第14話 図書館よりも動物園の方が静かだよね?
ぢゅらおです。
1回滝行行ってきます。
「では第1回! 三室来人を振り向かせるにはどうしたらいいんだ会議、いぇーい〜」
「いぇーいです!」
「いぇ─────じゃないな!? どういうメンツ!?」
「ご相談者と当事者及び司書だけど?」
「ご相談者以外全員おかしいな?」
「自分のことをおかしいと認めたんだね?」
「違うわぁっ!!」
図書館という施設...なんですかそれ?と言わんばかりの騒音が...失礼。奏音が響いている中心に来人はいた。
「まず大前提として、ご相談者のお相手がその場にいるのは間違いなく違うだろ...」
「・・・確かに。一理あるね」
「一理どころか少なく見積っても百理はあるな」
「まぁまぁ────細かいことは置いといて...それから?」
「なぁこれ俺の口から言わないとダメか?」
来人のこぼした不満よりの不満、つまり不満に司書と時雨はお互いの顔を見て首を傾げる。
「私には何も分かりませ...わからないね!」
「もちろん私もだよぉ〜」
「質問の答えになってないけどな?」
「ふーむ...なぞなぞですか...」
「断じて違うけど!?」
「いや司書さん...おそらくクイズかと」
「・・・なるほどそっちか!」
「同じじゃないのか!?」
なぞなぞとクイズは知ってる人もいるだろうが、実は同じでは無い。クイズはまぁそのままの意味、なぞなぞは言葉遊びだと思ってくれたら分かるだろう。
つまりこの場合は時雨が正解──────
「クイズは問い掛け、なぞなぞは言葉遊びだと考えたら...楽だよっ!」
「ほぉ〜...その持っているスマホさえなければ素直に褒められたんだけどな」
来人に指摘され、反射的にビクッと体が動いてしまった時雨は何事もなかったかのようにスマホをしまい、まるで戻しボタンを押したように数秒前と全く同じポーズ(スマホを持ってないバージョン)を作る。
「クイズは─────」
「うん無理がありすぎるな!?」
「いいね〜2人の息ぴったりぴったりピッピ君!!」
最近テレビでブレイクしてから見ない日はない鳥の妖精ピッピ君。そんな彼の決めポーズを真似している司書の姿を来人と時雨はわかっていたかのようなスピードでカメラに収めた。
「はいおーけーでーす。司書さんクランクアップですっあざしたぁっ!」
「あ! ありがざいやしたぁっ!?」
そこまで頭の中に入ってなかったのか来人の行動に無意識につられた結果、時雨語が生まれた。
「今思ってみると...長い撮影でしたっ」
うっと時々嘔吐きながら、感謝の意を述べる司書。その様子に観客の2人は「ありがとー!」「だ、大好きでしたー?!」など祝いの言葉を送っている──────
(ん?)
その1人。来人はやっと自分が何をしているか考えることが出来た。
(図書館、今さっき初めて会った司書が何故か感動のスピーチをしていてそれに拍手している俺と時雨さん...?)
さっきまで抜くのに時間がかかっていた株が少し身が出た瞬間ズルズルと軽い力でどんどん出てくるように、来人も自分の意識をどんどん取り戻した。
「・・・って俺らは一体何してんだァァァ──────!!」
その声に外にいたカラスは驚いて木から落ちるようにして飛び去り、来人達の反対側にいるブラジル人の方々はサンバを踊っていた。
「ちょっと〜いきなり大きな声出さないでよねー」
「あ! ん! た! が! そうさせたんだろうが!!!」
「私が何したって言うんだい...?」
「ここ!! 『図書館』だろうがァァ! どこのアリーナと勘違いしてんだよぉぉ─────」
地団駄を踏んで訴える来人を妙に優しい笑みで司書は来人の肩をグッと掴んだ。そして親指をピシッと立てると優しいを超えて恐ろしく瞳孔が開いている目を来人に向ける。
「モーマンタイノープロブレムだよ...?」
「な、何が問題ないんだ?」
「・・・私はこの場所の支配者だ...」
「来人さ...くる、くるっくー!!」
「そっちはそっちでどうした...」
「あ、なんか『くるっくー』だと言えそうなので呼び方これでもいいですか?」
「時雨さんがそれでいいなら構わないけど...」
「ありがとうございますっ!!」
やっと友達らしいことが出来た時雨はその場で堪えつつも漏れる喜びに身体を揺らしていた。
来人も今まで「様」と付けられたり何かと少し疎外感を感じていたため、時雨側から親しみを込められた事に心が喜びで満ちていた。
「くるっくー!」
「はーい」
「くるっくー?」
「はーい?」
「呼んでみただけっ...」
まるで初めて食べたものを噛み締めるように何度も何度も名前を呼ぶ時雨。
(なんだこの生物。可愛さの塊だったのか)
間違ってはいけないが、今この男が感じている可愛さとは人間が動物に向ける可愛さであり、人間に向けて使う感情とは違う。
しかしそれでも来人のこの感情を引き出すことが出来る人間は手で数えられるほど少ない。というか今のところ1人。
「うんうん。いいねぇ〜若いって〜」
そしてこちらも小動物を見る目をしている図書館司書|(笑)。先程までこの状態を疑問に思っていた来人も脳が完全に溶けていた。
そしてついにこの空間には可愛さの塊、それを見て癒される男、その2人を見て自分の刻んできた年を潤す女性だけが残った...
「で、では...改めてまして三室来人を振り向かせるにはどうしたらいいんだ会議をハジメタイトオモイマス─────」
「今回は俺も張本人だから強く言えないが、今更無理だな...」
「・・・先程の私を誰か殺してください...」
「無理だ時雨さん。諦めろ」
「う、うぅ...」
もちろん始まりがあれば終わりもある。いくらブレーキ役が居なくなったとしても、時間の経過で自分を見つめ直すことが出来た。
その結果その空間には喜びで先が見えてなかった者の羞恥。1度は気付いたのに、その後の雰囲気で流れに飲み込まれた者の反省。自分の歳を噛み締めた者の哀愁が漂っていた──────
「私、まだそんな...歳とってないもん...」
「自分で傷付けて自分でえぐってるよこの人...」
「来人君は慰めって言葉知ってる?」
「今使うべきじゃないのは知ってる」
「・・・そんなこと言わなくたっていいじゃないですかね...」
「くるっくー、私お嫁さんいけない...」
「うーん。その心配はしなくてもいい気が──────」
「大丈夫。25歳なのに未だに交際すらしたことないおばさんいるから...」
「・・・まじか」
「グハッ...25歳...」
「やはりこの人、自分で攻めるも受けるも完結する...これが本当のSMプ────」
「いいからぁ! これ以上グリグリしないでいいからぁ!」
真に迫った顔で司書は両手を顔の前で右左に振りながら来人のことを制止する。
(もう、や"め"て"ぇ...)
心の中の来人は土下座の体勢で手を少し伸ばしつつ、体全体がヒクヒク震えていて心なしかちょっとしたミイラとなっている。
というのも無理はない。例えるなら、豚骨ラーメン背脂マシマシを頼んだらご飯のマンガ盛りみたいに油が山を作っていて、さらにそこに小皿で追加の油が付いてきたぐらいの供給過多である。
いくら来人と言えどこの空間のキャラの濃さが需要の限界をとうに超えていた。しかもそれを薄める水役もない。
「あ...えっと、くるっくー? ・・・大丈夫?」
「いやばっちぐーでアウト、来世は犬がいい...な─────」
立ったまま床にガクッと崩れ落ちる来人を受け止めるように滑り込む時雨。
「・・・私、おばさんじゃないもん...」
自虐で病むモブキャラA。
「ははは。俺勉強しに来たのにな─────」
「あ!」
何かを唐突に思い出した来人を受け止めていた手を引き込め、パンッと両手を一合わせ。
そしてもちろん時雨によって支えられていた来人は鈍い音を鳴らし床に落下する。
「ん〜80点」
「おいこの野郎。目上の人に言い方荒くしたくないが、落ち方で点数つけるな」
「人間性...5点」
「悩んだ末に出した感やめて? それ1番心に来るやつ。OK?」
「総合0点」
「おっしゃ試合開始っと」
来人は前回りの原理で足の力だけで起き上がり、拳を目の前で2回合わせて見せて最大限の威嚇をする来人を時雨は後ろから優しくハグをして引き止める。
「やめて! 私、くるっくーが罪重ねるの...嫌だよ────」
「時雨さん...!─────おい待てこら。既に犯罪者である前提で喋ってる?」
「・・・ううん。わかってる。くるっくーは勉強しに来たんだよね? プルプルと体が震えてるもん。私にはわかるよ・・・」
「話噛み合ってないですし、あとこれ震えじゃなくて、軋んでる音なってるんだが...」
その言葉通り来人の体から「ゴキ...パキ...バキンッ」と聞くには苦しい音が響いていた。
時雨は少し照れたように顔を来人の背中に埋めるとボソッと呟く。
「私の愛...重い?」
「ううん! 非常に痛い...いやまじで痛い。痛い痛い痛い──────!!」
「こんな愛嫌だよね...ごめんねこんな重い女で...」
「あの、俺そろそろ逝くのですが...」
「まさか来人君よ。君はMだったのか!」
「ここで司書さん入ってくるの非常にダメだから! あとカタカナの方じゃなくて、漢字でしんにょうに折を書く方だよ!」
「・・・司書さん司書さんって...私には更月未夏っていう立派な名前があるんだけど?」
「くるっくー私思い出したんだけど、お勉強会で私たちお勉強してない...」
「ねぇねぇ〜更月様って呼んでよ〜」
「2人ともよーくよーく聞いてくれ...」
もうなんの話題をしてるのかすら怪しくなっていたこの状況残り少ない人生を賭けて来人は最後の言葉を2人に届ける。
「今までというか今もあんまりいい人生だったとは言えないけどまぁ振り返ってみれば悪くない人生だっt──────」
「ぶっわぁぁっくしょいっ!!」
目を閉じ落ち着いて話す来人の言葉を未夏は特大のくしゃみでそれをかき消した。
「ぐしゅぐしゅする〜・・・あ、ごめん続きをどうぞ?」
「・・・最悪の人生でした」
そして来人は時雨のバックハグという名の愛情固めによって帰らぬ人となったのだった...
ぢゅらおです。
全ての反省はこの予約投稿を終えた最後の話の後書きしたいと思いますので、しばらく後書き無言タイムが続くと思います。