第21話 疲れてる時こそ余裕を持ってジェントルを演じた方がいい事もあるよね?
ぢゅらおです。
好きなジャンルはラブコメです。対戦お願いします。
「つまり…来人とお姉さんは再従姉妹? ・・・ってもはや他人じゃ──────」
「ノンノンノン。血の濃さで言ったら確かに薄いかもね。だけど私たちは血以上に固い絆で結ばれてるんだよね!」
「・・・確かに俺より既に足腰は硬くなってるな」
バカにするようにわざと目線を女性の足元に飛ばす来人。頭は悪いくせにこういうちょっとした返答はすぐに出てしまうのが来人の残念なところ。
問題は解けたら褒められるが、一休さんのようにトンチで返答をすると貰えるのは。
「パンチオアキック?」
「チキンオアビーフみたいにワクワクする選択肢じゃねぇな?」
「おっとごめんごめん。デッドオアデッド?」
「・・・ホラーゲームのタイトル──────」
またツッコミを入れようとしたが、来人は見てしまった。自分の再従姉妹である女性の手に藁人形があったのを。そしてそれがやけに自分と重なることに気付いてしまった。
「あのぉ...お前右手に持ってるもの・・・」
「お前?」
「・・・お姉様」
「足らないなぁー?」
「ユーモアに溢れてそれでいてとてもわたくしの親族から現れたとは考えられないですし、そこにとても26歳とは思えない肌の潤いを持っている愛しのお姉様。でよろしかったですか?」
「3文字くらい…詳しく言えば数字ところが、よ! け! い! だ! わっ!!!」
右手で時を待っていた藁人形が女性によって宙に投げられると、そのまま逆手で壁に思いっきり叩きつけられた。
「はうっ!?」
「ほーれほーれっ」
「な、なんで俺…じゃないのに!?」
「これあれですよね。空気の入ったゴム手袋を自分の手だと考え続けたら、それをナイフで刺されると無意識に自分の手だと思って反応しちゃうやつ」
「そそそ! 来人がこの店に来るって知ってから夜な夜な用意してきた来人の藁人形を作っといて正解だったよ」
「お姉さん、すごい予想しますね…」
「やだなぁ。星名さんでいいよぉ」
「あ、そうでした! 私、間藤紗奈花です。一応そこでゴロゴロしてる来人のクラスメイトやらせて貰ってます」
「ゴロゴロなんて…甘いもんに…見えるのか…」
「そこにいる仮称来人とは言った通り再従姉妹なんだけど、名字は同じ三室なんだよね〜」
へへへと照れ笑いをしながら自分の頭をわしゃわしゃする星名だったが、その足元にはもはや塵の1つとなっている来人が文字通り転がっていた。
店の隅々まで掃除が行き届いているおかげで、来人の存在はまだ辛うじてゴミに混ざっていない。
「じゃあ店の名前のMi-kuってミクじゃなくて・・・」
「そう三室(Mimura)星名と来人(kuruto)のお店。略してMi-ku!」
そう自慢げにふんすっと鼻息をこぼす星名。紗奈花はならse-kuなのではと思ったが、それは自分の中に留めた。
「でもなんで来人の名前が店名に入っているんですか?」
「あぁ! それはねっ・・・」
とキッチンに掛けてあった素朴な枠組みに埋まっている小さな写真に手を伸ばす星名。そこには星名であろう女性の姿と何人かの大人。それにまだ幼さが残る男の子が写っていた。
「これは──────」
「まぁいわゆる開業写真ってやつだね〜」
懐かしむように壁に掛かった写真を星名はうっとりと眺める。
「お店開業したのが、私がまだ20過ぎて少しした時かな。やっぱり似たような店が沢山あって思ったように売れ行きが良くない時期が続いてたんだよ」
「そうなんですか!?」
「そんなに疑問に思う?」
「まだ少ししか食べてないですけど、さっき食べたお好み焼き本当に美味しかったんですもん!!」
「! この褒め上手〜このこのぉ!」
星名は紗奈花の肩に対し肘でつんつん。もちろんお世辞でもなんでもなく本心で言った紗奈花は星名の反応に「本心ですからね!?」と反論する。
「私のイメージ通り、やっぱり来人と紗奈花ちゃんは似てるね」
「私が!? あのバカと!?」
「あの」と言っているが、来人は今紗奈花達の足元に転がっている。つまり「この」を使うべきなのだが、紗奈花の頭からは完全にその男の存在が消えていた。悲しきかな…
「似てるって何も外見だけの事じゃないよ〜」
「中身似てるのはもっと嫌なんですけど!?」
「いや中身よりももっと先の…深み?」
「深みですか・・・」
「うん」
「・・・」
「・・・なんかごめんね」
「いえ、なんか一周まわって分かる気がします」
人間分からなくなればなるほど根本に気付くという不思議な生物。紗奈花は星名に「それはそうとですよ」と手で物を別のところに置くふりをすると、話の続きをするように促した。
「っとどこまで話したっけ?」
「売れ行きが〜のところです」
「あぁ! それでそれでね。ある日、おじいちゃんが私の家族とか大叔父の方の家族とかとにかく沢山の親族連れて店やってきたんだけど、その中にまだ幼い来人がいたの」
「凄かったんだから! もうほんとどっかの事務所の大所帯みたいでさ!」という星名の付け足しに紗奈花は飲んでいた水が口から少し溢れる。
「まぁおかげで店の中は見た目だけは元気のいい感じになったのね。もうここからは未だに私でも奇跡だと思ってる話なんだけど──────」
飲食店で接客もよく務めている星名の話し方に紗奈花も体はそのままに意識は前のめりになっていた。
「一番扉の近くに座ったのが来人だったんだけど・・・あの、色んな意味で目立つじゃん来人は」
「それ凄い分かります…」
どこか歯切れの悪い星名の言葉に深く共感する紗奈花。
「色んな料理を食べる度に大声で「これ美味い!!」なんて言うんだよ?」
言葉では迷惑そうに言っていた星名だが、その表情は相好を崩していた。
「そしたらさ、その来人の表情とか言葉を通りすがりの人達が見たり聞いたりして、次々に店に入って来たんだよっ」
「えぇ!?」
「びっくりしちゃうよね!? でもうそこからは食べに来てたはずの親族総動員で店を回す羽目になったんだけど、その間来人何してたと思う?」
「・・・ひたすら食べ続けていたとかですか?」
「それも来人らしいけどっ!」
星名と紗奈花は顔に喜色を浮かべ笑い合う。二人ともそれぞれ過ごした時間は違えど、来人と過ごしてきたという共有の事に先ほど会ったばかりとは思えない仲睦まじい様子だった。
ちなみに事の張本人は未だに地面にて(以下略)。
「でねでね! 自分たちが食べてて手を付けてない余った料理を店の前で勝手に配り始めたのっ」
「! 試食会を勝手に開いたって事ですか!?」
「そうそう! さすがに私も笑っちゃったよね〜」
「それでどうなったんですか…?」
「幼い来人って仮にも幼いじゃん?」
「まぁ確かに仮ですね…」
「通りすがりの人達に「これ美味しいから中入って食べて食べてっ」て言いまくってたんだよ! もうこの後は大変大変。来人に負けて店に入ってきた客まで捌く事になってもうてんてこ舞いだったよ・・・」
「なんというかやることなすこと全部が来人らしいですね…」
「だよねっ」
ここでほとんど、いや全く触れられることの無かった地面で伸びていた来人の頭を星名は今でも幼い来人であるかのように優しく撫でる。
「だけどその日を境に、その日来たお客さんから聞いてきたっていう人達が沢山来るようになって、今ではこうして商いを出来ている訳なんだよ。だからこの店は来人なしじゃ続いていなかったって訳。だから私にとって憎めないバカと言ったら来人なんだよね──────」
「私はまだこのバカとお互いに知り合って長い訳ではないですが、来人の良いところは私も知っているつもりです」
「──────ん? お互い?」
思い出に浸っていた二人だったが、突かなくてもいい所を星名が突いたせいで、二人の間に緊張した空気が流れる。
「・・・ところで星名さん。注文とか大丈夫なんですか?」
「あ、逃げた」と言う勇気は今の星名にはない。むしろ、紗奈花にされた指摘に浮いていた意識が本来の仕事であるキッチンへと戻ってきた。
同時に背中にとんでもない冷や汗が流れているのを感じた。
「店長…?」
ギクッとしてキッチンの入口の方へ顔を向けると、殺意を含む顔で星名に微笑みかけている店員の方々。頭の中で見ることを全力で嫌がったが、辛うじて生きていた仕事モード星名がそれを許さなかった。
「一体注文1つも取らないで何思い出に浸ってるんですかァァァァ!!!!──────」
※※※※※※
「なぁなぁ…紗奈花。1つ質問だが、俺らってこの店にご飯食べに来てたよな?」
「・・・」
「なのにさ、なんで俺ら──────」
ホールで次々に出来上がる料理を席に運んでいた晃太郎の一言。
「汗水流してこの店で働いてるんだ!?!?」
実にごもっともな意見を述べた晃太郎。
晃太郎を含む2年4組一同は店長である星名直々の土下座により、理由もしっかりしないまま女子は料理が遅れた客への謝罪に回り、男子はひたすら料理を運んでいた。
「・・・謝ったじゃん」
「女子にはな!? 俺らには?!」
「・・・ろ、労働というプレゼント…」
「今この日本の闇を見たぞ俺は」
「晃太郎ー? まだ役割に文句言ってるのー?」
「花! 逆になぜお前らは文句の1つもねぇんだよ!」
「さっき決めたじゃん。おじさん達をなだめるのは女子がやるから、そっちは力仕事って」
「なんかその言い方やめろ? まるで「じ」じゃなくて「ぢ」の言い方だったぞ・・・」
「これぞ本当のおぢ活。なんちって・・・」
「──────もはやそれを公の場で言える花のメンタルに彼氏である俺は心から尊敬するぞ」
一応、花の彼氏をやっている晃太郎。自分の彼女を可愛いと思うのは当たり前であって、客であるおじさん共が何か良からぬことをしないか心配していたのに、彼女がこの様子だったので晃太郎は少し機嫌を悪くした。
それにもちろん最初は全員乗る気ではなかった。しかし店員…いや失敬。店員の殺意の籠った人差し指を首に当てられていた星名が1時間だけ手伝ってくれたらこれから君たちが頼む物は私が奢るからと言った事で皆の意見は180度転換。そうして今は気持ちいいくらいにそれぞれの仕事に取り掛かっている。
「それとも君たち野郎に謝罪役が務まると言うのかい?」
不機嫌な様子は気にもせず、花はさらに晃太郎に詰め寄る。
「はいはい。俺らが行って怒られたのに、女子達が行った瞬間ニコニコして何時間でも待つからお話しよーと言わせる事に成功したあなた達には目も上がりません」
「何その言い方。もういい」
晃太郎のこの言い方はさすがの花の琴線にも触れ、分かりやすく機嫌を損ねた花はスタスタと謝罪廻りに戻ってしまった。
「・・・えーと」
気まず過ぎて空気となっていた紗奈花。もちろんここは花に付くべきなのだが、第三者から見て彼女を心配する晃太郎の気持ちにも同情する余地があった。
「えぇぇーだまめぇぇ!! 一丁ぉぉぉ!!!」
こんな重苦しい空気でもスパッと切ってしまうのが勇者来人。時には勇者に、時には悪魔に、彼は欲しい時に欲しい存在として存在するそんな男である。
「・・・うるせっ」
こうして先程まで仏頂面だった晃太郎は微かに口角を上げると出てきた料理を運びに行ってしまった。
1人ポツンとキッチンとホールの間の空間に残された紗奈花は持っていた机拭きをぎゅっと握ると。
「・・・憎めないバカか…」
零れるように小さく漏れた一人の少女の呟きは少女の頬をほんのり赤くするのと同時に、少女の背中を微力ながら押すのだった。




