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第31話 人の変わり目とは突如来るものである。

ぢゅらおです。

この話は先に伝えておきますが、いつものような話ではないです。すいません。

先程降った雨の影響で滑りやすくなっている地面。1人で気をつけて歩いても滑ってしまいそうなこの地面状況なのだが、来人くるとは背中に具合が悪そうに何度も唸り声を出す紗奈花も背負っている。


(言っちゃ悪いけど、ちょっと重いな……)

ぬかるんだ地面、万全とは言えない足、そして何がとは言わないが平均以上の紗奈花さなか。以上の3コンボにより、来人にかかる圧はより重いものであると言えるだろう。決して背中に乗ってる紗奈花が重いだけでは無い。


「はぁはぁ……いやこれも日々の運動不足の表れだと考えよう」


言葉遣いに荒い息が混じるその声からはどこか自分のことを恨まずとも憎むそんな気持ちが感じられた。文武両道の慶青学園けいせいがくえんでは多くの生徒が何かしら特に体育会系の部活に所属しているのだが、来人は無所属。チャイムが鳴って学校に登校し、チャイムがなって家に帰宅しているこの学校では半ニートと呼ばれる生徒の部類に所属している。ちなみにここで言う半は半分の半ではなく、半端の半である。


「しっかし、見栄張ったの良くなかったかなぁ〜」


切ない笑い声と共に少しばかりの悪態をつく。1歩ずつ着実に洞窟に近づいているもののその度に怪我をしている足の痛みがジンジンと伝わってくる。

そうした痛みを紛らわせるように鼻歌を歌ったり、ひとりしりとりをしたり、結構色んなことをしたが、むしろ痛みは大きくなりつつあった。


「……ごめんやっぱちょっとだけ休憩してもいいか紗奈花」


謝りつつ背中に乗せた紗奈花を近くにあった倒木に寄りかからせるように座らせると来人も痛む足をまっすぐにしたままゆっくりと横に座る。


「はぁ……情けねぇ。本当に情けねぇな俺」


まだ息の上がっている顔を上に向けながら、地面に転がっている枝を投げることで不甲斐なさを表す来人。自分の中で何度も何度もこの感情に言い訳をつけようと努力するが、その度に追いかけるように増える自分への不満。


「……俺は誰かに誇れるような人じゃない。俺は誰かのことを助けられるような人じゃない。──────俺はしょうもない人間だ」

「んなことないっ、よぉ……」

「ごめん、うるさかったか」


最後に大きく振りかぶり強く叩きつけようとした枝は、紗奈花の言葉で急激なストップを食らい、来人は地面に優しくほおり捨てた。


「てかごめんな。こんなところで道草食って。もう充分休憩させて貰ったし、とっとと洞窟に戻ろうか」

「……だめ」

「……えっーと、ごめん? 何かやったか俺」

「くるとはそんな人じゃないのっ──────!」


下を向く来人の腕を弱々しくも強く握る紗奈花。さっきよりも体調が悪くなってきているのか、口からは体温を下げるための暖かい息がこぼれ、目は開けるのもやっとなのか細目だったが、それでもしっかりと来人の方を見つめていた。


「くるとは……私……助け……楽しかったっ……!」


来人の両肩に手を回し、もたれるように体を寄せる紗奈花。「おいっ……」と一瞬、紗奈花を押し返そうと肩に手をかけたが、紗奈花の強く抱きしめる力がそれを許さなかった。


「紗奈花。離せって」

「……いやだ」

「……なんでこんな時だけ、こんなに強欲なのかなぁ」

「──────今離れたら、もう二度と伝えられない気がする……からっ!」


苦しそうにのっしりと顔を上げ、面と面を向かい合わせた2人。紗奈花の顔は、泥に涙が混ざり、所々に汚れが飛び散っている。そんな顔を細く微笑みながら、優しく自身の袖で拭う来人。しかし、その内面はそこで時が止まって欲しいと思っていた。もうそれ以上の言葉を紗奈花に発して欲しくなかった。

この後何が起こるかが頭の中でよぎる度に、ズキンとした強い痛みが何かを思い出させるように何度も何度も心に訴える。

そして、その痛みに俺はきっと抗うことが出来ない。


「──────好き。来人好きだよ」


騒騒しい森のざわめきや、また降ってきていた雨の音などそうした世界の音が一瞬だけ無くなった気がした。いや確かに無くなった。と同時に来人の中で巡る感情も落ち着きを取り戻していた。

しかしそれは、目の前の少女の気持ちに答えるという可能性も打ち消した。

どんな顔をすればいいのかどう言えばいいのか何もかもが分からない状態になってしまった来人は肩に掛かる紗奈花の腕を半ば強引に引き剥がすと、その場に立ち、顔すら向けずにただ置き手紙のように、


「ごめん。俺は誰の特別な人にもなっちゃダメなんだ」


と言い残し、少し上に見える拠点の光に向かって片足を引きずりながら消えていった。


「──────ぐすっ、うっ……」


残された紗奈花はその姿を遠くなる意識で必死に追いかけるも、振り返ることはない。

断られること前提だったし、まして本当に微かな希望も抱いていたことも事実だし、覚悟はしていたことだったが、それでも面と向かって言われると悲しさが体中から湧き上がってくる。

そんな悲しみが涙となって溢れてきつつも、まだ自分を騙そうとしている自分に怒りに震えていた。来人は私のことを見てすらなかった。初めから可能性のない可能性だったのだ。そんなことは分かっていたはずなのに、どこかで甘え、微かに希望を抱いていたそんな自分が憎い。


「──────ばかぁ、紗奈花のばかぁぁぁぁぁ!!!」


手で土を掴み、意識が途切れるまで投げ捨てる紗奈花。誰かに惨めな自分を笑って欲しい。いっその事、来人に冗談として無かったことにして欲しい。誰かにどうにかしてもらわないと壊れてしまいそうな少女は体力が尽きたことで辛うじて心を保つことが出来た。

そんな紗奈花の様子を少し遠くで見ていた影。その影は今起きた事の全てを見ていて、ただ遠くに離れていく来人の様子を見ながら、自身の火照る体の様々な部位を静かに触る。


「嬉しいよぉ、くるっくぅー、いや来人ぉ♡ んっ──────」


憎くて憎くて悔しいくらい好きな来人を思い浮かべ、再度体の熱が上がる。何よりも過去を忘れずに、その過去に悩まされ、囚われ、苦しむそんな来人が醜く美しく思う。その影はまるで来人に取り付く呪いのようにも見えた……





ぢゅらおです。

お久しぶりで、このような終わり方になってしまった事すいません。僕の中でこの物語の落とし方を考えていく上でそろそろかなと思い、唯一この物語を作っていく際に予め考えていたシーンを入れました。

影が誰なのか、ここまで見ている皆様はお分かりなのかなと思いますし、前に出てきたセリフの真意が少しずつ明らかになっていくのではと思います。そして、先に伝えておきますがこの章が終わると寂しいような嬉しいようなことですが、この物語で皆様と会える最後の話が見えてきます。ぜひこのひとつの大きな山を迎える彼ら彼女らを見守り下さい。

では次の話でお会いしましょう!

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