第24話 人間は自分の想像以上に自分のことを分かってない
ぢゅらおです。
一人暮らしを始めて、久しぶりに実家に帰ってきてるのですが、こういう学校のない期間は間違いなく実家の方が過ごしやすいなぁと実感している今日のこの頃です。
「よっおはよ」
「お、おはよう…」
「ちょいちょい紗奈花さんや。一体どうしたのかね?」
「・・・聞かなくても分かってるでしょ」
「まぁ今から1週間補講で、実質の夏休みが短縮されているのは補講自体が嫌じゃないとしても、夏休みが削れるって点では耐え難い苦しみであるのは理解してるよ…」
「・・・はぁ、朝からこの声聞くのが憂鬱…」
「おい遠回しに俺の答えを否定し尚且つ侮辱するとはお前サタンの子か何かか?」
いつも通りの浮かれた雰囲気である来人とは対照的に、紗奈花は真夏独特の蒸し暑い空気と蒸し暑い男が原因でその白い腕にうっすら汗を流していた。
「はぁ…サタンの子だったらこの夏を今すぐ破壊したい」
「ぬぬ!? 破壊衝動に囚われてはならぬよ?! そういう時はどーどーだぞ? どーどー」
「・・・その喋り方何? 暑さとダブルパンチでイライラしてくるんだけど」
「──────ゴメンナサイ」
来人なりの紗奈花の緊張をほぐすつもりだったのだが、どうやら逆効果だったらしい。当の本人は目の前にサンドバックがあったら穴を空けるまでボディーブローを決めるぞと訴える目をしている。
その目から避けるために、瞬発的にその場から逃げ出そうと来人が踵を返そうとすると、閉め切っていなかったリュックのチャックの隙間から筆記用具がボトボトと落ちてしまった。
ありゃっ?と情けない言葉を零した来人は落とした物を拾おうと逃げようとする足を手で押さえつけるように止め、その場でしゃがもうとした・・・が、そこには既に筆箱を手に持っている紗奈花の姿が。
「・・・あ、あの────」
「何? 要らないの?」
「あ、すいません。要ります」
「なら早く受け取ってよ、こうしてるのも結構辛いんですけどぉ〜」
「いや、そんなことは無いとおも──────」
「今にも手が滑ってそこの排水溝の下に落としちゃうかも〜」
「どんな手の滑り方だよ。ここからそこまで1メートル近くはあるぞ」
「うーん…カーリングみたいに? スーって」
「道路には摩擦というものがあるんだよ嬢ちゃん」
「私には腕力というものがあるのだよ! とりゃあ!」
そして紗奈花は力いっぱいに持っていた筆箱を排水溝めがけてぶん投げた。カーリングとはこんな競技だっただろうか。さすがに本気でやらないだろうと思っていた来人の横を綺麗な直線を描きつつ宙を進んだ宇宙船筆箱号は見事排水溝──────に入ることはなく、その5センチ前でギリギリのバランスを保って止まっていた。
「! 俺の筆箱ぉぉ!」
目を見開きつつ横飛び1つで筆箱に飛びついた来人。しかしその反動で辛うじてバランスを保っていた筆箱は来人から離れるように別れを告げると、ポトンと静かに排水溝の中でダストインしていった…
「あああ…お、俺の筆箱が…」
「えっごめん、本気で入れるつもりなかったの…」
「・・・いやあったとしても最後にトドメを刺したのは俺だ。だから悪いのは紗奈花じゃねぇよ…」
「その、何か特別なものでも入ってた?」
「いや? そんなものは無い。ただまた1から中身揃えるのめんどくせーなぁって」
「・・・じゃあ、さ? この後補講終わって暇だったら帰りにショッピングモール寄らない?」
「? 別に構わないが…筆箱の葬式でもやるのか?」
「いやさすがにそこまでやらないよ。まぁ強いて言うなら新しいパートナー探しかな?」
「普通に新しいの買いに行こって言えよ」
「そっちこそ葬式なんてちょっと技巧な言い方しないでよ。・・・とりあえずまぁ、遅刻しそうだし早く学校行こ〜。筆記用具は後で貸すからぁ」
「うーっす」
そう言いつつ学校への道を歩き出す2人。しかし内心紗奈花は心の中でガッツポーズ。
そう。もちろん今起こったことは全て今日の計画の範囲内。現に前を歩いている来人は気付いてないが、まず来人の筆箱は今は紗奈花のリュックの中に入っている。そして、先程落としたと思ったはずの筆箱には透明な糸でリュックと結び付けられていた。つまり、紗奈花は筆箱が落ちたと思わせて、来人が振り向いた瞬間にリュックを引っ張り排水溝の中でぶら下がる筆箱を回収していたのだった。
紗奈花は昨日来人に登下校を一緒にすることを誘われた時から、どうやってより来人と長くいるか考え続けた。その結果帰りの時に買い物という名の制服デートに誘うことにしたのだ。ちなみにデートと付いているが、紗奈花様はもちろん好きという感情ではないと断言している。あくまで、来人というバカをどうやってバカにするかを考えた結果である。何度も言おう。好きという感情は無い。
(ふふふ、私ってば、やっぱり天才…?)
来人とは今まで一緒に帰ったり、ケーキ屋さんに行ったりなど色んなことをしてきたが、それは全て理由があったから行えたことであって、普通に誘うのは無理である。ならどうするか。
(デー・・・んんっ! 然りデパートによるための既成事実を作っちゃえばいいじゃん♪)
こうして紗奈花の携帯には、来人とデパートに制服で買い物しに行くという必ず訪れる未来が既に前日の夜に記載されていたのだった。
※※※※※※
「それでこれはこうだからーっておい三室。ちゃんと聞いてるかー?」
「そりゃもちろんですよ先生。大切なところはしっかりとノートとってます」
「じゃあ俺の好きな動物はなんだ?」
「ん〜ゴリラ」
「ぶふっ!」
時は流れ、絶賛補講中の来人と紗奈花。他にも補講のメンバーがいると思っていたが、国語で補講なのはどうやら他に居ないらしい。
それにもちろんもちろんノートなどとってないので、とりあえず目の前にいる先生に顔が似ている動物を答えたのだが、紗奈花には思いのほかクリーンヒットしたようだ。
「・・・はぁまぁお前が話を聞いてないなんてもう慣れたことだしな…」
「いや大変申し訳ないです」
「お前頭下げるスピードは本当に社会人レベルだよ」
「名誉のためにプライドを捨てろとよく父母から教えられていたので」
「けど既にどっちもないじゃん」
「いやだから今の俺は捨てるものが無くなったというのが名誉なので…」
「「不名誉だ(だよ)!!」」
誰かこの考え分かってくれる同士が現れないかなーなんて来人は救いようもない思案を脳裏に浮かべつつ、目の前の補講プリントに再度目を通すと、とてもとても何を言ってるか検討もつかなかった。
名門塾のテキストは優秀だと皆言うが、それは授業あっての価値であって、意味がわからなければそれは白紙同然である。
「・・・とりあえずプリントを埋めたら職員室に呼びに来てくれ…」
「先生! 期限はいつまでですか!?」
「まぁ12時くらいかな」
「・・・夜の!?」
「昼のだ!」
はぁとため息を吐いて去る先生の後ろ姿はどこか弱々しく感じた。
と当たり前のように来人は横に座っていた紗奈花に向き合うように座り直すと、んん!と喉を鳴らし、哀願のこもった瞳を見せる。
「さ──────」
「やだよ?」
「はえーよ!? まだ「さ」しか言ってないぞ?」
「こんな感じの流れ前にもやったよね!? なんで今になっていけると!?」
「違うんだ。よく聞いてくれ」
「何が違うって──────」
「人間ってな、十人十色やねん」
「早速授業で仕入れた知識使ってこないでよ」
「こういうの使いたくなるタイプ…♡」
「はふっ!? なんか…いま、私の心臓がガシッと掴まれた気が?!」
「・・・え? 俺の魅力に気付いたからってちょっといきなり過ぎない?」
「心掴まれたってプラスのイメージじゃない…完全にマイナス、マリアナ海溝より深い…」
「それは誠にみかんです」
「・・・みかん?」
「間違えた、遺憾です」
「・・・え?」
「すまん。忘れてくれると助かる」
「み、みかん? みかん…」なんてボソボソと呟く紗奈花にそこまで深く考えられると逆に困ると言わんばかりに、真顔でスっと打ち切る。
来人に遮られ、一度は「そう…」と腑に落ちる紗奈花。しかし、そんなことで思考が止まる訳もなく。
「──────やっぱ解説してほし」
「ねぇねぇ!!? あのさ!!? それって「なんか面白いことしてよ」って言われるぐらい難しいことだって分からないかなぁ!? 笑いっていうのは意味わかんないところまで含めて笑いなんだよねぇわかる!?」
「・・・私、一瞬たりとも笑ってないよ…?」
ちょうどたまたま鳴ったお昼のチャイム。紗奈花は「あ、提出時間だ〜」とウキウキで職員室に向かった。そして昔は名前があったらしい男は提出をすることが出来ない課題と一応面白いと思って言ったギャグを否定され、足をネジで固定されたかのようにただ意味もなく、己の時間を風化させていくのだった…
ぢゅらおです。
どうもということで、心機一転頑張ってみるぢゅらおです。挨拶は何回したって良いですよね。ぢゅらおです。ぢゅらおです。ぢゅらおです。ぢゅらおです。・・・(普通に恐怖なので以下略)
とまぁ何書いていいか分からず、とりあえず最近の近況報告でもしときますかね。最近外を歩いていると、必ず見かけるおばあちゃんがいるんですけど、明らかに僕より足が遅いのに、ふと気になって振り返ると既に居なくなっていて、少し歩いてからまた振り返ると何事も無かったかのように歩いているおばあちゃん。
普通にスーパーヒーローなんじゃないかなって疑ってます。
ではまた次の話で会いましょう!




