第29話 人には人の視点があるが、それを共有するのは難しいよね?
ぢゅらおです。
最近、体がボロボロで何もかもが下手になってしまっています。
「うぅ……寒いねぇ」
「なんで都心にこんな大自然の山があるんだよ」
「うちの学校昔からあるじゃん? でその時に周りの都市改革にただ1つだけ反対し続けた場所らしいよここ」
「もうちょっと環境良くするくらいだったら神様も許してくれるだろ……」
どこかでポツン、ポツンと落ちる水滴の音が響く洞窟の中で、何もやることがなかった紗奈花と来人は、拾ってきた枯れ木を燃やして作った焚き火の周りを囲むように座っていた。
ちなみに来人は木の根元でそのまま凍え死にいくところを枝を拾いに来た紗奈花に保護され、無事に洞窟の中へ入ることに成功した。
「……なぁちなみに隣のあれは──────」
「しっ! 触れちゃダメなの」
「いやあんなイチャイチャしてるのにどうやって触れずにいろと」
「自分の首の骨折って耐えて」
「おっけーわかった……じゃねーよ。死ねって言ってるじゃねーか」
「別に失うものないでしょ?」
「命失うわバカか」
眉元を上げ口を尖らし疑問の念を訴える顔を見せる来人。紗奈花は来人が気にしている方向に座る花と晃太郎の様子をチラ見で確認すると、お互いの手を握り合い、体をそこまでかというくらい近くまで寄せあっていた。
「うーん。これはめっちゃめっちゃにいっちゃいっちゃしてますねぇ」
「だろ? ハチャメチャにチャメチャメしてるんだよ」
「むっちむっちですね」
「はいむっちむっちでs──────はい?」
「花〜来人が花のことむちむちだって言ってるよ〜」
「おいおいおい罠だろ罠!?」
声のトーンを階段調子であげる来人。言い訳を述べようとしたつかの間、どこから伸びてきたのか分からない手に頭をガシッと掴まれていた。
「人の彼女をむちむちと言うとは余程命が惜しくないようだ……」
「待て待て。晃太郎落ち着け。少し話をしないか」
「そんなことをしても死へのカウントダウンは変わらないが良いのか?」
「あぁ大丈夫だ。俺はここで「むちむち」の定義について述べたいと思う」
男が真面目になれる瞬間。それはエロについて話す瞬間。来人と晃太郎は今起きていた全てのモヤモヤを一旦無視し、その場に向かい合って座ると焚き火で揺らぐ空気を見ながら心底真面目に議論し合う。
「むちむちとはなにか。晃太郎、答えなさい」
「体の一部の肉が過剰についていて、つまむと若干の肉の反発を感じる状態であります」
「──────よろしい」
「あのバカ2人はまじで何してんの」
「紗奈花、あの二人はね。今、ロマンを研究してるんだよ……」
一般的には紗奈花の反応が大正解なのだが、誰しもが忘れている事実。花は、来人がやっているようなちょっぴり大人なゲームをやっていたことがあるという経験の持ち主なのである。つまり、こういうことには慣れているのだ。
一方、野郎2人はそんな女性陣の囁きごとには耳もくれず、ただひたすらに理論を述べていた。
「しかしながら、最近の者は女性の体型をすぐムチムチで表そうとしている……」
「俺だって、その風潮は許せないんだ……」
お互いの肩をガシッと掴むと、急に振り返り、後ろで息を潜めていた女性陣に指を指すと。
「そうだ! 例えば、花さん!」
「はいよ〜」
「花さんの体型はむちむちなのか!? 晃太郎応えろ!」
「違うでありますっ」
「そうだこれはむちむちでは無い! 筋肉質のいい体型なのだ!」
むふふ、その通りなのだよっと花の方もご満悦の様子。
「じゃあ再度問おう晃太郎! 紗奈花の体型は一体なにか!」
「(うーん。まぁ私、花ほど筋肉がある訳でもないから標準型とかかな?)」
「むちむちでありますっ」
「そうだむちむちだ!」
「! なんでぇ!?」
古今東西、老若男女、なぜ争いが生まれるのか。それは、人によって同じ景色でも感じるものが違うからである。例えば今のように紗奈花は標準型だと思っていても、晃太郎、来人のフィルターを通してみると、むちむちに該当されると。
「しかし残念なことに、世の中にはこれを標準体型などとほざくバカもいるのだ……」
「いや正解!? 正解ねそれっ!」
「全く世の中はどこで間違ってしまったのか、俺は悲しいよ」
「……」
「むちむち以外の何物でもないこの素晴らしい体型をどうやったら標準体型なんてものに勘違い出来るのやら」
「そうだよな。男子はみんなむちむちが好きなのにな」
やれやれとお互いの首を残念そうに振る2人。紗奈花は言葉こそ発してないが、目の奥に宿る光が完全に消えていた。花はそれを見て、「あ、あの……2人ともそろそろやめた方がいいんじゃないかなぁって──────」なんて遠回しに気付かせようともしたが、1度この道に走ると終点まで止まらないのが男子トークというもの。花はせめて自分の彼氏が無惨な光景にあってるのを目に映さないように、そそくさと枯れ木を拾いに行くふりをして、洞窟から去っていった。
「そうそう例えば、この二の腕とかな」
そして、来人はぷにっと紗奈花の二の腕の肉を軽くつまんだ。「あっ」とさすがの晃太郎も声を上げたが、来人は既に己のニューワールドに意識が飛んでいて、そんなことに気づくはずもなく、ただ無意識に二の腕をつまみ続ける。
「すぅ……く、来人ー? ちょっと俺、花心配だから外見てくるわぁ?」
洞窟の入口にいることは気付いていたが、その場から逃げる口実が欲しかったため、わざと気づいてないふりをして花を追いかけるように洞窟から逃げていった。
「おい待てってもうちょい俺とむちむちについてお話し合いしましょーy」
「さっきから人の事むちむちむちむちむちむちむちうっさいんじゃボケぇぇ!!」
ゴツーンッ!!と洞窟中に雷の落ちた音が響き渡ったあと、紗奈花は持っていたタオルで手を拭くと床に寝そべる者に心からの軽蔑を送り、優雅に踵を返す。
「……俺はそれでもむちむちを愛そう」
と小声で囁いた来人だったが。
「うんそんなこと言うと思った」
「……えっ?」
その場から去ったはずの紗奈花は、来人の目にまだ光が宿っているのを確認していたので、去ったフリをして、静かに来人の頭の上の死角に回り込んでいた。
そして今度は、来人の腹部を見事なキックで1発KO。
憂さ晴らしに成功した紗奈花はべぇーとお気持ちの舌出しを寝そべる男に向けると、「疲れたぁ〜」と言いつつ、その男の上に腰をかける。
「私が重くなくてよかったねぇ〜?」
「─────いや、まぁまぁおも」
「えぇー!? なんだって聞こえなーいなぁっー?」
「ぐぁぁぁあ! か……軽いです」
「うんうん。聞き分けのいい椅子になったじゃん」
素直な感想を返そうとした来人を紗奈花は踵で蹴ることによってそれを阻止した。そして、脇腹辺りをつねることによって追い討ちをかけ、見事理想の椅子の完成。
「さ、紗奈花がドS姫になってるよぉ……」
「あ、花♡ どう使ってみる?」
「いやさすがにいいよ……」と断る花に安心するのは隣に立っていた晃太郎。しかし、花をよく観察すると椅子になってる来人と晃太郎を交互に見ていて、まるで「晃太郎もやんないの?」と言ってるかのよう。
「いややるわけねーだろ」
「ざんねーん」
わはははと3人プラス一脚は笑っていたが、洞窟の外を見ると太陽は徐々に沈み始めていた。
既にハイキング祭が始まり、半日が経っていることを太陽は呆れつつお知らせするのだった……




