第19話 可愛いは正義ならこの世は毎日平和だね!
ぢゅらおです。
僕のサボり癖誰か譲り受けたいという人いますか!?
嘘です。普通に夏休みで治します。
「お、終わったぁぁぁ...──────」
「ねぇねぇこの後カラオケ行かない?」
「ん! いいね! その前にさ駅前のデパートよろーよ!」
全てのテストを終えたクラスの雰囲気はテスト後の独特の解放感に包まれていた。
「・・・」
「来人っ! おっつ〜!」
「うっす」
「この紗奈花ちゃんがテスト終わって一番最初に声をかけたのにそれを「うっす」だけとは良いご身分だね〜?」
「俺、今本当に吐きそうなんだが」
「? ケーキ食べたの4日前とかだよね?」
「お腹いっぱいで吐きそうって意味じゃねぇーよ。緊張で吐き出しそうって意味だよ」
「バカって緊張するんだ・・・」
「絞め殺したろうかまじで」
「魚みたいに? 紗奈花怖ーい」
「棒読みでそれ言われても何も思わないっt──────」
「間藤様! 誰を処せばよろしいので!?」
「狩りの時間だ...」
「これ俺がマイノリティーなのまじ?」
まるで手に持っているナイフを研ぐように現れた野郎2人に来人は軽蔑の目線を向ける。
野郎2人もそれに負けじと、威圧の目線をジリジリ送る。
「・・・はぁ、可愛いって正義」
「悪の間違いだろ。頭沸いてんのか」
「・・・わぁーん! なんか来人が私に厳しいよぉ!」
「大声でそんなこと言うな!? このクラスでそんなこと言ったら」
「どうなるか分からない」と言おうとした口をいつ間にか現れたダニエルに物理的に止められ、その後ろから続々とテスト後も元気な愉快な野郎がどんどん集まってきた。
「みみみ皆さんお揃いで、お元気?」
「「「・・・」」」
「はっなるほど、この後男子で遊びにでも行っちゃうか!」
「「「・・・」」」
「・・・っと思ったけどそういえば俺今日政府に呼ばれてるんだったわ! じゃあな!」
何事もなかったかのように教室を出ようとする来人をもちろん野郎共が許すはずもなく、瞬きをする間に来人はまたもダニエルによって空中に磔にされた。
「Garçon. Es-tu prêt?《坊ちゃん、覚悟はあるか?》」
「だから日本語喋れるのはもう知ってるぞ」
「こいつに覚悟がある訳ないだろ」
「そしてなぜお前らは当たり前にフランス語を理解しているんだ・・・」
「・・・例のアレを」
十心が声をかけると、十心の手に何かが渡されたが、来人の場所からはよく見えない。
「僕は一応これに反対したってことだけ言っとく」
「・・・ごわす」
「鴑、十心が持ってるのはおにぎりだよな!? そうだよな!?」
「・・・」
「目逸らすなぁ!? 今は「ごっつぁん」って言う場面だろ!」
申し訳なさそうに目を逸らす鴑に来人は手を伸ばすが、ダニエルによって空中に固定されているため手は届かない。
「始めるか...」
スっと来人の目の前に十心が来たことでやっと何を持っているか確認できた。綺麗な白い羽だった。・・・羽?
すると周りの野郎が呼吸を合わせたように来人の上履きと靴下を次々と脱がせていった。
「・・・鬼か蛇か...?」
「純情な女子を守るジェントルマンと呼んでいただきたいね」
「この恨みは子孫末代まで伝えるぞ・・・」
「子孫が繁栄したら良いけどな」
「・・・神様、生まれ変わったらここにいる全員を地獄に送る力を俺にお授けください」
「みんな! ちょっと待って!」
来人と十心の間に手を広げた紗奈花が立ち塞がった。紗奈花は来人に憐れみの目を見せると、十心ら野郎共に嘘か真か1滴の涙を零す。
俺は見逃さなかったぞ。振り向く時、明らかに何かを企んだ笑みを浮かべてやがったこの魔女。
「来人わね、テスト終わってすぐだから気が立ってるんだよ...だから」
「まぁ、間藤さんがそう言うなら──────」
「もっと大きいの使わないと♡」
そう言いつつどこで売ってるのか、一体なんの鳥の羽なのか分からない聖剣レベルの大きさの羽が出てきた。しかも6つ。聖剣探しの旅に出ようとした勇者が始まりの町で聖剣を見つけてしまうくらいの数。
「へっへっへっ。これこれぇ。これを待ってたんだよ」
Q.それが魔王軍に渡った。聖剣を持った魔王軍を勇者はどうやって追い返すのか。
A.無理。
「ぎゃへっへぶっ! ひーひっひひっ!」
「まだまだぁ!」
「も...もうやめっ、ひゃっ!」
「・・・よーし! ストッープ!」
やっとのことでこちょこちょ攻撃が終わったが、来人はもう限界だった。
「ぜぇ...ぜぇ...まじでお前ら...全員...人の心あるか...」
「無きにしも非ず〜」
「Seulement si vous êtes l’autre personne, ce n’est pas le cas.《お前が相手の場合に限り、その限りではない》」
「く、来人? 大丈夫か?」
死に際の息遣いをしている来人に水を差し出した男の姿があった。
「晃太郎...! お前本当に、お前だけだよ...」
「困った時はお互い様、だろ?」
「・・・あぁ!」
お互いの手をガシッと掴み、来人は起き上がろうとしたが、ふと晃太郎のことを改めて見てみると反対側の手に小さな羽がたくさん付いていた…
「晃太郎」
「なんだ?」
「いや野郎共お前らに聞く。この作戦を思い付いたやつにいっせーのっで指を指せ。いいな? いくぞ。いっせーのっ──────」
今までの雰囲気的には紗奈花であるはず。ただ「はず」というのは可能性を示す言葉。必ずしもそうとは限らない。今回のように…
野郎共が指を指した先にいたのは紗奈花でもダニエルでも十心でも、もちろん鴑でもなく、晃太郎。
「晃太郎・・・俺は友達をすぐに切る真似はしない」
「来人、これには非常に悩ましい訳があって...な?」
「いーち...にーい...」
「なんのカウントダウンだ!?」
「さーん...」
「晃太郎! 逃げろ! ここは俺らが食い止めるから!」
「よーん...」
「みんな、すまん!」
校内にも関わらず全力疾走で逃げる晃太郎。残された野郎共は来人の体の至る所にしがみついた。
「来人、今日がなんの日か思い出せ!」
「ろーく...」
「ダメだ、もう声が届いてない...」
「狼狽えるな。お前ら。俺らがこうやって止めてるんだ。動けるはずがない」
「十心!? 綺麗なフラグ立てるな!?」
「はーち...」
「じゃあ私たち先にお店行ってるから、みんな...お達者でー・・・」
紗奈花とクラスの女子達は後ろで騒ぐ男子を目に入れないようにせっせと前のドアから次々に出て行った。
「みんな1つ聞いてくれ」
「なんだ十心」
「僕らは最高の仲間だ。しかしそれは来人も含めて...だ。だから、終わった後、来人のことを仲間として迎えてあげよう」
「「「あぁ!」」」
全員が各々の拳を突き上げ誓い合う。きっとまた一緒の場所に集まろうと。今はこの怪物を止めようと。
「じゅーう...もーういいーか────いぃぃぃ!」
「抑えろぉ!」
「Ce type avait ce genre de pouvoir ! ?《こいつこんな力あったか!?》」
「止まれぇぇぇ!!!」
※※※※※※
「ここまで逃げればそうそう追いつくことはないよな?」
来人が目覚めるほんの少し前。ここでもまたフラグを立てた男が1人。
額に浮き出た汗を拭いつつ、廊下の奥にある自分のクラスの教室を見ると、うっすらと誰かの手が出てきて、何かを叫んでいた。
何を言ってるのかよく聞こえなかった。声が小さいからでは無い。声が重なり合ってだ。しかし聞きたくない言葉と姿だけは確認できた。
「逃げろぉぉぉ!! 地球の果てまでぇぇぇ」
その声と共に、男子を10人はぶら下げているであろう男の姿が見えた。その姿はさながら誰かに負けじと悪魔のよう。
「みーつけた〜♡」
「は?」
「晃太郎! こいつ止まらん!」
「いやいや...お前ら全員がぶら下がってるのに!?」
「いや! 教室を出る時に既に5人はやられた!」
えぇ...何その圧倒的な強者感・・・
事実、少し目を凝らしてみると瀕死状態の男子が数人倒れていた。
「・・・もう今言うしかないか」
「な! 晃太郎! それだけは言っちゃダメだ!」
「人には腹を括らなきゃいけねぇ時もある」
「だけどそれを言ったら今までの八つ当た──────じゃなかった。作戦が台無しになるだろ!?」
「くるとぉぉぉぉ!!」
もう誰の声も耳に入れない。そう決意した晃太郎は最後の戦いに挑まんと来人と向き合う。
来人と晃太郎。割いても割けぬ仲である2人が今ぶつかり合う──────というのがヒーロー物あるあるだが、彼らは一般的な高校生。もちろんそんなヒーローチック展開あるはずもなく。
「・・・はっぴばーすでーとぅーゆー…」
ぎこちない手拍子と共に晃太郎はその場に似合わない歌を歌う。
「「「はっぴばーすでーとぅーゆー」」」
それに合わせ、来人の周りでしがみついていた者。犠牲となっていた者。全員が声を合わせ中々に盛大なバースデーソングが歌われる。
「「「はっぴばーすでーでぃあくるとー」」」
古今東西歳をとるのに嫌悪感を抱く人は居れど、祝われることに嫌悪感を抱く人はいないだろう。もちろんそれが人外化した者だとしても。
来人も例外ではなく、名称不詳の踊りをその場で舞っている。
「「「はっぴばーすでー・・・とぅー・・・ゆーぅぅぅ!」」」
パチパチパチと廊下に拍手が響く。来人の顔もさっきまでとは違い、幸せで溢れている。
「・・・オデキョウタンジョウビ?」
「そうだ! 来人! これ全部サプライズ!」
「オデプレゼントモラエル?」
「それは女子の方の担当だから内容は知らんが、あると思うぞ!」
晃太郎の言葉に野郎共の間に冷たい空気が流れた。まぁなぜ野郎共がこんなにも来人に対して嫌がらせをしたのか、もう少し経ったら分かるだろう。補足だが、紗奈花に関しては理由もなく完全に悪意である。
「オデオマエホシイ」
「うん?」
聞きなれないフレーズに晃太郎の脳は解読に時間がかかる。
いや正しく言おう。無意識に解読を拒否した。
「タンジョウビプレゼント。オマエ。オデ、シアワセェェェェェ!!!」
コンマ1秒で最高速に達し、晃太郎に襲いかかる来人。反射神経が求められるラグビーの日本の若きエースと謳われる十心でさえ反応できないスピードだった。
もちろん晃太郎が来人を認識した時には、来人の鼻息を肌で確認できるくらいの距離だった。
その後どうなったかは野郎の1人も語ることはなかったそう。
しかし、その出来事は真夏の鎮魂歌事件として色んな尾びれ背びれを付けられて、様々な学校の七不思議として肝試しの時に活躍したらしい・・・とな。




