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第16話 人は恨みで言語の壁をも越えることが出来る

ぢゅらおです。

僕の中の予定では、大学1年生の夏休みの間にこの作品は一旦完結するスピードで書く予定だったんですけど、どうやら無理そうです。

「(・・・うーん。これは一体どうしたものか...)」


 最初のテストが始まり早20分。おそらくほとんどの人はまだ手を動かしている時間だったが、来人くるとの手は文字を書くことを止めていた。


「(もう出来る事がなくなってしまったんだが...)」


 声自体は出していないものの、その体中から溢れ出るどんよりとしたオーラが来人の問題の出来を物語っていた。


 高得点を目指すなんて崇高な目的を持ってない来人にとって、解けない問題が1問や2問ある事は全く問題ではない。しかし来人は、今日のテストを限られた時間から逆算してどのように赤点を回避するかだけを考えてきた。


 そして辿り着いた作戦とは──────


「(全ての大問の最初の問題だけを解くっていうこの方法...確かにこれなら基本的なことだけをしっかり抑えたら解けるようになるけど、逆にこの方法あまりにも背水の陣すぎたなぁ──────)」


 そう、「(1)だけ作戦」である。これなら派生した知識を持ちえずとも、基礎的な事を踏まえておけば極めて正解を勝ち取る可能性が高くなる。


 そしてこの作戦は今日のテストの教科が数学と物理という問題数が少なく、1問の配点が高い教科だったこそ可能なものであった。


 来人はそうして立てた自分のプランに従い、解答用紙はものの見事に(1)だけ解き終えていた。


 しかし、来人の顔はまだどこか不安げな表情が残っていた。


「(けどこれ、全部合ってたとしても赤点回避ライン乗るか? これ...)」


(1)の問題とは基本的な知識のみで解けるような問題が多い。しかし逆に言ってしまえば、その分配点は他の問題よりも低くなる可能性が高い。


 つまり(1)だけを全て解いた点数と、他の問題も含めて解いた点数では、解いた問題数が同じだったとしても点数には10点ほどの差が生まれる。


「(対策はしてないけど基礎はわかってるんだし、他の問題でも見てみるか?)」


 来人はそんな軽い気持ちで最初の大問に戻ってみた。が、その気持ちが数秒後には綺麗さっぱり消えていた事は来人はまだ知らない。


『問2。xについて途中式も含めて求めなさい。ただし、()()()で解くこと。』


「(─────はぁぁぁぁぁぁ!!?)」


 問題自体はおそらく基礎を理解している来人なら、時間はかかるが解ける問題だった。ただ、授業中の内容でとなると話は大きく変わってくる。


 なぜならこの男、授業を全く聞いていない。


 ではなぜそんな男が(1)は解けたのか、答えは簡単──────


「(授業でやった内容なんて知るかよっ!)」


 別解である。来人はどんなに分かりずらい内容でも1番手順が少なくなるやり方だけを覚えてきた。つまり、来人は授業内容を一切フル無視で効率重視の勉強をしてきた。


「(ふぅ、まだ大丈夫。その下の問題からやれば──────)」


『問3。問2を踏まえた上で、あとの問いに答えなさい。なお、問2が出来ていない場合、正答であっても不正解とする。』


「(ふざけるなぁぁぁぁ──────!!)」


 来人の脳裏で問題製作者の「授業聞いてたなら出来る簡単な問題だよね?」と言わんばかりのニヤつき顔が思い浮かぶ。


 来人の顔はもうそれはそれは引き攣りまくっていた。そして覚悟を決めた来人は感心するほどの綺麗な手の上げ方で試験監督の先生に伝える。


「先生、すいません。ちょっと行ってもいいですか?」

「おー。気を付けて行けよー」


 ガタッと椅子を後ろに下げて立ち上がった来人は眉尻だけを釣り上げたなんとも不気味な顔で教室を去って行った。


 来人が去って、ほんの少し時間が経った教室では、全員が言葉に出さずとも全く同じことを言うであろう共通の疑問が漂う。


(((今、どこ行くって言った??)))

 そんな疑問もクラスにいた全員はありえない話だと切り捨て、トイレと言ったんだなと思い直しまた自分のやるべき事に集中し直した。


 ※※※※※※


「あぁあ、終わったぁ...」

「・・・? エンドの方?」

「フィニッシュの方に決まってる...だろ」

「今の間、怪しい人の間だったんだけど?」

「・・・紗奈花さなかこそテスト大丈夫だったのか?」

「あ、話逸らした。まぁ私はいつも通りって感じ?」

「あー満点ね。はいはい」


 とりあえず1日目のテストが終わった解放感で来人には余裕が戻ってきた。


 来人の机にもたれ掛かる様に座る紗奈花。そんな2人の会話に何やら様子がおかしい男が1人入り込んできた。


「俺も今回いつもより良い感じを感じていますです!!」

「・・・晃太郎こうたろうの方はやばそうだな」

「やばくなんかないねん。何をお主」

「はいはい。俺が悪かったな」

「朕に対して失敬な! 成敗してくれる!!」

「──────はなさーん」

「ぬぉお! 何を言い出すか!?」

「みんなの心をストライク! 花だよぉ」

「は?」


 来人に呼ばれ、自分の席からまさしく飛んできた花の様子がこれまたどこかおかしい。


「来人よ来人。私を呼んだのは君だね?」

「あ、はい」

「さぁ、願いを3つ言いたm──────ムニャムニャ」

「寝たァ!?」

「・・・は! 寝てないよ寝てないよ!?」

「正直に言いなさい」

「・・・寝ました...」

「正直だな!?」

「あ、花。もしかしてまた〜?」


 そう言い、花のほっぺたをぐにゃあっと引っ張る紗奈花。そして花は顔全体が溶けていた。


 その光景を見た晃太郎は花を指さして周りにいた適当な男子に「あれ、俺の彼女なんだぞ〜」と自慢する始末。


 また、クラスの男子は紗奈花が頬を引っ張る様子に「俺もしてもらいてぇ、ブヒッ」「ブヒブヒッ!!」と汚く鼻を鳴らしている。


「もうこの教室本当におかしいんじゃないかと思ってきたんだが」

「俺もそう思ってきたわ。──────ブヒッ」

「晃太郎。お前もだよ」

「──────スピー」

「帰るわ」

「わぁぁー! 待って待って!」


 リュックを背負い帰ろうとした来人を帰さまいと手と足を大の字のように伸ばし出口を塞ぐ。


「帰らせないよ!」

「俺がそこを強引に通るという考えがないとでも?」

「したら泣くよ?」

「泣いてどうぞ」

「・・・ぐすっ」


 本当に目の前で泣くフリを始めた紗奈花に来人はため息をついて呆れる。


「俺がそんなことで止まる男ではないこと、お前が1番知ってるだろ?」


 よいしょっと軽く力を入れて強引に紗奈花をどかそうとした来人だが、予想に反し紗奈花の肩を押してもビクともしない。


(・・・力抜きすぎたか。さすがいつも花さんと一緒にいるだけあるな)

 今度は少し力を込めて再度肩を押した来人だったが、これもダメ。紗奈花は1ミリも動かない。


(──────いやいやいやいや)

 さっきのとは違い今度は結構力を入れているのだ。それなのに紗奈花が動かない事実。これに来人は少し同様して自分の手を見つめた。


 するとそこには、目を瞑り「ふぬぅー」とよわよわしい唸りをあげる紗奈花とその少し手前で止まる右手があった。


(あー。触れてなかったのか。なるほどな)

 1度は納得した来人だが、そこに存在する当たり前の疑問に眉を引き寄せた。


「いやれられないってどういう事だよ?」


 来人の意識では紗奈花に触れているのに、現実では触れてない。ここから考えられることは、来人が思っているよりも手が短いか、もしくは外からの力を受けているか。


 嬉しいことではないもの、来人は前者の理由であることを祈った。そうあって欲しかった。


 しかし実際起きていたのは後者だった・・・紗奈花を押そうとした来人の手首を誰かが掴んでいた。


「Hé, gamin.《おい小童》」


 来人は明らかに知り合いに向ける感情以外が篭ってる言葉に頭の中で警報がなっていたが、反応しないわけには行かず、ゆっくりと後ろを振り向いた。


「あ、は〜い? ダニエル君...?」


 声の主はフランスからの交換留学生ダニエルであった。そしてその右横には1年生で父に元横綱、母は元プロレスラーを持つ相撲部のエース、土場鴑つちばどす


 左横には高校生離れした体格と、ピッチ上での卓越した司令を武器にし、今ラグビー界で期待の星とされている神田十心かんだとっしん


 軽く一隊軍隊を潰せそうな3人に来人はゴクリと唾を飲み込む。


「ど、どうかしましたか...?」

「Avez-vous essayé de toucher une femme tout à l'heure ?《お前今、間藤さんに手を出そうとしたな?》」

「─────? おぉ! いぇすいぇす!」

「「???」」


 とりあえず言葉が理解出来ない時は肯定しとけばどうにかなると考えていた来人。


 その来人の言葉を聞いた筋肉ダルマ三人衆はその場で円陣を組むとさっきよりもさらに殺気だっているのがよく伝わってきた。


「Pour l'instant, je vais le tuer une fois.《あいつ一旦殺すか?》」

「テスト始まる前のキ...スの件もあるしな」

「ごわす! ごわす!」

「Quelqu'un a-t-il une stratégie ?《何か作戦があるやついるか?》」

「・・・スクラムなんてどうだ?」

「quoi ? Est-ce délicieux ?《なんだそれは? 美味しいのか?》」

「・・・? 野獣さえイチ殺だぜ」

「Je vois, c'est tout. C'est super, allons-y.《なるほどそっちか。最高だ》」

「ごっつぁんデスっ!」


 そして足を1歩前に出し「おぉー!」と気合いを入れた3人は改めて来人と向き合うと、お互い肩を組み姿勢を出来るだけ低くし、体と地面が水平になるようにする。言わずもがな、ラグビーのタックルの姿勢である。


「おいおいおい!? それやったら後ろにいる紗奈花にまで犠牲になるぞ?」


 うっと少し躊躇した筋肉ダルマ三人衆だったが、目の端にこっそりと扉の前から避難した紗奈花の姿を確認するとその目は純粋に獲物を狙う野獣の目に変わる。


「クラウチ!」

「ちょ紗奈花ごと行くつもりか!? おい紗奈花なんとか言えって! ・・・ってあれ?」


 扉の方を向いて紗奈花を確認しようとした来人だったが、そこに紗奈花の姿はない。すると、教室の中心ら辺から今最も殴りたい者の声が聞こえる。


「来人! もっと腰低く! そんなんじゃ勝てないよ!」

「腐ってないみかんでも無理だろこれは!?」

「ファイト!」


 来人の雑言を十心が力強い大きな言葉でかき消す。


「来人もう来るよ? タックルが!」

「なら止めろよ!?」

「無理だよ〜私力ないし〜(笑)」

「加勢しろって意味じゃねぇ! あっちを止めろって意味だわ!」

「・・・ふぁ、ふぁいと〜」


 目の前にいる恐怖の権化に動揺が収まらない来人は藁にもすがる思いで紗奈花に助けを求めるも、紗奈花はガッツポーズをして応援をするだけ。


「セットぉぉぉぉぉ!!!」

「こなくそぉぉぉぉ!!!」


 筋肉ダルマ三人衆は来人に勢いよくぶつかりに行くと、自暴自棄になった来人は姿勢を低くし、そのスクラムという名の殺人タックルに立ち向かう──────


「あひゅっん」


 最後に残した情けない悲鳴と一緒に来人は後ろにあった扉ごと廊下に飛ばされた。


 そして、廊下には来人が散々お世話になっているこわーい生徒指導の先生の姿があり、今回もお世話になることが確定したとな・・・

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