第17話 バカに何を言っても無駄なんてそんな事ない...よね?
ぢゅらおです。
ちなみに僕はフランス語は喋れません。
間違いがあるとは思いますが、暖かい目で見てください。
「お前ら、まじで許さんからな?」
「・・・すまん」
「C'est ta faute《お前が悪いけどな》」
「ダニエル君、いやダニエル。お前も反省しろ。お前も悪い」
「!? Je comprends maintenant le français ! ?《今フランス語を理解した!?》」
「・・・ごわす...」
「鴑は...まぁ悪くないか」
「ごわす!? どすこいっ!!」
「──────鴑ってずっとこんな感じなのか?」
「こいつは自分の全てを土俵の上に置いてきてるから...」
「どこのスポコン主人公だよ」
来人、ダニエル、十心、鴑の4人はその後廊下で生徒指導の先生に見つかり、そのまま首根っこを掴まれてみっちり1時間のお説教を食らっていた。
それにしても、誰か1人だけならまだしも育ち盛りの高校生4人を同時に引っ張るとか一体どんな力をしてるんだ...
「お前らぁ、まだテストは1日しか終わってないんだー。今日に懲りてもう悪さするなよー。特に三室」
「・・・はーい」
先程までいた生徒指導室から聞こえた声に素っ気なく返す来人。そしてまた教室に残した荷物を取りに行くために4人で静かな廊下を歩く。
「ってなんで俺だけ!!?」
突拍子もなく声を上げた来人に他の3人は一瞬肩をビクッとする。
しかし、軽く目を合わせた来人以外の3人はにんまりと笑みを浮かべると来人の肩にガシッと手をかける。
「ごめんな来人。僕クラス7位」
「je fais 3 carrés|《俺は3の二乗》」
「ごわす」
1人以外何位なのか来人には理解できなかったが、どうやらみな中々の高順位であるらしい。
「・・・お前ら脳筋って言葉知ってるか」
「何を言うんだ来人。脳に筋肉は必要ない。必要なのは栄養だ」
「C'est pourquoi tu es si mince《だからお前そんなに細いんだよ》」
「・・・ごわす...?」
1人は正論|(?)を返し、1人は自分の上腕二頭筋をツンツンと触りながら侮辱し、また1人はどこから出したのかおにぎりを食べながら、つぶらな瞳でサンドイッチを差し出す。
「あ、大丈夫」
「ごっつぁん」
来人が断ったサンドイッチも鴑はおにぎりと一緒に自分の口の中に放り込んだ。
「・・・はぁもう疲れたわ」
「何を言うんだ来人。これから僕らはこれから壊れた扉を直さなければいけないのだぞ?」
「おい嘘だろ」
「先程、先生が言ってたの忘れたのか? 今日は扉を直すまで帰宅禁止って」
「そういうのって次の日に勝手に直ってるとかじゃないのか...」
「壊れた物が勝手に直るわけないだろ?」
「・・・今のは俺が悪かった」
「前から思ってたけど、来人のそのプライドの欠片もない反省の速さ。そこは良いことだと思うぞ」
「──────愛とムチって同時にあげちゃ意味ないの知ってるか?」
それにしても知らない人が見たら、なにかの大名行列かと思ってもおかしくない4人の歩く姿に1種のヒーロー感すら感じる。もしこの後ろに火煙が上がっていたら1個のヒーロー映画撮れるくらいに。
「あ、来人」
「・・・?」
「いや?じゃなくて。すぐに『あー紗奈花か』って言う所でしょ」
「?」
「ままま間藤さん!?」
「Ah, ma belle partenaire. Marrions nous《おぉ! 麗しき我がパートナー。さぁ、結婚しよう》」
「・・・ごわす」
教室に着いた瞬間、自分たちのアイドルの出現に4人中2人は感極まって現実を見失っている。
しかし鴑はぺこりと会釈をすると足早に自分の荷物を取りに行き、後ろで騒ぐ来人達に再度会釈すると前の扉から教室を出ていった。
「・・・この中だったら鴑とだけ親友になれる気がするわ」
「僕らも親友に慣れるだろぉ?」
「紗奈花を見ながら言われても、友達になった後の目的がダダ漏れでとてもなる気になれないね」
「Je ne dirai rien de mal. Tu disparais rapidement《悪いことは言わない。来人、消えろ》」
「何を言ってるかは分からないが、何を伝えたいかはわかるぞ? ダニエル?」
「もう来人っ!!」
紗奈花はその集団から来人の腕を掴むと自分の元に思いっきり引き寄せた。早く帰りたいなぁと意識が上の空だった来人は急に引っ張られたので、自分の重心を保つことが出来ず文字通り紗奈花に飛び込んだ。
「・・・来人!? お前ちゃっかり何してるんだ?!」
「コロス...」
「ちょ、ちょっと来人!?」
来人は今自分が置かれている状況よりもダニエルがしっかりと日本語を喋っていた事に意識が向いていた。
(痛いし、急だし、めちゃくちゃナチュラルな日本語聞こえたんだが!?)
来人は自分の意識上で妄想が駆け回っていたが、その間の来人の体勢は四つん這いになって紗奈花の事を押し倒している様な形になっていた。
「来人! お前早くそこ代われ!──────じゃなかった。早くどけ!!」
「Oh mon Dieu. Veuillez m'excuser de me salir les mains...《神よ。私が手を汚すのをお許しください...》」
「来人、さすがに私もここでは恥ずかしいよ///」
「・・・は? あ! おい待ってこれ本当に違うっ──────」
頭を2度3度振って余計な考えを振り落とした来人はようやく自分が置かれた状況。いや、置いている体の状況を理解する。急いでその場から跳ね除ける様に体をどかした来人だったがもちろん時すでに遅し。
「・・・あ! 窓の外にUFOが!!」
突然、来人が窓の外を迫真の顔で指を指すので、その場にいた全員は思わずそちらを振り向く。が、もちろんUFOなんているはずも──────
「え、本当じゃん」
「えぇ!?」
紗奈花が落ち着きのある声で言うため冗談で言った来人もその間に逃げるプランを忘れ、窓の外を見た。
「・・・スキあり」
「あ、おい!」
予め打ち合わせしてたかの様にダニエルと十心は壁に押し付ける形で来人の両手をそれぞれ抑え込む。
「・・・ごめん。2人とも目瞑ってくれる?」
「「・・・!?」」
「お願い...」
「間藤さんがそう仰るなら...」
「Je ferai même de Dieu mon ennemi《神をも俺は敵にするぜ》」
ほのかに香る厨二病感は置いといて...2人は忠実に従い、目を無駄に力強く瞑る。
「さささ、紗奈花?」
「・・・ごめんね。来人...こんな強引なのは嫌だったんだけど、こうしないと来人わかってくれないじゃん」
「落ち着けっ?! いや本当に早まるな!?」
「・・・ふぅ」
紗奈花の明らかにリミッターが外れている様子に来人は本心からの焦りを感じていた。
(これ、本当にまずいやつになるんじゃないか!?)
そんな来人とは反面に、紗奈花は1呼吸置いた後、何か決めた顔で来人に1歩近づいた。
「・・・ぶどうは好き?」
「──────へっ?」
紗奈花は来人の口に1口サイズのゼリーを押し込んだ──────
それと同時に隣の2人に聞こえないように紗奈花は自分の口と来人の耳を手で覆い隠す様にすると小さく呟く。
「もちろん私も1口頂いてるから1口ゼリーじゃなくて0.5口ゼリーだけどね?──────」
「・・・おまっ」
「よしっ! 2人とももう大丈夫! ありがと〜」
「このゴ...いや、来人との会談は終わりましたか?」
「うん! ありがとう!」
「Alors épouse-moi ensuite|《では、次は俺と結婚を...》」
「ダニエル君もありがとう! 結婚はしないけどね?」
「Pour une raison quelconque, je comprends le français. Tu es si mignon aussi《何故かフランス語を分かっているそんな君も可愛らしい...》」
「んーじゃあ来人。いつまでもゼリー食べてないで私の荷物持って...」
「ゼリー食べさせたのは紗奈花だし、お前の荷物を持つって言うのも意味がわからないんだが」
「・・・持って?」
「──────りょい」
紗奈花の言葉に含めなくてもわかるでしょ?と言わんばかりの言威に来人はただ肯定するしかなかった。
「・・・じゃあダニエル君と十心君、来人借りて行くね〜」
「あ、あの...僕らこれからそいつと扉を直さなきゃ──────」
「うん?」
「いってらっしゃいませ」
「Laissez-nous les tâches ménagères《雑務は俺たちにお任せを》」
「紗奈花...ちょっと待てって」
「・・・」
「あーこれ話聞いてくれないやつですね」
カックンと肩を落とした来人の手を引っ張りつつ紗奈花はどんどんと教室から離れていく。来人は廊下を歩いている最中に聞こえた教室に残された者達の発狂に近しい声のために、耳を外界から遮断する。
※※※※※※
「なぁ、紗奈花ーいい加減どこ行くのか教えてくれよー」
「バカ来人。アホ来人。変態来人」
「・・・前にも同じようなフレーズを聞いた覚えが...」
「来人がバカじゃ無くなるまで何回でも言うよ?」
「じゃあ墓行くまでずっと言われることになるのか」
「──────墓行く前までに治そうとは思わないの?」
「バカとの付き合いは永遠よ」
「それ付き合う友達間違えてるよ?」
いつも通りのたわいもない会話を続けながら、人通りの少ない静かな道を2人は歩く。
「てかさ来人。なんでさっき教室で会った時とぼけた真似したの?」
「自分のこと陥れたやつに会った瞬間許すほど、俺は優しくないからな」
「陥れた...? 私が?」
「えぇ、まさかの無自覚でいつもこんなことやってるのか...」
コテッと首を傾げ低く唸る紗奈花を見て、来人はまた肩をガックンと落とす。
「あははっ。なわけないでしょ〜」
「だ、だよな〜!」
「うん。10割じゃなくて9割くらいだよ」
「う〜ん?」
弾ける様な笑顔をさらけ出す紗奈花に対し、来人は乾いた笑顔を浮かべる。
(本当に、紗奈花って本性がわかんねぇなー)
と思っている所に、来人の目の前に見覚えのある1枚のチラシが差し出される。
「これって・・・」
「覚えてる? いつしかの課題のお礼で奢ってくれるって言ってたケーキ屋さん!」
「あぁー、お前がボールペンで書いてくれたおかげで余計に課題が増えたあの日のことな?」
「──────な、何で書けなんて言わなかったじゃん」
分かりやすく目が泳ぐ紗奈花を見て、来人は鼻で笑ったあと、まだ明るい中昼の空を見てぼやく。
「・・・毒入れるなら今日かぁ」
「今聞き捨てならない言葉聞こえたんだけど?」
「白雪姫の物語を思い出してただけだ...」
「・・・なんでこのタイミングで...」
「おっ。どうやら着いたっぽいぞ」
「いーや段取りがどっかのテレビ番組」
右手でペシっとツッコミを入れる紗奈花を来人は軽く体で受け流す。
「さてと、で仕方ないから半分奢ってやるよ。どれ食べたいんだ?」
「ちょいちょいちょい。あんちゃん、それについて1つお願い、というか相談があるんだけどね」
「奢ってくれという件なら却下だ。紗奈花のせいでどれだけ苦労したか...」
「ただでとは言わないよ」
「有料でもないわ」
「まぁまぁ...実はこのお店少し面白いケーキがあって、ロシアンルーレットケーキというものが──────」
「詳しく聞こうか」
「ロシアンルーレット」という言葉に来人の中に眠る男の子心が目を覚ます。男の子はなんでも賭け事が大好きな生き物だからだ。
そして食い気味に乗ってきた来人に内心「しめたっ」と思った紗奈花は顔に出さない様に気を付けつつ、説明を続ける。
「ロシアンルーレットは知ってるよね?」
「もちろん」
「じゃあ来人は辛いものいけるタイプ?」
「いや、火を吹くが?」
「それは良かったっ」
「おいなぜだか教えて頂きt──────」
「とりあえず後は見た方が早いから、早くお店入ろっ!!」
「1番大切な部分の説明抜いてないか...」
「ごめんくださーい」
「・・・いや店の入り方に古風感じるな!?」
来人がツッコんでいる間に紗奈花はとっとと店に入ってしまったので来人もそれを追いかける様に慌てて店の入口を跨ぐ。
しかし、来人は知らなかった。これから今日の記憶が飛ぶくらいの勝負が繰り広げられる事を。
生徒指導の先生は知らなかった。あれだけ指導された来人が勉強もせずにまたほっつき歩いている事を。
2人は知らなかった。扉の直し方が職人級に上手だと話題になり、夏休みの間様々な学校の修復作業に手を貸すことになるのを・・・