第3話 女子のバレーってドキドキするよね?
ぢゅらおです。
牛乳の賞味期限が切れているのを知らなくて飲んだ結果お腹が痛く──────なると思ったのですが意外にケロッとしています。
少しばかり言いすぎたと思っていた来人は紗奈花が教室に帰ってきたら謝ろうと決めていたが、実際教室に帰ってきた紗奈花は特に気にしていた様子もなかったため謝ることはしなかった。
というかむしろ少し雰囲気が変わったような。落ち込んでるというより、気合いが入りまくってるみたいな。
(けど、俺が悪いのか? まぁ現実を突きつけたことは悪いけど夢から覚めない方も悪いのではっ!? 寝坊するのは起さなかった方じゃなくて起きなかった方が悪いって言うし!)
そんなことを考えている間にいつの間にか授業は体育となっていた。
「なぁ、来人?」
「なんだい。マイフレンド」
「朝言ったこと覚えてるよね?」
「いや覚えてないなぁー」
「そうか、ふんっ!」
2人でストレッチをしていた来人と晃太郎は相手の背中と自分の背中を合わせ相手のことを持ち上げるという動きのときに、晃太郎は思いっきり持ち上げたため、来人の骨が「バキバキバキッ」となったが、非常に気持ちよかったのか、「あぁ〜」と声を漏らしている始末である。
「まぁ、ごめん。今度ハンバーガー奢ってやるから」
「なら許そう。ベストフレンド。ただしトリプルチーズの神戸牛ステーキ入りトロピカル風しか認めんぞ?」
「なんだその地方感ブレッブレのハンバーガーは」
晃太郎と揉め事があった時にはたいていご飯を餌にすれば解消することができる。もちろん来人には反省の気持ちはこもってないが。
「けど、女子のバレーっていいだろ?」
今男子はペアで練習女子は体育館の三分の二を使って試合中である。うちの体育館はふたつあるのだが、今日は外が雨ということがあり、2年生は狭い方の体育館に追いやられているため、片方が試合をするともう片方は試合をできるほどの面積が残らないのだ。
「まぁ、確かに目の保養にはなるな」
「だろー! ほらあそこの子とかさ跳ねる時最高じゃん!」
「おい。彼女様に聞かれるぞ?」
「大丈夫大丈夫! どうせこっちの声なんて聞こえてないから」
ただ来人は知っていた。水を取りに来た花が彼氏のよからぬ声を聞いて、こちらに冷たい視線を送っていたことを。なんなら少しばかりの殺意さえ感じた。知らぬが仏とはこのことか。親友の安全を心の底から願う。
「けど、紗奈花さんも捨てがたいなぁ」
「えっ? どこが?」
「なんか、幼い子が必死にお姉さんバレーに混ざってる感じで」
「それを言うならお母さんバレーだろ」
「おい来人。お前まさかそっちの口か?」
「今の話からなぜそうなる」
ケラケラ笑って晃太郎は持っているボールをオーバーハンドパスで来人に渡す。
「まぁ、お前にはその紗奈花さんがいるからな」
思ってもいなかった突拍子もない質問に来人は思わずきたボールにスパイクで対応した。さらにそのスパイクが運悪く晃太郎の顔面に当たってしまったため晃太郎は保健室送りとなった。
「いてて、来人お前スパイクうますぎだろ..」
「いや、本当にすまん。まじであんな力が出ると思ってなかった」
「けど、まさかお前がそんなに焦るとはな。まさかドンピシャだったか?」
「・・・そんなわけないだろ」
「うわ、今の間絶対なにかあるやつだぞ! ほらお兄ちゃんに言ってみろ〜」
「お姉ちゃんの次はお兄ちゃんかよ」
呆れながらグリグリ晃太郎の頭に手を擦り付けると「まじ冗談だから!」と痛がりながら言ってきたので手を目の前の報告シートに戻した。
(俺が、人を好きになることなんてあるはずがない。俺は2次元に生きると決めたのだ!!)
「あ、お前。今『俺は2次元が好きだから〜』とか思ってただろ」
「え? 俺ってそんなにわかりやすい?」
「俺にはわかるぞ〜。手を取るようにわかる。今あなたは今日の昼ごはんについて考えてますね!!」
「ハズレだ休んどけ」
扉が開いて帰ってきた保健室の先生に「あのバカをお願いします」とだけ言って体育館に戻った。
体育館では既に男子の試合が始まっていたが、来人は喉がかわいていたため水筒を取りに行ったが中身がなかったので仕方なく体育館外の給水所に来ていた。
「やぁ・・・奇遇だね」
紗奈花は給水所の壁に寄りかかってカッコつけているが見た感じでも言葉からも疲れを隠していることがわかり来人は思わず吹き出しそうになったが、己の我慢強さで耐える。
「紗奈花はどうしてここにいるんだ?」
「見ての通り・・歴戦の疲れを癒しているのさ」
(つまり水浴びか。まぁまだ6月とはいえ結構蒸し暑いしな...)
それにあの身長の高いやつしかいない中に1人だけ参加してたら余計に疲れるのにも納得する。来人は紗奈花の濡れている顔に気づいて自分の持っているタオルを投げてあげた。
「ほらっ。これで拭いとけ」
「・・・! あ、ありがと」
「ん? どうかしたか?」
「いやなんでもないわよ!! バカ!」
突然の罵声に来人は「俺なんかしたか?」みたいな顔になり、紗奈花は顔がほんのり赤くなる。
「あ、そっか! すまん。男子の汗臭いタオルなんて使いたくないよな!?」
「え? 汗拭いたの? これで」
「当たり前だろ。タオルなんだから」
「普通使ってないやつ渡すでしょぉー!」
もらったタオルを丸めて来人の顔に投げ返し、紗奈花は持ってきた自分のタオルで顔を拭いた。
「いや、タオルそんなたくさん持ってきてるやついないだろ」
「ぐぬぬ」
「それに、自分のタオル持ってるならわざわざ俺の使おうとするなよ」
「うるせぇー!! くらえぇ!」
「わっ!? 何するんだよ!!」
紗奈花は手でおわんを作り、水を溜めて来人に浴びせた。突然の攻撃に水が目に入り、目の前が少しの間見えなくなっても紗奈花の猛攻は続いた。
「このやろぉぉ!! 俺を本気にさせたな!」
その場でしゃがみ、下でホースを取ると来人は脅すように見せつけた。
「道具とはなんと卑怯な!」
「道具は人類の英知なのだよ!」
「はーいおふたりともストップ」
すぐにでも水合戦を始めそうだった2人の間に割って入ってきたのは花である。
そして、来人からホースを取り上げると来人の頭を軽く叩いた。
「こら! 体操服の女の子に水をかけるとはどういうことかわかるか!」
「えーと、どういうことっすか?」
「『わぁ、服濡れちゃったよ、お兄ちゃん』イベントが発生するということだ!!」
「な、なんだと! あのいもパラの隠しステージの再現ということか!?」
「服が濡れた妹が少し透けて見える自分の下着に恥ずがりながら、お兄ちゃんを揺さぶってくるそのステージのことだよっ!!」
「まさか、いもパラを知っておられる!?」
「本スト、隠し、個人ストーリーを既に3周済みだ!」
「なんと、ここに同志がおったとは!!」
ちなみにいもパラとは『いもうとパラダイス』の略である。もちろん18禁のちょっとどころかかなーりえっちなゲームである。
なんでこの2人が(主に花)がやっているかはともかく来人は分かり合える友達に出会えたことに天を仰ぎ感謝している。
「つまり、今そのイベントをしたら君はどんな目で見られる?」
「ゴミを見る目で見られます」
「そうだ! つまり今君がやるべきことは?」
「今すぐ体育館に戻ることであります!!」
「よろしい!! 行きたまえ!」
「イエス! マイボス!!」
来人はありえないくらい元気にそして素直に体育館へ帰っていった。
途中から話が分からず、空気となりつつあった紗奈花は花の背中をポコポコ叩き、頬のあたりをほんのり赤くしている。
「・・・もう!」
「止めない方が良かった?」
花は紗奈花の背中を叩く手を華麗に捌きながら優しい笑顔で紗奈花を見つめた。
「そ、そんなことないもん!」
特に気にしていませんけど? という顔を取り戻してそう言った紗奈花だが
(花のあんぽんたん───っ!)
と内心では爆発していた。もちろん花はわかっているが。