ!」
怒号のように大きく出た声。私の声に来人はすぐ振り向いたが、肝心のあまは気づいていない様子。しかし私が大きな声を出したのには視線の向き的に私しか見えてないであろう緊急事態があまに迫っていたからだ。
「おいそんな声出してどうしたトキさん」
「来人っ!! 川! 上!」
咄嗟に言葉が出てこず、断片的な情報しか伝えられなかったが、来人に危険を予期させるにはそれで十分だった。
すぐ横まで来ていた来人があまに伝えようした瞬間、目の前からあまが消えた。
川の上流から爆発的に増えた水があまを飲み込み、周りも飲み込んだ。
そして私はそこから何があったのかをよく覚えていない。覚えているのは無機質な心拍音のみを流すドラマの中でしか見たことがない機械に囲まれたあまと全身泥だらけであまがずっと身から離さず持っていたキーホルダーを力なく持つ来人の姿だけだった。
私は、感じたことない怒りを来人にぶつけた。なりふり構わず自分でも何を言っているか分からなくともとにかくぶつける。関係あることもないことも、今日のことでも昨日のことでも、とりあえずぶつけた。何度も殴った。誰かに止められても殴り続けた。
そして、慌てて駆けつけた私のお父さんに強制的に抱えられ、病室を出る際に最後に見たあいつの顔は笑っていた。
※※※※※※
「以上が昔話です。どうですか? なんで私が彼に執着するのかわかりましたか?」
想定以上に深く汚れ、重い過去にその場にいた誰も声を出すことは出来なかった。
「と言っても語り手である私でさえよく覚えていないので、詳しく説明するのは難しいんですけどねっ」
そんな空気の中、1人だけなおコロコロと笑う時雨。まるで誰しもが重く受け止めるそんな過去を自分は重く受け止めていないかのように。
「あ、あのさ、時雨ちゃん。今の話だと来人をそこまで恨む理由がない気がするんだけど」
核心をつかれたかのようにハッとする時雨。そう時雨はわざと説明すべきところを省いて説明していた。そこに気づいた花には尊敬の念を抱かざるを得なかった。
「この空気感で発言する勇気とそこに気づいた観察力にあっぱれ……とでもいいましょうか、または私の最後の優しさを踏みにじったことに怒るべきでしょうか?」
ぱちぱちと音を立てて燃える焚き火。宙を漂う燃えカスを指でかすめ取り、そして潰した時雨はそのカスを両手ではたくように2、3回手のひらを合わせると花に柔らかい視線を向ける。
「来人様は、救えるはずだったあまの命を見捨てたんですよ。1人で、私とあまを置いて安全な場所まで逃げてそして帰ってこなかった」
何を言って──────と時雨に詰め寄ろうとする花の足に手を置き、制止させたのは目から光を失った紗奈花だった。
「紗奈花……」
「花、知ってたの。聞いていたんだよ、星名さんから」
「へぇ……まさか知っていた上で来人様と普通に接していたんですか、お姉ちゃんは」
「なんで私に相談してくれなかったの──────」
「だってっっ!!!」
発狂に近い大声を出し、周囲を静かにさせた紗奈花はボソッと弱々しく呟く。
「だって、来人だよ? 私の好きな人だよ? 信じてなかったんだよ私だって」
花は何も言わずに紗奈花の言葉を聞くと、ただ今にも壊れそうな表情を浮かべる親友を自分の胸元に手で寄せる。
「分かったから。もう分かったから──────紗奈花は今は何も言わないで。ね?」
紗奈花はそして溢れ出る涙や感情を吐き出すように大きな声で泣き続けた。晃太郎はそれをただ黙って見ていて、時雨はそちらを見向きもしなかった。
※※※※※※
「時雨ちゃん。ごめんねもう行って」
「……では有難く」
しばらく泣き続けた紗奈花は、元々体調が悪かったことや体力が切れたこともあって花の膝上で意識を失うように寝ていた。
そんな紗奈花を起こすまいと小声で、しかしながら強い口調で時雨に命令する花。
姉が壊れそうになったのを見て、何か思うところはありそうだと思っていたのに、その予想とは裏腹に何も気にしてない様子で外を眺める時雨。
「ただ1つ。伝えておいて欲しいことがあるあのバカ、いやクソ野郎に」
「……なんでしょうか?」
「そのツラで二度と私たちの前に現れるなって。私とのただ1つの約束を破ったお前に二度と私の大切な友達を泣かせることはさせないと」
「……私にとってもあなたがたと来人様が会うことが無くなるのは好都合なので、ぜひ伝えさせて頂きますねっ」
楽しそうに「ではっ」と挨拶を残した時雨は、先程目星をつけておいた場所へと足早に向かっていった。
後書きで何を書こうか迷ったのですが、一つだけ。
果たしてこの終わらせ方がいい終わり方なのかは正直僕も分かりません。
ただ今は長く続けてしまったこのお話にピリオドを打ちたいです。このお話をする理由は、まずこれから話が理解できなくなるかもしれません。雑に進んでいくかもしれません、立ち直らないかもしれません、ただそれでも彼らが見つけた答えの1つを僕は尊重したいそれだけです。
実の所、僕はこんな過去話さえ入れるつもりはなく、時雨の行動の伏線は回収しなくてもラブコメとしては成立するのではと思ってました。
モヤモヤが残るのは理解できますが、ラブコメとしてはシリアスな場面はない方がいいのかなと思ってました。
ただ、それだとこの物語が可哀想だと思いました。
僕はただウェブ小説とは未完成品を発表するところだと思ってます。
完結させないということではありません、ただ読者全員が同じ解釈を持つように道を揃えてあげる必要はないと思ってます。なので次のお話ではだいぶ時間が飛ぶと思いますが、その空白の時間は読まれた方々が彼らがどういう時間を過ごしたのかお好きに想像して頂くのがいいと思います。
ただ1つ言えるのは、完結までもうあと少しだということです。




