第13話 女を泣かす男がダメ男なら女を泣かす女はいい女?
ぢゅらおです。
最近ちょっとセレブぶって朝にコーヒーを飲んで優雅に新聞を読もうとしたのですが、コーヒー苦いし、新聞は取ってないので砂糖入りホットミルクに動画見るという反対のところに落ち着いています。
無事勉強会も終わり、テスト前最後の週末を迎えていた来人は自分の家で優雅に茶を決めていた。
「今日はジャスミンティーで決まりだな〜」
ふんふん〜っと鼻歌を鳴らしながら慣れた手つきでお茶を入れる手つきは手より上を見なければモテる男子と言っても間違いでは無い。
世の中でモテる男の要素を知っているだろうか。「料理男子」「掃除男子」「気遣い男子」様々なモテ男がいるが、1つここで勘違いを正しておくことにする。・・・そうそれは...
「あぁ!? 好感度マイナスだぁ!? ふざけてんじゃねぇよこのバカヒロインがァ!」
そう『やればいい』って事では無い。品性がないと付いてくる物も付いてこない。
もちろん現実でジャスミンティーの『ジャ』も知らない来人が今向き合っているのはティーカップではなくPCモニターである。
昨日家に届いていた新作恋愛シュミレーションゲームを家に帰ってきてからかれこれ休憩無しでプレイしている。
「物って貢げばなんでもいいよなぁ? 貰う側が選ぶんじゃねぇ!」
勢いのままに机を叩く行為。つまり世に言う『台パン』常習犯である来人の机は叩いてる部分が分かりやすく凹んでいる。
その衝撃で机の端でかろうじてバランスを保っていたスマホも落ちてしまった。
「・・・あーあ」
左手で髪の毛をボサボサと掻き混ぜつつ右手で落ちたスマホを拾おうと手を伸ばした。が、机の下の暗い場所で音楽っぽい音がスマホからずっと鳴っている事に気付く。
「あれ、俺スマホから音楽流してたか?」
机の上にスマホを戻して改めて画面をよく見ると紗奈花からの電話だった。慣れない他人からの電話にどう出ようかと考えていたら音が鳴りやんでしまい、来人の頭に怒りに満ちた紗奈花の顔が浮かぶ。
「ま、スマホが近くになくて気付かなかったって事にすればいいか」
再びゲームに集中するためにベットにスマホをポイッと投げようとした瞬間また携帯が軽快な音を鳴らした。
今度はと悩む時間も作らずボタンをスライドして電話に答える。相手に顔が見える訳では無いので意味は無いのだが来人は椅子の上で正座をし、少しうなだれつつ会話の先手を取る。
『すいませんっでしたぁ!!』
『ひゃあぁっ!』
来人の耳に悲鳴とバタバタバタと何か物が落ちる音が聞こえてきた。
『びっくりしてスマホ落としちゃいました...』
『ご、ごめん...ってあれ、紗奈花では無い?』
『え? なんでお姉ちゃんだと思ったんですか?』
『あ、時雨...さん?』
『はい自他共に認める時雨です』
『・・・一応聞くけど隣に紗奈花居たりしないよな?』
『だからなんで...まぁ、居ないですが...』
『だったらいいんだが。で何か用だった?』
『あ、本題忘れるところでした...今図書館にいるんですが、場所わかりますか?』
「どの場所の?」と聞こうとした来人だったが、ここで1つ考え事のために顎に手を当てた。
(ここでどこ?って答えて相手に知らないんですかぁ?って聞かれるのは男としてどうなのか...ここはあえて肯定しといた方が今後のイメージにプラスになるに違いない...)
そう決意を固め口を開けようとしたが、先に時雨が発言する。
『あ、駅前の図書館です!』
『・・・あぁ駅前ね』
『・・・? 何か不満な事ありましたでしょうか?』
『いや、完全にこちら側の問題だから気にしないでくれ...』
『非常に気になるのですが...まぁわかりました』
その言葉の端々から伝わってくる感情に怪訝な面持ちをしている時雨の姿が容易に想像できた。
『では来れるという事で大丈夫ですか?』
『・・・まぁ特に暇していたと言えばそうなるしそうとも言えないと言えばそうなるし...』
『むぅ...どっちですか!?』
『あ、暇です。はぃ...』
『では待ってますので!』
『あ、りょーかいでーす...』
電話が切れ、来人は自分の体を投げるようにベットに横になる。
窓の外に浮かぶ白い雲をボーっと眺めながら、細く微笑みを浮かべつつ昨日の勉強会の事を思い出す。
(本当に楽しかったな...またやりたいって考えるのは強欲かな)
普段友達と遊ぶという行為が人より少ない来人にとっては勉強会の内容がどんなものであっても友達と泊まるそれだけで楽しいと感じるのは当たり前であった。・・・そう内容はどうであれ...である。
「あ...」
来人は特に物を持って行くつもりはなかったが昨日使ったリュックを取り出すと中身はそのままで足早に図書館へと向かった。
「来て頂きありがとうございます...」
「いえ。逆に図書館に居てくれてありがとうございます」
「へっ? え、えーっと...」
「素直に受け取って頂ければ幸いです」
「じゃ、じゃあ...ありがとうございます?」
「ところで...大体呼ばれた理由はわかるんですが、一応聞いてもいいですかね?」
「それがですね!!」
図書館の静音を破る声にカウンターにいた図書員の方々がこちらを向いて「お静かに!」と小声で訴えていた。
「本当にごめんなさいっ」とジェスチャーも混ぜて謝った時雨は大して怒られたという訳ではないのに目元には涙がうっすらと現れている。
「じょ、じょれでででしゅね...」
「うんうん。とりあえず1回涙拭こうか?」
「ず、ずいまぜん...」
ポケットから出した無使用安心安全真心を込めたポケットティッシュとすぐ近くにあった卓上式のゴミ箱をそっと時雨に差し出した。
ペコペコと謝りつつ目を拭いた後にチーンッと鼻をかんだ時雨はまだ若干赤みが残る目を来人に向け声を抑えつつも感情を言葉に乗せる。
「来人様...ものは相談であるのですが」
「俺に聞ける事なら全然いいですよ」
「そのぉ、あのぉ、えぇっと...」
両手の人差し指を当ててモジモジする時雨という光景は遠目から見ても近目から見ても美少女である事を体現していた。テレビに出ても多少の芸能人には負けず劣らずの雰囲気である。
「私も良かったら、来人様の事を友達感覚でお呼びしたいです...」
「...は?」
「あ、すいませんやっぱりなんでもないですこれは一時の迷いですそうです忘れてくださいいえ消してくだ──────」
「あ、全く持って怒ってるとかじゃなくてな? 俺らって友達じゃないのか?」
「・・・そっか」
「うん?」
「独り言ですっ!」
プクッーとほっぺを膨らまし、眉を眉間に寄せて「ぐぬぬ...」とかわいい牽制を来人に飛ばす。
「な、なるほど?」
「では、えぇっと...お友達、いや友達です!」
「じゃあ俺も...これで気軽に素を出していいんだな!?」
「えっ、出してなかったんですか? あれで?」
「いや、結構抑えてたつもりですけど...」
「本当ですか...あ、まじですか」
「ゆっくりと慣らしていけばいいと思うぞ?」
大袈裟に首を縦に頷きつつ「うんうん」と機嫌が良さそうに言う。その反面時雨はどこかまだ不満なご様子が身体から溢れ出ている。
「あの...もう1つあるのですが」
(さっきの願いのレベル考えると別にやばいことでは無いだろうしな)
「別にいいぞ」と言おうとしたのだが、パッと時雨の方を見てみると目が上目遣いになっていてほんのり頬が赤くなっていた。そう...これは完全なる無敵モード。先程まで美少女レベルくらいだったのがもうここまで来れば落ちる男はいない。
来人は顔に出過ぎていた赤みを咳払い1つで退けると視線を時雨より少し横に動かした。
「もう俺たちは公認の友達なんだから、気軽にな?」
「では気軽に言います...違う! 言うね!」
「ドンっときなさい!」
自分の胸をポンッと軽く叩いて余裕さを見せつけた来人だったが、同時にゾゾゾッと身体中に寒気が走る。
(この悪寒...やばい!)
数々の困難に立ち向かってきた来人の体には身体の機能に身の危険を感じた場合、頭にいる司令官来人が危険アラーム(悪寒)を流すという動物もびっくりの生命の安全装置が付いていた。
「あ! 待ってストッ...」
「頭撫でさせてくださいっ!!!!」
「付き合ってください!」のテンションで告げた時雨は仮にも異性に恥ずかしいことを言っている自覚があったために羞恥で体が押しつぶされるように感じた。
一方来人は言葉には出せないもっとやばめのことを想像していたために「へっ?」と頼りない声を上げてしまう。
「そうですよね、こういうのっておかしいですよね...私だってこんなこと言いたくありませんでしたけど、来人様がいけないんですよ! いいって言うから!! これじゃあ私がハレンチな女の子みたいじゃないですか!」
照れを隠しているようで全面に出してしまっている時雨の様子を見て来人は笑いを必死に堪える。が、それでも噛んでいる唇の隙間から細く声が漏れ出てしまった。
「笑わないで下さいよ!?」
「いやいやいや、無理無理無理」
来人は自分の膝をバンバン叩き、滲み出た涙を袖で拭きとる。そんな笑うレベル最高点の反応を見せた来人に時雨は本日2度目の別の意味の涙を浮かべ、来人の前腕ら辺の服をグイグイと引っ張る。
「・・・! 笑うの禁止ですっ!!///」
「ハレンチのラインひく、低すぎて...笑いが...く、くくく...」
「・・・もう!! けど頭なでなでして欲しいと思うのはハレンチではないのですか?」
「では時雨さんはオスの犬をなでなでするのはハレンチと思うのか?」
「それは思いませんが...」
「自分で作った物に愛情が湧きなでなでするのはハレンチなのかね!?」
「─────もう話題違いますよね!?」
「そうつまりハレンチとはっ!!」
勢いよく立とうとしたところ反動で来人の座っていた椅子が大きな音をたてて床に倒れてしまった。
「あ、やべやべ...」
そそくさと椅子を直そうとしたところ遠目に目をつり上げている図書員の人がクイクイっと手を動かしている。
(あ、これ怒られるやつですか)
心の中で悟りきった来人は空想のネクタイを正し、これまた空想のスーツのシワを伸ばすと素早くカウンターに向かった。
「あのぉ、先程も怒られたのにも関わらず...この度はえぇーと...」
「どうせ、人が集まらない図書館ですし、どうせ人が居ないからうるさくしたって文句言う人も居ないですし? 図書館って名前が付いてるのに本読まないことなんてもうどーでも良くなりましたし? 私も迷惑だと思った訳では無いので謝らなくてもいいですし? というかむしろ静かなの苦手なので結構嬉しかったとか思ってましたし? 最初は一応仕事を全うしなきゃと思って軽く注意したつもりだったのに泣かれて正直すごく心にグサッときたというかそれに─────」
「ちょ、ちょいちょいちょい...一旦止まってくださーい?」
「あ、私としたことがまたうっかりネガティブに...ごめんなサイとゴリラ! うっほっ」
「・・・」
どこかでなんならつい最近というか今さっき似たような口の回転を聞いた来人は「あ〜はいはい」と納得した様子でその場でしゃがみ、実に暖かい(冷たい)謝罪によって手で顔を覆うと持っていた疑念を吐き出した。
「なんで俺の周りにはまともな奴が集まらないんだァァァ!!!」
類は友を呼ぶ。とてもとても素晴らしい言葉である。