第33話 希望も絶望も他人から見れば絶望にも希望にもなる。
ぢゅらおです。
実家に帰省中の今、寝て起きて洗濯物が回り、食事が出てき、会話相手がいること。当たり前のことに感謝出来るようになってきました。
どれくらい離れることが出来ただろうか。もうかれこれ一時間近くは歩き続けているだろうか。もう二度とみんなと同じように会うことは出来ないだろうか。俺はまた、失うのだろうか。──────紗奈花は無事だろうか。
「はぁはぁ……くっ!」
消しても消しても湧いて出てくる杞憂は、来人の足取りを重くする。が、それを振り切るように頭を横に振り、目的地もない歩みを止めることはなかった。
「なんで……もう……また俺はぁぁっ」
苦しさで張り裂けそうな胸を抑えるために、上の服をガシッと掴み、弱々しく叫ぶ来人。顔を滴る涙も強く降りつける雨によって虚しくも地面に流れ、消えていく。
あの時と同じだ。強く降る雨、目の前を流れる川、そして──────泣き崩れる俺。
何も変わらない。何も変わってない。
俺はずっと、
「あの時の、ゴミクズのまんまじゃ……ねぇか」
※※※※※※
「……ん、あ、ここって」
「はぎゃ!? しゃにゃちゃ?!! おちちゃっ!?」
「おい花慌てすぎ。紗奈花さん大丈夫か?」
「はな……とこうたろう?」
「うぇーーーん、心配したんだよぉぉぉ」
「花、紗奈花さん起きただけで体調は治ってないんだから。ほら、重そうだよ」
「! 私が重いなんてよく言える口になったねー!?」
「そんなこと言ってないだろ?! 普通に人間が乗ったらって意味──────」
「来人はっ!?」
その一言に騒がしかった晃太郎と花は口を閉ざす。何か触れてはいけないことかのように。
「──────そっか、夢じゃなかったんだね」
「……何があったか、教えてくれない?」
「教えるも何もないよ。振られただけだよ」
「そっ、か……」
横になっていた状態から上半身だけを起こし、質問に答えていた紗奈花。その小刻みに震える体を花は優しく抱きしめる。
「紗奈花は何も悪くないよ。後で帰ったら私が来人に一発小突くからねっ」
「飲ませる毒はどうする?」
「神経毒でゆっくりとにしよう。3回殺すだけじゃ物足りないよ」
「2人ともありがとう……だけど、何もしなくていいから」
「でも──────」
「その代わり、もう1回来人と友達になるのに協力して欲しい」
「──────せめて来世で不幸な目に遭うように神社にお祈りするぐらいにしときますか」
「親友の望みとあれば、嫌々でもやるじゃん? 紗奈花の頼みは、断れないでしょ!」
「ありがとう」と言いつつも、体調がまだ悪いのか咳が同時に出てしまう紗奈花の背中を花は軽く擦る。
やれやれ……と呆れと同時に、晃太郎は先程見た光景を思い出す。振っただけなら、来人はただ気まずくてまだ戻ってきてないのか。それとも……
「皆さんお疲れ様です」
突如、落ち着きのある声が洞窟中に響き、声の方向に全員が視線を向けるとそこには丁寧なお辞儀をしている時雨の姿があった。
「え? 時雨……?」
「時雨ちゃんだぁー!!」
「時雨さん?」
なんてそれぞれ異なった反応をしつつも、見慣れた顔を見ることができ、喜ぶ一同。
ただ1人、晃太郎だけはこのタイミングで現れた時雨に不安感を抱いていた。
「あはは、皆さんお元気そうで何よりです」
「なんでまた敬語なんか使ってるのさ〜」
ヘラヘラと笑いながら自分に近付いてくる花を時雨は、たった一言で萎縮させる。
「もう友達でいられなくなる。そう思ったからですよ。花さん」
「──────え?」
「あ、あとついでにお姉ちゃん。多分これから言うことにショックを受けるかもしれないけど、元々決まってた事だったからごめんね?」
「時雨? 一体何を言いたいの」
「じゃあ皆さんお待ちのようですので、簡潔に述べますと、「来人様と付き合うことになる予定です」これだけです」
「時雨ちゃん? ちょっとそれは今だと笑える冗談にならないかなぁー? あはは」
先程までのコロコロとした笑い方とは違い、多少指摘も含めた誤魔化し笑いのようになっている花。しかし、時雨の目は真剣そのものでその場にいた誰もが冗談ではないことは分かっていた。
「……冗談ではないことも説明した方がよろしいですか?」
「時雨、もし状況を分からずに言っているなら、悪いことは言わないからちょっと静かにして」
「お姉ちゃんが来人様に振られて、今どうにか元通りにしようとしていることは知ってますが、それ以外に何かありますか?」
「ちょっと時雨さん、言い方気を付けた方がいいと思うよ」
丁寧な敬語で喋っていても、言葉の一つ一つに小さな棘を感じる言い方。晃太郎は時雨にその言葉遣いを指摘する。
時雨は確かにその言葉を耳で受け止めていたが、まるで聞いてないかのように続ける。
「いえ、晃太郎さん。私は今、殴られる覚悟でここに来てるんですよ」
「あいやごめん、別に殴るとかそういう意味で言ったわけじゃなくて」
「ふふふ、殴るのはきっと晃太郎さんではないでしょう。ね、お姉t──────」
横たわる姉に視線を向けようとした矢先、視界に自分に殴りかかろうとする紗奈花と、それに素早く反応して後ろから羽交い締めにして止める花の姿。伸びる拳は花が止めていなければ、間違いなく時雨の顔に当たる位置だった。
「なんであんたがそんなに全部知った上でここに来た!!」
「紗奈花っ!!」
「紗奈花さん!! 落ち着いてっ!! まだ何も分かってないのに殴るのは違うよ」
「お姉ちゃんなら怒ると思った。家で来人様の事何度も何度も話してたもんね。でも、その度に私には申し訳ない気持ちはあったんだよ?」
「何が申し訳ないだよ! 付き合う予定ってなんだよ!」
花に止められてもなお、時雨に向かおうとする力に花もいつもなら笑って流すぐらいなのだが、今は両足で踏ん張り、可能な限りの力を出している。
「はぁ……それではもっと簡潔、いや結論ですね」
話を聞こうとしない姉に、ため息をついて呆れる時雨。そして、説明するのも面倒くさそうに答える。
「来人様と私はあなたがたが知ってるよりもずーっと長い知り合いなのですよ。そして彼は──────」
時雨は怒りで満ちている顔で、震える手をもう片方の手で包み込むように抑え込み、近くにあった焚き火のそばに腰を下ろすと、洞窟の外を眺めながら
「私の唯一の親友を殺した犯人です」
と断言した。その言葉に、先程まで怒りに身を任せていた紗奈花は力を抜き、処理しきれないその内容に呆然とするしかなかった。
残りの2人も「殺した?」「誰を……?」と言葉の意味を探すのに必死だった。
しかしそこにはその言葉が嘘である可能性を探る者は誰もいなかった──────
ぢゅらおです。
予約投稿2回目ですね。ここまでも無事に書けてよかった。この調子でラストまで走りきれよ僕。
ではまた次の話でお会いしましょう!




